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小学生におすすめの新刊

【小学3年生から大人の方におすすめの新刊】『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』

教科書には書かれていない、ほんとうのこと

「ことばのいみなんて、わかりはしないけど、わかろうとしなくていいわけじゃない、ということさ」
「そういう、ことばにならないものが詩なんだよ」

「ひとは、もっと、ききまちがったほうがいい」「そう。だって、ことばは、ことばになる前は、ただのおとなんだ」
 

これは本の中で「ぼく」が「きみ」に語ることの一部です。

「きみ」はおそらく小学3年生か4年生ぐらいでしょうか。一方で「ぼく」はいい年をしたおっさんです。「きみ」は学校から家に帰る途中で「ぼく」の部屋へ立ち寄り、いろいろな話をします。ここで話されるのは、「ほんとうのこと」。一体、どんなやりとりが繰り広げられるのでしょうか。

さあ、表紙の「きみ」のように、早速ドアを開けて「ぼく」の部屋の中に入ってみましょう。

『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』

ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集

出版社からの紹介

わからなくたって、好きになっていいんだよ

きみはいつものように、あけっぱなしの玄関から、どんどんぼくの部屋にあがりこみ、ランドセルをおろしながらこういった。「せんせいが、おまえは本を読めっていうんだ。ことばがなってないから」。ぼくは一冊の詩集をきみに手渡す。「ここんとこ、読んでみな」。詩は、おもしろい。そして、詩はことばを自由にし、ことばはわたしたちを自由にする。20篇の詩を通して、詩人斉藤倫と楽しみ、考える、詩のことそしてことばのこと。

おすすめポイント

  • 「きみ」はその日あったことで気になることをなんとなく胸に持ちながら「ぼく」のところへやってきます。
    たとえば、「ゲームのほうが、ぜんぜん、おもしろい」と言ったら、先生に「ことばがなっていない」と言われたこと。
    国語のテストで、作者の気持ちが分かってないと間違いの答案がかえってきたこと。
    「ぼく」はそんな「きみ」の話を丁寧に聞きながら、「きみ」に詩を手渡していきます。「ぼく」は詩を通して何を「きみ」に伝えようとしたのか。そして「きみ」はどんなことに気づいていくのか。この本は、詩やことばとの出会いと気づきの記録です。「きみ」がことばと詩に本当の意味で出会っていくように、読む子どもたちもまたことばや詩の本質に触れられる作品です。
    また、ことばや詩について考えることは、答えのない問いに対して自分なりの答えを考える道すじのようでもあります。
     
  • 詩人のまど・みちお、長田弘、萩原朔太郎、辻征夫、石垣りん……など名前を目にしたことがある方から、おそらくはじめて知る方まで、たくさんの詩人や詩と自然な流れで出会うことができます。
     
  • ご自身も詩人である斉藤倫さんが紡ぐことばは深く、ハッとさせられる洞察のことばがたくさん出てきます。大人でも普段何気なく使っていることばに対して多くの発見が得られるお話です。

どんな子におすすめ?

  • とくにおすすめしたい年代は小学3年生ぐらいから中学生ぐらいに
  • 「ことば」についてよく疑問を持つ子は、ハマりそうです
  • 授業で、本題の内容よりも先生が脱線して話すハナシの方につい興味を持ってしまう子に
  • かつての「きみ」だった大人の方にも

ここが面白い!

  • 「きみ」がやって来る時、「ぼく」はいつも不意打ちにあったように「おう、っ」とか「うは、っ」とかいう挨拶をします。それはたいてい小腹が減って軽食の支度をしている時だから。そして毎回、「ねえねえ」というきみに「なんだあ」とぼくは答え、会話がはじまっていきます。いかにも待っていた、これから大事な話をするぞと肩の力が入っていない「ぼく」。そんな「ぼく」に心をゆるめてなんでも話せる「きみ」。その二人のやりとりがなんといってもこの本の大きな魅力になっています。
     
  • はじめは不思議に感じる「きみ」と「ぼく」の関係。けれども読み進めるうちに二人の関係の秘密が明かされていきます。「きみ」と「ぼく」との繋がりに、「きみ」の成長していく姿に、大人は涙してしまう場面があるかもしれません。
     
  • 「ぼく」が「きみ」に話すことばにハッとさせられるものがたくさんある一方で、「きみ」が「ぼく」に問いかけることばや、さまざまな気づきのことばには、おとなになる前の子どもの柔らかな感性がたっぷり表されていて、そんな「きみ」のことばを読むのもこの本の大きな楽しさです。

   たとえばこんな風……
   「こころと、ことばは、いっしょに、できたの?」
   「詩も、ことばと、ことばのあいだに、あるのかな? 読んでたら、すきまに、おっこちちゃう感じがした」
   「てんきよほうが雨だったのに、晴れちゃったひは、ほんとの晴れじゃない気がするよ」
   「きりんは、きりんになる前に、きりん、ていう、おと、なんだね」

 

  • 紹介されている詩が全部意味が分からなくても、きっとひとつぐらいはなんだか分かるなあ、とか共感する1篇があるはず! 自分だけのお気に入りの詩を見つけてみませんか? ちなみに、私が気に入ったのは、3章に出てくる辻征夫さんの詩「まつおかさんの家」でした。

いかがでしたか?
 

子どもから大人へと少しずつ成長していく時期の子たちにとって、ことばにするのは難しいけれど知りたい「ほんとうのこと」。とりとめないけれど実はけっこう重要だったりする疑問について気楽に話せる「ぼく」のような存在というのは、とても大切なのではないでしょうか。成長の過程で、本の中の「ぼく」のような近すぎない第三者の存在がいたらどんなに心強いことでしょう。けれども現実の世界で「ぼく」と出会うのが難しいというそんな時に、この本の中で「ぼく」と出会ってみるのはいかがでしょうか。


最後に、本の中からこんなことばを。

「くちずさむだけで、だいじょうぶだ、とおもえるような詩が、せかいにはたくさんある。
 その詩たちが、いつか、きみを、みちびくような、気がする」

斉藤倫さんの作品紹介

著者の斉藤倫さんは詩人として活躍される一方で、絵本や長編物語の文章も手がけています。
Twitter公式ページで、斉藤倫さんは『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』について、「これまでのまとめのような本」と言われており、この本を読んでから、逆にこれまでの作品も読み返したくなりました。装丁も凝っていて素敵な作品ばかりです。気になったものから手にとってみて下さいね。

秋山朋恵(絵本ナビ 児童書担当)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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