恋せよ中学生!10代に贈るラブストーリー特集
学校図書館であるあるな質問「なにか面白い本はありますか?」
この質問を掘り下げてみると、恋愛小説が読みたい! という人が結構多いんです。
直接はちょっと尋ねづらい、でも気になる!
そんな「恋愛小説」のオススメをご紹介します。
2月はバレンタインデーもありますね。
意中の人がいる人も、当分恋愛はノーサンキューな人も、
本の中での恋愛は自由です。
教室の恋、
切ない恋、
すれ違いの恋、
淡い恋、
恋への恋……
あなたはどの本から読みますか?
過去の連載だと
読書の秋! 中学生がどっぷりハマる? 小説特集
の『ディケンズ ショートセレクション ヒイラギ荘の小さな恋』
https://style.ehonnavi.net/ehon/2021/11/18_626.html
中学生の朝読書、すきま読書におすすめの本8選
の『恋話ミラクル1ダース』
https://style.ehonnavi.net/ehon/2021/09/30_596.html
も私イチオシの恋愛小説です。ぜひ読んでみてくださいね。
それでは、恋せよ中学生! 10代に贈るラブストーリー特集
いってみましょう!
10代に贈るラブストーリーのオススメは?
全編手紙で綴られる小説の、最後の手紙は・・・・・・
『あしながおじさん』
『福音館文庫 あしながおじさん』
孤児院で育った知性あふれる女の子、ジュディ(本名はジェルーシャ)は「あしながおじさん」の厚意で女子大学に通いはじめます。奨学金を与えてくれるためには条件がたった1つあり、それは「あしながおじさん」宛に月に1回手紙を書くこと。ジュディは孤児院の評議員である「あしながおじさん」の姿をチラリとしか見たことがなく、本名も知りません。そんな「あしながおじさん」に宛てて書かれた手紙だけで構成されているのが、この作品です。
名門の女子大学の寮で友達を得たジュディは、「普通の家族の暮らし」や「普通の子達が生活の中で知る知識」が自分に欠けていることを知ります。孤児院出身と思われたくないジュディは、「あしながおじさん」への手紙の中だけで、自分の素直な気持ちを打ち明けられるのです。返事をくださらない「あしながおじさん」にイライラして八つ当たりしたり、その後すぐに謝ったり。揺れ動く心情も手紙を通じて伝わってきます。作者のウェブスター自身が書いた手紙の挿絵(棒人間みたいでとっても味わいがあるんです)も可愛らしく、手紙だけで構成されているとは思えないくらいグイグイ引き込まれてしまいます。ジュディが大学で学問を学び、友達との日々の生活を通してどんどん成長していく様子が手紙の内容からわかります。
大学を卒業して作家を目指すジュディに気になる男性が……。そして、ついに彼から結婚の申込みが! しかし、孤児院出身ということを名家出身の彼に伝えられず、ジュディは断ってしまいます。その一部始終を「あしながおじさん」への手紙で伝えた後、ジュディにやってくる奇跡とは?
読み終わってラブ・ストーリーと分かる、極上の作品をお楽しみください。
さて、この本が最初に日本語に翻訳されたときは、別のタイトルが付けられていました。大正12年に東健而が訳したもので、なんと『蚊とんぼスミス』と題されました。英語の原タイトルは「Daddy-Long-Legs」、これは蜘蛛のような虫を指しているので、あながち間違いでは無いのです。今親しまれている『あしながおじさん』のタイトルは昭和8年に出版された遠藤寿子の翻訳からです。親を亡くした子を支援する団体「あしなが育英会」はもしかしたら「蚊とんぼ育英会」となっていたのかもしれませんね!
ラブストーリーの古典といえば! みんなご存知、この作品!
『ロミオとジュリエット』
『研究社シェイクスピアコレクション ロミオとジュリエット』
『ちくま文庫 シェイクスピア全集2 ロミオとジュリエット』
世界で知らない人はいないシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』。バレエや映画にもなった有名作品で、実は「ロミオとジュリエット効果(困難があったほうが目的を達成するためのモチベーションが上がる)」という心理用語もあるんですよ。
あまりにも有名なこの作品、作品名は知っているけれど、内容はあまり知らない……という人も多いのではないでしょうか。
この作品は戯曲(お芝居のシナリオ)の形で書かれているので、「ちょっととっつきにくいなぁ」と思う人がいるかも知れません。しかし! 読み始めてみればのっけからエッチな会話が登場し、それほど読みづらくはないんですよ。どんなエッチな会話かって? ええと、私の口からは言えません……。
ロミオ(モンタギュー家)とジュリエット(キャピュレット家)は互いに敵対する家柄の息子と娘です。恋してはいけない家柄なのに、あっという間に恋に落ちてしまう二人。二人の恋は、もう誰にも止められないほどに燃え上がっていきます。窓際のジュリエットに求婚するシーンを映像で見たことがある人も多いでしょう。
さまざまないきさつでロミオはジュリエットのいとこを殺害してしまい、二人の恋は絶体絶命に! なんとかして結ばれようと、策をめぐらしますが、それもむなしく恋は悲劇を迎えるのです……。
『ロミオとジュリエット』のストーリーは悲劇ですが、次々訪れる死や台詞回しが滑稽でもあり、ちょっとドタバタのコメディとも読み取ることができます。上演したらきっと大爆笑コメディです。
私はヒロインであるジュリエットの行動力や勇気にすっかり魅了されました。ロミオは……あまり魅力を感じなかったのですが、みなさんは読んでどう感じるでしょうか。
『ロミオとジュリエット』を読んだら、この作品のストーリーを踏襲したアメリカのミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』もぜひ読んでみてください。新訳版が文庫で2021年の終わりに出たばかりです。
『ロミオとジュリエット』のストーリーを踏襲したアメリカのミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』
少年ギャング抗争の間で生まれた、禁じられた恋。伝説のブロードウェイミュージカルのノベライズを、新訳で刊行。解説/大串尚代
2022年2月11日からは映画の巨匠スティーブン・スピルバーグ監督がこの作品を映画化! アメリカの対立をテーマにした現代版ロミオとジュリエットである、この作品。映画も本も、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を楽しんだ後なら、理解もぐっと深まるはずです!
☆戯曲(劇の台本形式)がちょっと苦手で、物語としてストーリーを楽しみたい人は、表紙絵の可愛い(分かりやすい人物相関図も載っています)角川つばさ文庫版もおすすめです。
『角川つばさ文庫 ロミオとジュリエット』
優しすぎて、もどかしい! 切ないくらいに純粋な、学校図書館を舞台にした恋物語
『吉野北高校図書委員会』
徳島市の高校の図書委員たちの、恋と、友情と、学校生活を描いた小説です。
高校2年生のかずらは、図書委員会内でも屈指の読書家です。同じ図書委員で、勉強もスポーツもでき、おまけにかっこいい大地とは、読書の趣味も合う友達。そう、心置けない男友達。
ある日、図書委員会の可愛い後輩あゆみが大地に告白し、二人が付き合い始めたことに、かずらは動揺を隠しきれません。そして図書委員会内には、動揺するかずらを案じ、ひそかに恋する男子がいて……恋の導線が! 絡まっております!
この小説の推しポイントは、登場人物すべてが魅力的なところ! 相手を思う気持ちや優しさゆえに、悩んでしまう彼らですが、図書委員メンバー全員が、心からいい人なんです。
もう一つの魅力は、交わされる徳島弁(阿波弁)のあったかさです。
「あんな、俺、好きな人ができたんよ」「まあ、別に言わんでもええんやけど。ちょっと気になったけん。」
やわらかくて、耳に心地よい徳島弁で綴られる会話で高校生の日常生活を読み進めると、吉野北高校図書館の司書室兼委員会室に自分もいるかのような錯覚に陥ります。
甘酸っぱくて、切ない図書委員の青春物語は、文庫で3巻まで出ています。カバーイラストの今日マチ子さんの絵でコミックにもなっています。
そうそう、著者の山本渚さんは、徳島市の高校で図書委員を務めていたそうですよ!
シャイな男子のまっすぐな恋心を受け止めてみたいあなたに
私立中学入試の国語の問題文に多く採用された、この小説。本来、大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを、日常的に行っている子ども(=「ヤングケアラー」)の少女を題材としています。この作品によって、中高生を含む多くの人々が「ヤングケアラー」という存在を知ったといっても過言ではないと思います。
でも、この作品『with you ウィズ・ユー』は極上の恋愛小説でもあるのです(声を大にして伝えたい!)。シャイでちょっと屈折した男子の、直球どストライクな恋心を味わえる、とっても素敵な恋愛小説なんです。中高生の恋愛小説における、普遍的かつ王道ともいえるこの作品。最近この手の小説は少ないので、「希少価値も高い」おすすめ作品です。
主人公の悠人は高校受験を控えた中3男子。悠人はパートの母と、小さい頃から何事にも秀でた兄との、つつましい3人暮らしです。悠人は、見た目も頭もかなわないと思う2歳年上の兄と、周囲から常に比べられて劣等感を感じています。自分は期待されず、愛されていないのではないかと、家の中で孤独感を感じ、閉塞感を破るように夜のランニングが日課になっています。そのランニングの途中、偶然公園で見かけた少女の、ただならぬ思い詰めたような様子が気になってしまいます。
悠人は何かを背負っているような公園の少女朱音と、つかの間の会話を交わすうちに、次第に心惹かれていきます。立派なマンションに住むお金持ちの家の子、と思っていた朱音は、病気の母に代わって幼い妹の面倒を見るために、中学生活すら十分に行えていないということが分かり……。
悠人の気持ちは、恋? それとも同情? 会える時間が限られている二人は、互いの思いを確認することすら困難です。それでも二人は、少しずつ心を近づけていきます。どこか冷めたような悠人が、朱音への気持ちを募らせていく様子には、キュン死しそうになります(ご注意ください)。
誰かの困難を打開するには、「思い」が必要です。主題である「ヤングケアラー」は新しい社会問題ですが、「思い」が人を動かすということは普遍的なもの。古代から人を悩ませ、喜ばせてきた「恋する気持ち」と正面から向き合うことのできる作品です。
恋に、友情に、進路と悩みが尽きないあなたに
『講談社文庫 ジョナさん』
神奈川県横浜市にある鴨居という町を舞台に、高校生の女の子の繊細な心情を描いた小説です。主人公のチャコは高校2年の夏を迎え、ジリジリと迫る進路選択に焦りを感じています。おじいちゃんが自宅介護の末に亡くなってから、家はより一層バラバラになって、チャコは息苦しさを感じています。そんなこともあって、日曜日にはおじいちゃんが可愛がっていた犬のギバちゃん(このネーミングの理由は是非本で確かめてみてください!)と、おじいちゃんが通っていたゲートボール場に散歩に行くのがならわしになっているチャコ。ある時、ゲートボール場でギバちゃんと散歩中のチャコは、「異様にかっこいい」茶髪の年上男性に話しかけられます。スーパークールな大親友トキコは、そのイケメンを「ジョナさん(仮)」と名付けます。
幼い頃から偏見にさらされてきたトキコと、恋と進路に悩むチャコは、実の親よりはるかに分かりあえている親友同士。大喧嘩をしたり、家族や恋の悩みを打ち明けあったり。ぶつかりながらも、ぐるぐるに絡まった糸が少しずつほぐれていくように、おのおの悩みながら少しずつ自分の方向性を模索していきます。
チャコは、恋に落ちた相手「ジョナさん」と週一回短い話をすることを楽しみにしていますが、転機はある日突然に……。
登場人物の繊細な心情と、何者でもない高校生の閉塞感が、絶妙なこの小説、なんと著者の片川優子さんはオンタイムで(つまり片川さんが高校2年生の時に)書いた作品なのだそうです!
中学生のみなさんにとって、高校生はだいぶ大人に見えるかもしれませんが、家族のことや進路のことなど共感できるポイントがたくさん詰まっているはずです!
「めっちゃカッコいい彼氏が欲しぃぃ〜!!」とあなたの代わりに叫んでくれる小説
『ガールズ イン ラブ』
主人公のエリーは、パパと、パパの再婚相手である若いアンナと、その息子エッグとロンドンで4人暮らし。アンナのことは嫌いではないけれど、エリーの生みの親である、亡くなったママのことは忘れられずにいます。
女子中学では、大人っぽいマグダと幼馴染のナディーンと、いつも一緒。そんな仲良し3人組は9年生(誕生日が来ると14歳になる、日本では中学2年生にあたります)の新学期を迎えたばかり。エリーもマグダもナディーンも、異性が気になるお年頃! この本の目次の次のページにはエリーの「これがだいじ」トップ9の手書きリストが載っていて、最後に「そして…カレシを見つける!」と載っています。(本書のところどころにあらわれるこのリスト、とっても楽しいんです)
新学期早々、「異性には興味がない」と言っていたナディーンに(大学生の!)彼氏ができたことが判明したからさあ大変! 大人っぽいマグダは近所の男子中のグレッグに速攻猛アタック! エリーはうっかり「やだ、わたし? じつは、こっちにもカレができたのよ」
と口からでまかせを言ってしまいます!
妄想? 彼氏のダンとは、夏休みにウェールズで出会った、年下で、チビで、ドジで、獅子っ鼻に眼鏡のイケてない男子。エリーは、ウェールズのダンのことは眼中にないのですが、時々近所で会うきれいなブロンドの髪に大きな鳶色の瞳を持つイケメン男子とまぜこぜにして、ブロンドで鳶色の瞳のダンが彼氏なの、と偽って話してしまいます。
異性に興味津々! 出会いがほしい! 彼氏が欲しい! と実生活ではなかなか大声で叫べないものですよね。この『ガールズ・イン・ラブ』の登場人物たちは、実にストレートにその気持ちを表したり、行動したりするので、読んでいて痛快です。
物語は、熱烈にエリーを思う、(イケてない)ダンから次々届くラブレターとともに、親友の失恋も絡んで波乱万丈に進んでいきます。そして、エリー、マグダ、ナディーンが参加するパーティーに突然(イケてない)ダンが乱入してクライマックスに!
ついに嘘がバレたエリーはどうする? 中学生らしい悩みでいっぱいのエリーに共感しつつ、エリーを一途に愛するダンの真剣さもぜひ味わってみてください。
そして、小説内には先程紹介した『ロミオとジュリエット』が2回登場するので、そちらもぜひ確認してくださいね。
花魁になる運命を背負った少女の淡く、悲しい恋物語
『たけくらべ』
『集英社文庫 たけくらべ』
2021年の終わりから「鬼滅の刃」遊郭編がTVアニメで放映されていますね。遊郭編の舞台となっているのは江戸時代に幕府公認の遊女屋がある一角、吉原。
紹介する作品、「たけくらべ」の舞台は、吉原の宴の音が聞こえるくらい近くにある大音寺前です。
主人公は、吉原の遊女屋「大黒屋」の人気花魁を姉に持つ、数え年14歳の美登利です。姉に勝るほどの美しさに、気前も面倒見も良い美登利は、子どもたちの派閥「表町組」で女王様のように君臨しています。かたや粗暴な子の多い「横町組」には、間もなくお坊さんになるための学校に入学する龍華寺の信如が担がれています。互いに対立し合う横町組と表町組ですが、美登利は心の中で信如のことが気になっていて……。
この作品、みなさんにはちょっと馴染みのない「文語体」という形式で書かれています。「竹取物語や源氏物語のような古典??」と思う人もいるかも知れませんが、明治に書かれた作品なので古典ではないのです。話し言葉とは違う、格調高い書き文語の文章を、中学生の皆さんに楽しんでほしくて選びました。
「鬼滅の刃」に出てくる遊郭を思い出しながら、文字を追ってみませんか? 江戸っ子の切れのある威勢のよい感じや、当時の着物や生活品の美しい描写が立ち上ってくるようですよ。「どうしても無理……」という人には、現代語訳もオススメです。でも文語の歯切れの良さ、
さて、「たけくらべ」の美登利と信如は互いに気になるものの美登利の誇り(遊女として男性に性を買われる運命と、裏返しのプライドのように感じます)と、シャイな信如の性格が災いして、二人はすれ違いばかり。そして、互いの思いが伝わらないまま、二人は大人になるためにそれぞれの道を歩むことになります。別れの前の美しい出来事、美登利が急におとなになる様子など、美しくて切ない描写が短い作品の中にギュッと詰まっています。私のオススメポイントは、美登利を姉のように慕う優しい正太。美登利には子ども扱いされますが、正太の一途な思いは必読です!
おわりに
10代のみなさんにオススメのラブ・ストーリー特集はいかがでしたか? まだまだ紹介しきれない作品があります。いつか、続編をやってみたいです。みなさんは、切ない恋、もどかしい恋、ラブラブな恋、どんな作品がお好みですか?
今回も絵本ナビスタイルの読者さん限定の音声スペシャルコンテンツを用意しています。私の大好きな、ラブストーリーの傑作絵本をご紹介していますので、ぜひ聴いてみてくださいね。
今回のスペシャルコンテンツ
「学校図書館ラジオ」を配信しているstand.fm で「音声版、ちどりのオススメ!今月のもう1冊」を聴くことができます♪
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連載【現役学校司書が本でCheer Up! 中学生に読んでほしいオススメ本】では、読者のみなさんからの感想や質問を募集しております。アンケートよりご意見をお寄せください。
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山下ちどり
現役学校司書。
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