「論理的思考力」につながる絵本
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
どの科目、どの場面でも問われる「論理的思考力」
今回は、子どもたちの学習の場で最も聞かれるようになった言葉「論理的思考力」にせまります。
論理的思考とは、問題の解決のために物事の因果関係を整理し、筋道を立てて考える思考法のこと。前回は「読解力」を取り上げましたが、読解力で状況を把握したあとに問題解決のために必要なのが、論理的思考力です。
子どもが学校に通うようになってから痛感していますが、教育の現場では、「論理的思考力」が、どの科目、どの場面でも問われるようになっています。今後子どもたちが向き合っていく現代社会の課題に、解決方法がわかっていないものがいかに多くあるか、考えさせられます。
今回は、「問題がある→仮説を立てる→考察し推理する→証明し解決する」という論理的思考につながる絵本をご紹介します。
仮説を立てて推理する手順がよくわかる
アニメにもなり、いまや国民的アイドル、お話もキャラクターも魅力的で大人気の“おしりたんてい”は、その名の通り職業は探偵です。おしりたんていの本を見ると、ついその見た目に意識がいってしまいますが、その推理スタイルはしっかりと論理的思考から生まれています。
グレードアップしたおしりたんていの推理は必見!
『おしりたんてい むらさきふじんのあんごうじけん』には、
1 おぼえて
2 しらべて
3 りかいする
という、「すいりのための3かじょう」があります。
周りの物事を覚えていると、変化があればすぐに気づくことができます。その変化について調べると手がかりが見つかり、それをもとに状況を理解すると、理解から外れたものが見えてきます。
そこを問題点として推理することで解決に結びつく、というわけです。
論理的にまったく隙のない、見事な推理の展開です! おしりたんていは、その推理の仕方を読者にも伝えるため、まちがい探しや迷路などの遊びページも駆使し、楽しさ満点で論理的思考を伝えてくれます。
子どもたちが夢中になる「おしりたんてい」シリーズですが、論理的矛盾をついていくクレバーな推理スタイルが核にあったうえで、最後の最後にはみんな大好きな「ブフォーー!」で成敗する、そのかっこよさが人気なのだと思います。ほかにも「かいとうU(ユー)」や助手のブラウンなど、魅力的なキャラクターたちから論理的な学びを得ることのできる、すばらしいシリーズです。最新作では悪の組織の姿も見え始め、ますます目が離せません!
まさにプログラミング的思考!
2020年度から、小学校ではプログラミングの授業が必修化されました。この授業はプログラマーを養成することが目的ではなく、プログラミングを行う元となる“プログラミング的思考”を育むことが目的です。では、そのプログラミング的思考とはどういったものかというと、問題の解決のために筋道を立てて考えるという論理的思考の中でも、もっとも効率的な手順を考える手法です。問題解決には必要な手順があるということをプログラミング的思考によって学んでいきます。
そういったプログラミング的思考が、分かりやすく形となっている絵本をご紹介したいと思います。
あるあつい夏の午後、ありがすいかを見つけました。巣に運ぼうと思いますが運べるわけがありません。小さな小さなありの前に大きなすいか。さあ、ここから不可能を可能にしていくミッションの始まりです。
まず、巣に戻って多くの仲間を集めます。おおぜいで動かそうと試してみますが、びくともしません。そこから手順を考えます。
「大きすぎて運べない→運べるほど小さくすればいい→すいかを切り分けるありと、下に降ろすあり、巣に運ぶありで手分けしよう→すいかで巣がいっぱいになった!」
目的を決め、手順を考え、実行し、達成する。プログラミング的思考により、見事ミッションコンプリートです!
絵本では、ミッションを達成した後にちょっとしたお楽しみもあります。プログラミング的思考とはどういうものなのか、論理的に考え行動するとはどういうことなのかが子どもたちに楽しく伝えられる絵本です。
頭をつかって言い訳しよう
都合の悪いときに言い訳をすることは、大人も子どももよくありますよね。素直に謝らずごちゃごちゃ言うのは潔いことではありませんが、言い訳のつじつま合わせはなかなか頭を使います。頭をつかって相手を納得させてしまうおはなしが、こちらです。
子どもたちがついやってしまうクセ、それには、「りゆう」があるんです。
『りんごかもしれない』で大人気のヨシタケシンスケがおくる、親子で笑えるユーモア絵本!
ぼくは、ハナをほじるクセがある。おかあさんにいつもおこられる。りゆうは、「おぎょうぎがわるいから」だって。ぼくもなにかりゆうがほしい。ちゃんとしたりゆうがあれば、ハナをほじってもいいんじゃないだろうか。
ぼくがハナをほじるりゆう。それは、ぼくのハナのおくにはスイッチがついていて、このスイッチをたくさんおすと、あたまから「ウキウキビーム」がでるんだ。このビームは、みんなを楽しい気持ちにすることができるんだよ。
ツメをかんじゃうのは、ツメをくわえて、大人にはきこえない音をだしているんだ。この音は、ゴミすてばのカラスをおいはらうことができるんだよ。
びんぼうゆすりをしちゃうのは、モグラたちに、今日あったできごとを「モグラ語」で教えてあげてるの。
子どもたちがついやってしまうクセ、それには、「りゆう」があるんです。
主人公のぼくは、ハナをほじるクセがあります。おかあさんには、おぎょうぎが悪いと怒られますが、「りゆうがあればハナをほじってもいいんじゃないだろうか」と思います。
そこからぼくは、もっともらしい(本人にとっては)言い訳をつぎつぎと考えだします。
ハナをほじるのはハナのおくにウキウキビームのスイッチがあるから、ツメをかむのは、ツメをかむと大人には聞こえない音が出てゴミ捨て場のカラスをおいはらえるから。いろんな言い訳を考え出し、おかあさんをあきれさせていくのです。
ほかにも、びんぼうゆすり、ごはんをこぼす、いすのうえでジタバタする、ベッドのうえでビョンビョンしちゃう、ろうかやおみせでついはしっちゃう……などなど、あらゆる“ちょっとぎょうぎのよくないクセ”について、ぼくは真剣に言い訳します。どの言い訳もなかなか突拍子もないものばかり。でも、「しょーもないけど、そうだったら楽しいかもね」と思える言い訳に、お母さんも脱力してしまいます。結果的に「やめなさい!」と怒るのではなく、「きたなかったりおぎょうぎがわるいやつはなるべくひかえていただけるかしら?」というところに落ち着かせてしまうのです。
「論理的か?」というと、一見そうは見えませんが、「お母さんを納得させる」という目的に向かって自分の頭を使って交渉し、ついには問題を良い方向に着地させています。考え、実行し、問題を解決する、という点でみると、なかなかの論理的思考の結果とはいえないでしょうか? そこまで難しく考える必要はありませんが、「こんな場面で自分だったらどう理由を言うかなー」と考えてみても、自分の頭で考える練習になると思います。
それにしても、この絵本で出てくるおぎょうぎのよくないクセは、うちの子全部やってます……。男の子の生態が網羅された大変面白い1冊です。
論理的思考によってなにを解決すべきか?
さいごに、論理的思考力はどんなときに必要となるのか、が大変よくわかる絵本です。
1匹のうさぎが丸太の橋にかけこんできたが、後を追いかけたきつねも橋にとびのった。ところが橋が土手からはずれ、2匹が動くたびにシーソーのように揺れる。丸太のうえで2匹が……。
何日もふり続いた雨がやっと上がった日、いっぴきのうさぎがきつねに追いかけられていました。目の前には丸太の橋。「ここを わたって まるたを おとせば にげられるぞ」とかけこみました。後からきつねが追ってきます。「このまるたを わたらせなければ つかまえられるぜ」と飛び乗りました。きつねが丸太を踏みならして進むうちに、丸太が土手からはずれてしまいます。逃げ場をうしなったうさぎにきつねが近づきます。すると、きつねの重さで橋が傾くではありませんか。丸太の橋はシーソーになってしまったのです。どちらが動いても橋は傾き、雨が上がったばかりの濁流に落っこちてしまいます。2匹とも身動できず絶体絶命です。狩る側と狩られる側の2匹が、生きるためにどうやって力を合わせていくのでしょうか……?
うさぎは逃げたい、きつねは捕まえたい、気持ちは対立しています。しかし、ここでおたがいに死んでしまっては元も子もありません。そして、2匹は論理的に考え、「生き残る」という目的のために助け合うことを決めるのです。
このおはなしは、現代の社会問題にも通じないでしょうか? 世界にはさまざまな立場、考えの人たちがいます。たとえば、温室効果ガスの削減は、地球に住む生物にとって最重要ですが、同時に、貧困をなくしたいという考えの人々には経済成長が最優先事項です。共に生きていくためにはどう問題に取り組むべきか、一人ひとりが論理的に考える必要があるのです。
このように、答えのない問題にどう立ち向かうべきかを、2匹の思考から教えられる絵本です。
もう一冊、知恵によって力のある相手にどう立ち向かっていくかを描いた絵本をご紹介します。
どうやってきつねから逃げる?
きつねのだんなはねずみを見つけて聞きました。「鼻がどろんこ、どうしたんだい?」「巣穴をつくったのさ。なんだって巣穴を掘ったんだい?」「あんたからかくれるため……」きつねはねずみを捕まえようとしますが、ねずみの巣穴は、寝室・食料庫・逃げ道完備。見事に逃げられてしまいました。自然の営みを見事に語るロシアの作家ビアンキのお話の絵本です。
こちらも、狩る側と狩られる側のお話ですが、きつねより圧倒的に力の弱いねずみが、どうきつねに捕まえられないようにするか、知恵をつかうお話です。真正面からでは歯が立たない相手ですが、頭をつかって考えればどんな問題にも立ち向かうことができるよ、ということを教えてくれます。
さいごに
今回は、「論理的思考力」をテーマに絵本をご紹介しました。
論理的思考力という言葉がいろいろなところで言われるようになりましたが、正直なところ、いったい何のことやら?と思っていました。子どもの勉強を見るようになってようやく、「問題が提示される→解決するために筋道を立てるために考える→解決する」という思考方法だと分かってきました。
そうした視点で見てみますと、世の中の重要なことの多くは「論理的思考力」がないと太刀打ちできないのでは!と思うのです。勉強ももちろんですが、仕事や生活においても人には「目的」があると思います。その目的を達成するためには、どう取り組むべきか、どんな手順でのぞむべきか、現代社会は常に思考が求められる毎日です。
今年の夏、子どもが小学生になり初めての自由研究をしました。といっても、「研究って何?」状態ですので、親が手取り足取りいっしょにやるしかありません。心の中で山本五十六の格言「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじー」と何度も唱えながら、なんとかかんとか形にさせることができましたが、自分の考えが形となることは子どもにとっても新鮮だったようです。「わからない物事にたいしてどう取り組むべきか」という思考の体験ができ、自信となったことはよい経験でした。
人生は考えるべきことがたくさんあります。その連続を思うとちょっと疲れる気もしますが、他人の思考に乗っかって生きていくよりも、自分の頭で考え主体的に生きていくほうが圧倒的に面白いはずです。充実した人生につながるよう、子どもたちには「自分の頭で考える」ことをくりかえしていってほしいと思います。
自分で考え、それを何につなげることができるか、これらの絵本をきっかけに、ぜひ、親子で思考してみてください。
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。6歳と3歳の男児の母。
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