2022年の児童書総まとめ! ①新刊おすすめ情報(小学校低学年から高学年まで)
2022年も児童書の新刊がたくさん刊行されました。ロングセラー作品や定番も読んでおきたいけれど、今の時代の空気が感じられたり、現代の子どもたちの興味に合った新刊はとってもワクワクするもの。
こちらでは、2022年に出版された児童書の新刊の中から、主に小学生向けの読み物のおすすめ新刊と注目本をピックアップして、ご紹介していきたいと思います。一部、中学生や大人向けの作品もありますが、こちらもぜひチェックしてほしい注目作品になります。
それでは、出版月ごとにご紹介します。
2022年児童書おすすめ新刊・注目本
2022年1月の注目新刊
『おてがみほしいぞ』
ある日、ゆうびんやのヤギが手紙を配っているのを見かけたオオカミのギロン。手紙を受け取った動物たちが嬉しそうな姿を見て、自分も手紙が欲しくてたまらなくなります。でもどうやったら手紙がもらえるのだろう?
手紙をもらうために奮闘するオオカミと、ゆうびんやのヤギのやりとりに注目ください。
ヤギの郵便屋さんがせっせとお仕事、お手紙もらったリスやウサギは、みんなうれしくておおよろこび!そんな様子をうかがうオオカミのギロン、うらやましくってしかたない。
おれだって、おてがみほしいぞ!
でもギロンには、ともだちがいない。オオカミのギロンを見るだけで、ウサギもヤギもガクガク、ブルブル。だからギロンはいままで一度も、手紙をもらったことがない……。
機嫌が悪いとキバをむきだし、おおきな声でどなったかと思えば、手紙をもらえないさみしさに、シュンと弱々しくうなだれる。みんなから怖がられているけど、とてもすなおで、ちょっぴりさみしがりなギロンの、愛らしいキャラクターがみどころです。
そんなギロンが、生まれてはじめての手紙をもらうために奮闘!
自分から手紙を書けば返事がもらえると知ったギロンは、さっそくペンを手に取ります。ところが、ともだちも、家族も、親戚もいないギロンには、手紙を書く相手がだれもいません。そこでギロンは、すごいアイデアを思いつきます!
そうだ! 自分に宛てて、手紙を書こう!
自分で自分に手紙を書くのは、なんともおかしな気分。なかなかうまくいきませんが、なんとか書きあげた一通を、ワクワクしながらポストに入れます。
ところが、待てども待てども手紙は届きません。自分から自分へと届くはずの手紙が、いったいどこへいったというのでしょう? 消えた手紙を待つうちに、思いもよらない出会いがあって──?
言葉や名前を通じて、人とわかりあう。そんなあたたかさとワクワクに、あらためて気づかせてくれます。
(堀井拓馬 小説家)
『コロキパラン 春を待つ公園で』
冬の公園にやってきた甘いチョコレートと、おとぎばなしのようなオルゴールの調べ。そこに似顔絵を待ったり、できた絵に喜んだりするワクワクした気持ちが、春を待ちわびていた小さなものたちを呼び寄せて‥‥‥。
春を待ちわびるみんなに届けたくなるようなささやかな魔法が詰まった物語です。
ある二月の日曜日、広い公園の真ん中に開店したチョコレート屋さん『ムッシュ・チョコット』。チョコにそえるカードに、あげた人の似顔絵がついていたら、もらった人はきっとうれしいにちがいない。そう思いついた店長さんのお手伝いで、チョコを売る係の森田さんと一緒に、似顔絵をかく係となった「わたし」。
コロキパラン‥‥‥キロラポン‥‥‥
コロキパラン‥‥‥キロラポン‥‥‥
開店準備をしているわたしたちのところに時おり流れてくるきれいなオルゴールの調べ。それは、少し離れたベンチのそばで、ひとりのおじさんが車輪つきの大きな木箱のハンドルを、ゆっくりゆっくり回すところから聞こえてきます。「楽しいっていうか、ふしぎっていうか、なんだかおとぎばなしみたいな感じ」と喜ぶ店長。いよいよお店の開店です。
「まあ、似顔絵をかいてもらえるの?」
チョコを買ったお客さんがつぎつぎに、「わたし」の前に座ります。
キュイ(ちら)、キューイ(ちら)、ショショショ(ちらちら)、サッサ、キョイキョイ‥‥‥。
ペンを走らせながら、実は似顔絵を描いたことのない「わたし」は複雑な気持ちです。
それでも目をキラキラさせ、口元でわずかに笑いながら、似顔絵を楽しみに待つ人たちをがっかりさせてはいけないと懸命にペンを走らせます。
へたくそなのがばれないように、そっくりに。でもちゃんとすてきに。
そうしてようやく筆がのってきた頃、つぎつぎに小さくてかわいらしいお客さんがあらわれて‥‥‥。
冬の公園にやってきた甘いチョコレートと、おとぎばなしのようなオルゴールの調べ。そこに似顔絵を待ったり、できた絵に喜んだりするワクワクした気持ちが、春を待ちわびていた小さなものたちを呼び寄せたのでしょうか。
やわらかくリズミカルなたかどのほうこさんの文章は心地良く、小学4年生ぐらいからすいすいと読めてしまうような楽しさがあります。また、網中いづるさんが描く色彩豊かで心が浮き立ってくるような挿絵は、まるごと春の喜びを感じさせてくれるよう。
春を待ちわびるみんなに届けたくなるようなささやかな魔法が詰まった一冊です。
『ケケと半分魔女 魔女の宅急便 特別編その3』
「魔女の宅急便」スピンオフシリーズの第三弾が発売に!
『魔女の宅急便 その3 キキともうひとりの魔女』に登場した自由奔放で小生意気なケケが、大人になって書き上げた物語です。
本編第3巻に登場したケケが大人になって物語を書き上げました。タイトルは「半分魔女―もうひとつのものがたり」。主人公のタタは4歳で母親を亡くし、いつも自分は“半分”だと心もとなく思っている女の子です。周囲に反抗ばかりしていた十代のある夜、タタは屋根裏部屋で母親が残した〈おわりのとびら〉という本を手にし、そこに書かれていた奇妙な言葉にひとり旅立つことを決意します。それは、“半分を探す旅”でもありました。
「魔女の宅急便」スピンオフシリーズ第1弾と第2弾はこちら
2022年2月の注目新刊
『のはらクラブのこどもたち 新装版』
たかどのほうこさんの楽しい絵童話「のはらクラブ」シリーズが新装版として再登場! 春夏秋冬それぞれの季節の草花についておはなしを通して楽しく知ることができます。ちょっとした不思議もあってドキドキワクワク。こちらは、のはらおばさんとのんちゃんと七人の女の子が出会った最初のお話です。
野原が大好きなのはらおばさんは、子どもたちを集めてお散歩をしようと思いつきます。ルールは、知っている植物を見つけたら、それについて話すこと。おもしろそうだと集まった子どもたちと、近所に住むのんちゃんも一緒に、さあ出発!
すずめのかたびら、からすのえんどう、ねこじゃらし。意外にも、動物の名前が入っている植物がたくさん登場します。いろいろな呼び方、遊び方、名前の由来などなど、子どもたちが披露する豆ちしきは大人もたくさん学べる内容で、仕入れたら誰かに教えてあげたくなっちゃいます。
お待ちかねのお弁当タイムでは、ちょっとしたミステリーが起きるので、いっしょになぞときをしてみましょう。ヒントは、集まった子どもたちの名前と披露した豆ちしき。わからなかったら、すぐにパラパラっと前のページに戻って読み直すのがおすすめです。
いつの間にか不思議ワールドに迷い込む、たかどのほうこさんの人気シリーズ「のはらクラブ」の新装版。こちらは、おばさんとのんちゃんと七人の女の子が出会った最初のお話です。同じく新装版となった冬のお話『白いのはらのこどもたち』も合わせてお楽しみくださいね。
(中村康子 子どもの本コーディネーター)
「のはらクラブ」シリーズ春夏秋冬のお話はこちら(新装版で再登場!)
『牧野富太郎 植物の神様といわれた男』
2023年4月より始まるNHK朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルである植物学者・牧野富太郎の人物伝。ドラマの前に、またドラマを見ながら、読んでみませんか。「一つのことに打ち込む尊さを学ぶのに牧野以上の人物はいないだろう」と言わせるほど、研究に打ち込むとてつもない情熱。「もっと知りたい」という探求心。わかるまで調べるあきらめない気持ち。牧野富太郎の人間性が伝わってきます。
明治元年、6歳になり、名を改めたひとりの少年がいました。
病弱な体ながら、野山をかけまわり草花や生き物を愛する彼は、目に映る自然の様々なことに疑問を持っていました。なぜ春になると花が咲くのか。なぜ夏には葉の緑が濃くなるのか。なぜ秋には実をつけ、冬には歯を落とすのか。
少年はそうして抱いた疑問について徹底的に調べようとする性格で、一度など、希少な時計の仕組みを見ようとして、それをバラバラに分解してしまったほど!
彼は裕福な祖母に支えられて学問の道を進み、身近な自然への愛を深めながら、やがて、壮大な夢を抱くことになります。それは、この地球に生きるあらゆる植物を網羅する、大植物目録の完成!
しかし、その道は途方もない苦難の旅路だったのです。
少年の名は、牧野富太郎。日本植物学の父にして、植物の神様と呼ばれた男──
40万にも及ぶ膨大な数の標本を作成し、1500種類の植物に名前を付けた植物学者、牧野富太郎の生涯!
みどころは、富太郎が抱く植物への、ほとばしる愛! 愛! 愛!
何歳になっても少年のように目を輝かせて植物を追いかけ、体力の続く限り野山をめぐり、全身全霊で植物研究にのめり込む富太郎の様子は、「夢中」という言葉でもまるで足りません。
用事があるからと遠方へおもむけば、ついでだからと言って列車を使わず、何週間も歩いて帰って植物採集。
ある山では、日帰りで登頂するはずが植物採集にのめり込むあまり、遭難寸前に! 翌日に救助隊が助けに来てくれたあとにも下山せず、けっきょく三泊もして山の草花を採ったというのだからおどろき! しかも下山後には、疲れ果てているはずなのに休みもせず、採取した草花の整理に取りかかります。
富や名誉にも興味はなく、ただひたすらに植物への愛を貫き通すその執念は、ともすれば恐ろしくも思えるほどです。
しかし、そんな富太郎の前にも、数々の逆境が立ちはだかります。
標本を保管しておくために大きな家に住み、研究にもお金を惜しまず、そのために裕福だった実家は傾き、貧乏に。富太郎は長年、つらい貧困と戦い続けることになります。また、大学という組織の中では、だれもが富太郎の研究を応援してくれるわけではありませんでした。そのうえ、激しい戦争や、最愛の子どもの死までもが、富太郎にのしかかることに──。
夢と現実とのはざまで葛藤しながら、何度も襲いかかる逆境にあらがい、それでも自分の「好き」を貫き通す。そんな富太郎の生き方が強く胸を打つ一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
2022年3月の注目新刊
『赤毛のアン』
日本に『赤毛のアン』が登場してから70周年を迎えた2022年に、日本に最初に紹介した村岡花子さんの訳に改訂を施した美しい愛蔵版が刊行されました。はじめて『赤毛のアン』と出会う小学校高学年の子どもたちにおすすめです。想像する力で、自分を幸せにする方法を知っているアン。アンの空想好きの性格が巻き起こす大騒動には、楽しいエピソードがいっぱいです。
緑の切妻屋根の家、グリン・ゲイブルスを舞台に、
アンが大まじめで引き起こす大騒動が、みんなをしあわせに!
1952年、村岡花子によってはじめて日本に紹介された『赤毛のアン』。
親子3代で人気のある村岡花子の美しい訳が、邦訳70周年の2022年、これから読み継ぎたい改訂版となりました。
気鋭のイラストレーター北澤平祐と人気の装丁家・中嶋香織とによる、
クラシカルかつ可愛い装丁で、名作がよみがえります。
プレゼントにも、自分で持っているにも、ぴったりの一冊です。
<中学生以上の漢字にルビつき>
合わせておすすめ。
『エーリッヒ・ケストナー こわれた時代』(中学生から大人の方向け)
児童文学作家として知られるケストナーの生涯を、本人の言葉の引用などを通して描いた伝記。ドイツ児童文学賞受賞作。『ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家』(1999年刊行)の新訳です。こちらは中学生から大人の方に。
母の期待に応え、優等生ぶりを発揮した子ども時代。作家、詩人、ジャーナリストなど多方面で文筆活動をこなし、精力的に活躍した二十代。一転、ナチ政権下で執筆を禁じられ、命の危険にさらされながらも生きのびた第二次世界大戦。そして、戦後は、ドイツ・ペンクラブ会長として活躍し、平和を訴えつづけた。
本書はまた、母親との強い絆、出生の秘密、恋人との関係など、プライベートもつまびらかにする。
運命に翻弄されながら時代を見つめ、人はどう生きるべきかを問いつづけたケストナーの人生にせまる一冊。
2022年4月の注目新刊
『目で見ることばで話をさせて』
かつて聞こえる人も聞こえない人もわけへだてなく、みんなが手話を使って話をしていたという実在の島マーサズ・ヴィンヤード島を舞台にした歴史フィクション。この島に暮らす、11歳のろうの少女メアリーによる自伝、という形で語られます。
わたしは物語を作るのが好き。11歳の少女メアリーは、島のだれとでも手話で話し、いきいきと暮らしています。一方馬車の事故で死んだ兄さんのことが頭を離れません。ある日傲慢な科学者に誘拐され、ことばと自由を奪われて……。手話やろう文化への扉を開く、マーサズ・ヴィンヤード島を舞台にした歴史フィクション。
2022年5月の注目新刊
『ミルキー杉山のあなたも名探偵ガイドブック』
1992年に刊行開始、2022年でシリーズ刊行30周年を迎えた「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズのガイドブックが刊行になりました。「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズは、「事件編」と「解答編」に分かれていて、主人公であるミルキーと一緒に推理を楽しめるところが人気です。本書は、登場人物紹介に、自分にぴったりの巻がわかるチャート診断、ファン度が試されるミルキークイズ、作者・杉山亮さんへのQ&Aコーナーなどなど、ファンにはたまらないガイドブックです。これから出会う子どもたちにも。
読者参加型のなぞときが人気の「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズ、初めてのガイドブックです。
ミルキー杉山一家や探偵なかま、どろぼうたちの素顔をあばく人物紹介に、自分にぴったりの巻がわかるチャート診断、ファン度が試されるミルキークイズ、作者・杉山亮先生への質問などなど、盛りだくさんの内容です。
さらに、なぞときページも大充実。めいろをすすみながら事件を推理していく「おはなしめいろで名探偵」は、新感覚のおもしろさです。最後には、ツルまつの、ボウズすすきだ、たつ子、ミス・ラビットがそれぞれ主役の、スペシャル事件簿を4つ収録。いつもとはひと味ちがった事件をお楽しみあれ。
いつもシリーズを楽しんでくれているミルキー読者はもちろん、これから読みはじめようとしているひとにもおすすめです。
これさえ読めば、あなたはもう、ミルキーのたよれる探偵なかま。シリーズのほかの本をひらいて、巻きおこる難事件を解決してください!
『ソロ沼のものがたり』
『しでむし』『ぎふちょう』『がろあむし』など、繊細でダイナミックな昆虫の絵本で知られる舘野 鴻さんによる初めての描き下ろし読み物。いつの日からか「ソロ沼」と呼ばれるようになった森の奥の赤黒い沼を舞台に、小さな生き物たちの生きざまが描かれます。ファンタジーでありながらも、リアルで緻密で生々しさまで感じるような描写は、これまでに出会ったことがないような世界。今回、舘野さんの視点を絵ではなく文章(言葉)で見せていただいたような驚きと感動に包まれます。
2022年6月の注目新刊
『ひろしまの満月』
低学年の子から読める戦争のおはなしが刊行に。語り手は、広島の郊外に、長く空き家となっている一軒の家の庭の池に暮らす長生きのかめ「まめ」。ひろしまに原爆が落ちた日と、その前後のまつこちゃんの家族の姿を、現代を生きるかえでちゃんに伝えます。「まめ」のゆったりした佇まいとかえでちゃんの素直なかわいらしさ、やさしいお庭の自然がやわらかな雰囲気をまとっていて、低学年の子でも気負いなく手に取っていただける物語です。
広島の郊外に、長く空き家となっている一軒の家。その庭の池に、長生きのかめが一匹、住んでいました。長いあいだひとりでいたせいで、かめは自分の名前さえ忘れかけていました。そんなある日、家に越してきた二年生のかえでちゃんと出会ったかめは、自分の名前が「まめ」であること、名前をつけてくれたまつこちゃんとその家族のこと、そして、ずっと心の奥底にしまっていた記憶を思い出します。それは、いま思い出しても心が破れそうに辛い、1945年8月の満月の日に起きたことでした……。
ひろしまに原爆が落ちた日と、その前後のまつこちゃんの家族の姿を、その時からずっと生きているかめのまめが現代を生きるかえでちゃんに伝えます。数十年前にまつこちゃんが体験した出来事と思いをかえでちゃんはどう受け取ったのでしょうか。さらにこの物語を手にする子どもたちはどう受け取ることができるのでしょうか。
戦争を描いたお話ではありますが、まめのゆったりした佇まいとかえでちゃんの素直なかわいらしさ、やさしいお庭の自然がやわらかな雰囲気をまとっていて、低学年の子でも気負いなく手に取っていただける物語です。
『パンに書かれた言葉』
2011年の震災後、母の生まれ育ったイタリアへ旅だった少女、光。そこで、今まで考えたこともなかった真実を知ることになり……。戦争を乗り越えて生きてきた人々の“希望”を描く、ヒロシマとイタリアをつなぐ物語。
これまでヒロシマを描き続けてきた朽木 祥さんが、震災後、どうしても書きたかったという渾身の物語だそうです。
『はじめましてのダンネバード』
4年2組のクラスにやってきた転校生のエリサちゃん。ほとんど日本語を話さず、4時間目が終わると帰ってしまうエリサちゃんに、クラスのみんなは、はじめのうちは興味津々でしたが、そのうち、クラスのなかでひとりぼっちになってしまいます。エリサちゃんと主人公とのかかわりを通して、「相手の気持ちに立って想像すること」や「多様性を尊重すること」の大切さが伝わってきます。
4年2組の蒼太のクラスに転校生がやってきた。彼女の名前は、エリサちゃん。ほとんど日本語を話さず、4時間目が終わると帰ってしまうエリサちゃんに、はじめのうちは興味津々だったクラスのみんな。だけど、日本語を話さないエリサちゃんは、次第にクラスのなかでひとりぼっちになってしまう。
そして、給食の時間に起きたある事件をきっかけに、エリサちゃんはついに学校にこなくなって……。おさななじみのゆうりと一緒にエリサちゃんの家をたずねた蒼太は、エリサちゃんが弟の面倒を見るために、学校を休んでいることを知る。エリサちゃんのお母さんは、「学校にはまた今度行く」っていったけど、今度っていつなんだろう……。
外国からきたクラスメイトと主人公とのかかわりを通して、読者に「相手の気持ちに立って想像すること」や「多様性を尊重すること」の大切さを伝える創作児童文学。
『スクラッチ』
コロナ禍で何もかもが中止・延期・規模縮小。そんな中でもがきながら自分の未来に手を伸ばす、4人の中学三年生それぞれの迷いと疾走。この物語がしっかりと読者に見せてくれるのは、行事やイベントが中止になろうとも、マスクが外せなくとも、私たちの日常は消えてしまったわけではないし、薄まったわけでもないということ。ふと立ち止まってしまった時にも私たちの背中を押してくれる希望を見せてくれる一冊。
「もういやだ―――!!! コロナふざけんな―!!」
すぐに気持ちを外に表す鈴音(すずね)と、めったに取り乱すことなく、平常心を常としている千暁(かずあき)。バレー部のキャプテンの鈴音は、コロナ禍で「総体」(総合体育大会)が中止となり、憤りを隠せません。一方、美術部部長の千暁も出展する予定だった「市郡展」の審査が中止になってしまいます。平常心で、大きなパネル絵の作成に黙々と取り組む千暁ですが、絵を見た顧問の仙先生に「君はこの絵を描いていて楽しかったか?」と問いかけられ、初めて自分の絵がわからなくなってしまいます。
ある日、鈴音は千暁の描きかけのキャンバスを目にします。さまざまな運動部のメンバーがスポーツをする姿を描いたその絵は、はっとするほど美しいあざやかな色づかいと躍動感にあふれていて、鈴音は感動します。真ん中でバレーのアタックをしているのは、多分、私。けれどもその直後、鈴音は不注意で絵に墨を飛ばしてしまい……。
コロナ禍という状況の中、正反対ともいえる性格の、千暁と鈴音の思いが時に交錯しながら、二人の語りで物語が繰り広げられていきます。そこにクラスメイトの文菜や健斗の悩みが加わり、中学三年生の夏が展開されます。
注目したいのは、コロナによって引き起こされるさまざまな出来事にとまどいながら、自分の本当の気持ちを模索したり、周りの友だちや先生や家族の気持ちをあれこれ慮る登場人物たちの姿。それぞれが関わり合う様子に素敵な場面がたくさんあります。とくに素敵だと感じたのは、千暁と、美術部の幽霊部員健斗とのやりとり。お互い別世界の人間だと思っていたふたりが、実はお互いのことを「すごい」と思っていたことを知り、ふつふつと笑い合いながら心を通い合わせていく場面はとても優しく、爽やかです。また、不思議なキャラぶりを発揮している顧問の仙先生が、自分らしい絵を見つけるために奮闘する千暁をそっと見守り、何気なくサポートする数々の場面も大きなみどころです。
本書が刊行された2022年の夏は、未だ出口の見えないコロナとの共存生活が続いています。しかしこの物語がしっかりと読者に見せてくれるのは、行事やイベントが中止になろうとも、マスクが外せなくとも、私たちの日常は消えてしまったわけではないし、薄まったわけでもないということ。また、コロナであろうとなかろうと中学三年生の登場人物たちが進路に悩んだり、自分らしい在り方を探し求める姿は、読む私たちを大いに励ましてくれるのです。
千暁が真っ黒なキャンバスに「スクラッチ手法」で力強く刻んでいった先に見つけるひとすじの光――。その光のように、目をそらさなければ必ず前に進める、希望が見えてくるということを提示してくれる本書は、ふと立ち止まってしまった時にも私たちの背中を押してくれるにちがいありません。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『黄色い竜』
絵本作家の村上康成さんによるはじめての児童書。自然豊かな町にくらす10歳の少年クリオは、おじいちゃんから、「子どものころにつりにがした、湖のぬしのような巨大なさかな」の話を聞き、そのさかなを釣るために、ひとり湖に向かいます。村上康成さんが描く自然が、今回は絵ではなく文章で、目に耳に肌に訴えかけてきます。まるでその場にいるかのような臨場感を味わえる読書体験。爽やかでありながらも、物語の展開は迫力満点です!
日本を代表する絵本作家・村上康成が
初めて文章で描く、
少年のひと夏の清新な物語!
ボローニャ国際児童図書展
グラフィック賞、
ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、
日本絵本賞大賞などを受賞した
日本を代表する絵本作家・村上康成が
初めて贈る児童文学!
10歳の少年のひと夏、
まわりの人々や生きもの、
川や湖の風景が、目にうかんでくる
清新な物語。
クリオは、自然豊かな町にくらす10歳の少年。
弟の1歳のお祝いにやってきたおじいちゃんから、
「子どものころにつりにがした、湖のぬしのような
巨大なさかな」の話を聞いたクリオは、
そのさかなを自分がつりたい、と思うようになるが…?
ホタルの飛ぶ夜、親友とのキャッチボール、
まつりの金魚すくい、竹を切って作った
つりざおを手に山道を登るとき、
耳について離れないツクツクボウシの声…。
自然の中で生きる少年のひと夏を
まるごと描きだす、
絵本作家ならではの清新な物語。
カラーの挿絵多数。
『ちいさな宇宙の扉のまえで 続・糸子の体重計』
児童文学作家いとうみくさんのデビュー作『糸子の体重計』から10年……。待望の続編です。当時5年生だった登場人物たち(細川糸子、町田良子、坂巻まみ、滝島径介)は今回の舞台では6年生に。転校生の日野恵という新メンバーも加わり、5人の視点で5つの物語が繰り広げられます。友達との気持ちのすれ違いに悩んだり、憧れたり、嫉妬したり、一方で家族との関係にも悩みながら、自分を見つめ、前に進んでいく5人の姿は、そのまま読者である子どもたちへの大きなエールとなることでしょう。
細川糸子と同級生の、町田良子、坂巻まみ、滝島径介。そして、転校生の日野恵。この5人の視点で語られる、5つの物語。
6年1組・細川糸子。がさつで粗雑と言われるが、そのまっすぐな言葉は、かかわる人に時に大きな影響を与えることを、当の本人は知るよしもない。おいしいものを食べることが生きがい。
糸子が盲腸で入院している間に転校してきた日野恵。糸子との距離をグイグイつめて親友であろうとするが、糸子にはその真意がはかりかね、消耗するばかり……。転校すればリセットできる。新しい自分になれる、そう思っていたけど、わたしはニセモノの仮面をかぶっていただけ。そんなわたしに本当の友だちなんてできるはずがない。
町田良子。才色兼備でクールな一面の裏で、糸子との出会いによって、他者とかかわる心地よさに気づき、あるべき自分を探し求める。思いはことばにしなきゃ伝わらない。わたしもいつかきっと。
坂巻まみ。町田良子に憧れる気持ちの真ん中にある、自分自身の感情に気づき、疑い、うろたえて、やはりそうなんだと自覚し向き合う。いまはまだこの思いを言葉にして伝えることはしない。でもいつか、自分自身を好きになれたらそのときは。
滝島径介。母は深夜までスナックで働いている。アパートでふたり暮らしの生活。思いがすれちがう日々。話をしよう。母さんの気持ちを聞いて。オレの思いを伝えて。母さんに大事なことをあきらめてほしくない。オレもオレが幸せになることをあきらめたりなんてしない。ちょっと図々しくなればいい。だいじょうぶ。
前作『糸子の体重計』では5年生だった子どもたちは、6年生になった。
相変わらず、小さなことでいじけて、羨んで、けんかして。
うじうじ悩んで、転んだりへたりこんだり、だれかのせいにしたり、逃げたり。
そして迎える、卒業式。
『糸子の体重計』はこちら
『新月の子どもたち』
大人になるってほんとの自分を閉じこめること?
小学5年生の令は、ある日、トロイガルトという国の死刑囚レインとなった夢をみます。死ぬことを当たり前のように受け入れているその世界で、「わたしは、しなない」という少女シグに出会い、いつしか彼女をたすけたいと思うように‥‥‥。一方現実での令は、合唱コンクールがせまる中、声変わりをからかわれ、歌うことから、自分と向きあうことから、目を背けようとします。
詩人の斉藤倫さんが描く、希望と再生の物語。
斉藤倫、待望の長篇書き下ろし。きみは、だれかの夢。きみは、だれかの未来。小学5年生の令は、ある日、トロイガルトという国の死刑囚レインとなった夢をみます。死ぬことを当たり前のように受け入れているその世界で、「わたしは、しなない」という少女シグに出会い、いつしか彼女をたすけたいと思うように・・・。一方現実での令は、合唱コンクールがせまる中、声変わりをからかわれ、歌うことから、自分と向きあうことから、目を背けようとします。しかしクラスメイトにたすけられ、たどりついた自分の新しい声は、ずっとそばにあったレインの声でした。その声に共鳴するかのように、夢と現実が重なりあい、やがて周りにいる人の記憶と世界の扉を開いていく――。子どもたちが未来に光をみつける、希望を描いた物語。
2022年7月の注目新刊
『ロドリゴ・ラウバインと従者クニルプス』
『モモ』や『はてしない物語』など、人々の心に刻まれる名作を生み出した児童文学作家、ミヒャエル・エンデ。彼の死後まとめられた遺稿集『だれでもない庭 エンデが遺した物語集』(岩波書店)の中に、長編小説の断片として収録されたのが「盗賊騎士ロドリゴ・ラウバインと従者のチビクン」でした。わずか3章で絶筆となったこの物語は約20年後、同じくドイツ出身の児童文学作家 ヴィーラント・フロイントにより、エンデの遺志を継いだ物語として完成されました。
日本での翻訳出版にあたり、表紙をはじめ、作中にちりばめられたjunaidaさんの挿絵にも注目の一冊!
よみがえる〈ミヒャエル・エンデ〉の世界!
暗黒の中世のとある真夜中。嵐の中を進むあやつり人形劇団の馬車から少年クニルプスが姿を消す。彼が向かった先は、誰もがおそれる大悪党、盗賊騎士ロドリゴ・ラウバインの城だった――。晩年のミヒャエル・エンデがのこしたふたりの物語が、美しい加筆とともにふたたび動き出す。「悪」と「おそれ」、その真の意味を探しもとめる、めくるめくメルヘンの世界。小学高学年から。
2022年8月の注目新刊
『父さんのゾウ』
小学生の女の子、オリーブの父さんのとなりには、オリーブだけに見える灰色のゾウがいます。いつからいるのかといえば、オリーブが赤ちゃんだった時にママが亡くなってからずっとです。父さんに影を落とす大きくて灰色のゾウ、父さんの悲しみそのものなのです。
オーストラリアのクイーンズランド文学賞児童書部門の大賞を受賞し、各国で翻訳されているという本書は、子どもの心の内にある感情を丁寧に描く物語。悲しみにどう立ち向かうべきかとまどっている子どもや、悲しみの中にいる大人にもそっと寄り添ってくれます。
オリーブは小学生の女の子。オリーブの父さんのとなりには、オリーブだけに見える灰色のゾウがいます。いつからいるのかといえば、オリーブが赤ちゃんだった時にママが亡くなってからずっとです。父さんに影を落とす大きくて灰色のゾウ。ゾウは、父さんの悲しみそのものなのです。
オリーブの身の回りの世話をしてくれるのは、やさしいおじいちゃんです。おじいちゃんは家事を楽しんでやり、毎日手の込んだ美味しいお弁当を作ってくれます。学校のお迎えにも来て、オリーブがワクワクするようなことも考えてくれます。
また、オリーブが悲しい気持ちの時には、小さな灰色の犬のフレディがいつもそばにきてなぐさめてくれます。
ある日、100周年を迎える学校の創立記念パーティに向けて、くらしの中やおうちの中にある古いものについて調べ、発表することになったオリーブ。すぐに、昔ママが使っていた自転車を持って行きたいと考えますが、父さんは自動車整備工でありながらも、なかなか直してくれません。
「オリーブがお父さんを元気にしないと、いつまでたっても自転車を直してくれないよ」そんな親友の言葉に背中を押されて、オリーブは、おじいちゃんや親友の手をかりて父さんのゾウを追い払おうと試みます。はたしてオリーブは、父さんのゾウを追い払うことができるのでしょうか。
対象年齢は小学校中学年ぐらいからですが、大人の方にも読んでほしい一冊です。ページ数は144ページと読み応えがありますが、横書きで進んでいく文章は読みやすく、ところどころに入ったやさしいタッチの挿絵も、子どもたちが無理なく読み進めていく時の助けとなることでしょう。子どもたちが読んだら、オリーブの感性にすっと共感して、オリーブとすぐに友だちになってお話に入っていくのではないかと思いますし、一方大人が読むと、子どもたちが見ている世界の繊細さにハッとさせられるのではないでしょうか。
物語の後半には、父さんのゾウを追い払う行動や、心にずっと閉じ込めていた自分の気持ちを外に出すことを通して、オリーブにも大きな変化が訪れます。その場面には、すっかり理解したつもりでいたオリーブの気持ちをあらたに発見する驚きが隠されていて、最後まで読んだ後には、物語をもう一度最初から読み返したい気持ちに駆られました。
オーストラリアのクイーンズランド文学賞児童書部門の大賞を受賞し、各国で翻訳されているという本書は、子どもの心の内にある感情を丁寧に描く物語。悲しみにどう立ち向かうべきかとまどっている子どもにも、悲しみの中にいる大人にもそっと寄り添ってくれる優しさに満ちています。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『やまの動物病院』
山と町とをこっそりつないでいる「まちの動物病院」で起こる、ユーモアたっぷりの交流。なかがわちひろさんによる新たな絵童話の登場です。ユーモアたっぷりの楽しいお話と、とらまるの気持ちが伝わってくる所作や表情に魅力がいっぱいです。
山のふもとにある小さな町。その町のはずれの一番山に近いところに立つ「まちの動物病院」。先生の名前は、まちのよしお。「よしよし」というのが口ぐせです。まちの先生は、ねこのとらまるとくらしています。
小さな町なので、けがや病気の動物はたまにしか来ません。うっかりいねむりだってしてしまいます。でも患者さんが来れば腕のいい先生を、とらまるは片目で熱心に眺めます。先生の治療をこっそり勉強しているのです。
ゆうやけ時刻になると、先生はドアの外にかけているふだを裏返します。
「まちの動物病院 きょうのしんさつはおわりました」
先生は、じぶんととらまるのごはんを作って、食べて、お風呂に入り、ベッドで本を読み始めるとまぶたがだんだん閉じていきます。そうなると、ここからはとらまるの出番です。
バリバリとつめをといで気合いを入れると、裏口にある「ねことびら」のふだをひっくりかえすのです。
「やまの動物病院 どうぞ」
規則正しく、でもなんだか楽しそうに暮らす先生と、一見ただ寝ているように見せかけておきながら、先生の治療をしっかり学び、夜になると山の動物たちの治療に忙しく奔走するとらまる。そのとらまるの二面性がとってもユーモラスで、また先生ととらまるがそれぞれにマイペースに暮らしながらさりげなくそばにいる距離感にほっこり心が温まります。
さらになんといっても楽しいのは、とらまるのところへやってくる山の動物たちの様子。とくにほおぶくろに口内炎ができてしまったリスや、ガラスびんを頭からかぶったカモが個人的なお気に入りなのですが、そのカモの治療が、ひと晩だけ入院していた犬の歯の治療に繋がる場面は最高です。もちろん先生は、犬の歯がなぜ朝になって良くなっていたかといういきさつは全く知らないのですけどね。
絵本の創作作品や翻訳作品でも人気のなかがわちひろさんによるカラーの挿絵がたっぷり入った楽しい絵童話。『天使のかいかた』『めいちゃんの500円玉』『すてきなひとりぼっち』など大人気の絵童話に続き、また新たな絵童話が誕生しました。はじめてのひとり読みにもおすすめです。ユーモアたっぷりの楽しいお話と、とらまるの気持ちが伝わってくる所作や表情に魅力がいっぱい。患者の動物たちもかわいらしく愉快に登場します。またシンプルながらも目に飛び込んでくる和の色彩が美しく、大人の読者も心を掴まれてしまいそうです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『魔女だったかもしれないわたし』
主人公は、スコットランドの小さな村で、二人の姉と両親と共に暮らす自閉の少女・アディ。差別や偏見について考えさせられる深いテーマが込められた一冊が刊行されました。「多様性」の大切さが叫ばれ、ますます重要となっていく今とこれからの時代に手に取りたい作品です。作者のエル・マクニコルさんはスコットランド生まれの児童文学作家で、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)をテーマにした作品を次々に発表されており、本作はその最初の作品だそうです。
スコットランドの小さな村で、双子の姉と両親の五人で暮らす少女・アディ。
学校の授業で、自分の住んでいる村でかつて「人とちがう」というだけで処刑されたという魔女裁判の話を聞いたアディは、村の委員会で魔女の慰霊碑を作ることを提案します。けれども村の評判をおとしめるようなものを置く気にはなれないと「却下」されてしまいます。
アディは慰霊碑を作ることにこだわります。その理由はアディには自閉の傾向があり、人とちがうというレッテルを貼られているから。魔女裁判の授業の時、クラスメイトのエミリーに「アディも火あぶりにされてたかも」と言われ、担任の先生やクラスメイトから笑われたことも心に突き刺さっていました。アディにとって、村に慰霊碑を作るというのは、過去の魔女裁判の間違いを認め、同じことを繰り返さないようにするために必要なもの、さらにはアディ自身が自分らしく生きていくための戦いでもあったのです。
この作品の興味深いところは、歴史上の出来事と、現在の自分の状況を照らし合わせ、目の前にある現実の問題を少しでも良い方向にしようと模索し、行動するところにあるのではないかと思います。
登場人物の中でとくにアディにとって重要な存在として描かれるのが、双子の姉のひとり、キーディです。キーディもまたアディと同じ自閉の傾向があるため、アディの苦しみやつらさを誰よりも理解し、どんな時もアディを支えます。しかし大学生となって自分をコントロールする方法を覚えたかのように見えたキーディもまた、周りに合わせることの苦しみを抱えていたのでした。他、もう一人の姉や、アディの両親、学校の担任先生、図書館司書の先生、かつての親友や転校生などが登場し、アディに対してさまざまな態度で接します。読んでいると、自分だったらどの立場にたつことができるのだろうかと問われるようです。
数々の児童文学賞を受賞し、世界で高い評価を受けている本作には、昔から変わらずに存在し続けている差別や偏見について考えさせられる深いテーマが込められています。読み進めていくと、自分の中にある差別や偏見に気づかされたり、また「人とちがう」と周りから見られていたり、自分自身で感じている人たちがどんな思いで周りに合わせようとしているかを知り、想像することでしょう。また目の前で差別的な出来事が起こった時、止めずに傍観していることの罪もこの作品を通して考えたい大きなテーマです。
対象年齢は小学5、6年生ぐらいから大人まで。「多様性」の大切さが叫ばれ、ますます重要となっていく今とこれからの時代にぜひ手に取りたい作品です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
作者のエル・マクニコルさんはスコットランド生まれの児童文学作家で、ニューロダイバーシティ(脳の多様性)をテーマにした作品を次々に発表されており、本作はその最初の作品だそうです。
2022年9月の注目新刊
『こどもに聞かせる一日一話 「母の友」特選童話集』
福音館書店創立70周年を記念して出版された「母の友」特選童話集。おやすみ前のひとときや、小学生の朝の読書におすすめの一冊。「ぐりとぐら」、「だるまちゃん」「ぐるんぱ」など絵本の人気者たちの単行本化されてないとっておきのお話が収録されているのだそう!
「絵本を読むときの母の声は、普段の暮らしのなかで聞き流す声の言葉とは違って、気持ちが私の方へはっきりと向けられた声でした。そして語られる言葉や文が、私を別世界へとみちびくようにおもえました。」
(「一日一話をめぐって」松居直さんあとがきより)
「こどもに聞かせる一日一話」は、福音館書店の雑誌「母の友」で長く続く人気企画です。短くておもしろい童話を30話一挙に掲載。気軽に読めて、子どもとおとなが一緒に楽しめると毎年好評をいただいています。この本には、21世紀以降、約20年分の「一日一話」から選んだ楽しいお話を中心に『ぐりとぐらのピクニック』や『だるまちゃんとうらしまちゃん』など、過去に「母の友」だけに掲載された、絵本の人気者たちの未単行本化作品を収録しています。
2022年10月の注目新刊
『最新版 指輪物語(1) 旅の仲間(上)』(中学生から大人の方向け)
日本で『指輪物語』が初めて刊行された1972年から50年目となった2022年に、訳文と固有名詞を全面的に見直した日本語訳の完成形として、最新版が刊行となりました。青、赤、緑の表紙がとても美しく、揃えて持っていたくなりますね。
瀬田・田中訳の集大成
ファンタジー文学の最高峰『指輪物語』が日本で初刊行された1972年から奇しくも50年目の2022年、訳文と固有名詞を全面的に見直した日本語訳の完成形として、本最新版をお届けします。
遠い昔、魔王サウロンが、悪しき力の限りを注ぎ込んで作った、指輪をめぐる物語。全世界に、一億人を超えるファンを持つ不滅のファンタジーが、ここに幕を開ける。
『スノーマン クリスマスのお話』
1978年に発表されて以来、世界中で愛されているレイモンド・ブリッグズの絵本『スノーマン』が、絵本の雰囲気そのままに、『スノーマン』の世界に憧れる男の子の物語としても誕生しました。お話をつけたのは、イギリスを代表する児童文学作家マイケル・モーパーゴ。さらに、アニメ『スノーマン』を担当したロビン・ショーによるたくさんのイラストが満載の豪華な一冊です。
ジェームズは、お父さん、お母さん、牧羊犬のバーディと一緒にいなかの農家で暮らす男の子。毎年クリスマスにはおばあちゃんがやってきて、大好きな『スノーマン』の絵本を読んでくれます。クリスマスイブが明日に迫った日、いつものように絵本を読んでもらったジェームズは、ベッドの中で『スノーマン』のお話のことを考え、雪が降って『スノーマン』のお話のようにならないかなあ、と考えます。でもいくら窓の外をながめても雪は見えません。
しかし眠っているうちにいつの間にか雪が降りはじめて、目が覚めた時には、外は真っ白。ほんとうの雪が降ったのです。ジェームズも犬のバーディも、こんなに積もった雪を見るのははじめてでした。雪でたくさん遊んだ後、ジェームズは庭の中で一番好きな「ナラノキ畑」にスノーマンを作りはじめます。はじめは小さかった雪の玉はだんだん大きくなって雪の体となり、頭部分ははしごを使わないと届かないほど大きなスノーマンに。耳にはリンゴ、鼻にはミカン‥‥‥。さらにうれしそうな笑顔になるようにあるものを加えるとスノーマンが完成しました。
「ぼくは、このうれしそうなスノーマンがなによりも大すき!」
そしてその晩ジェームズに起きたある奇跡とは!?
子どもにとっての願いや幸せがたくさん詰まっている、やさしくて温かな物語。うまくできたスノーマンを家族が見に来て褒めてくれる場面、『スノーマン』の絵本をいつも読んでくれるおばあちゃんと共有したある体験、クリスマスプレゼントに欲しいものが届くかどうかを心配する気持ち。欲しいものの理由に隠れたジェームズの一番の切なる願い‥‥‥。
1978年に発表されて以来、世界中で愛されているレイモンド・ブリッグズの絵本『スノーマン』が、絵本の雰囲気そのままに、『スノーマン』の世界に憧れる男の子の物語としても誕生しました。お話をつけたのは、イギリスを代表する児童文学作家マイケル・モーパーゴ。さらに、アニメ『スノーマン』を担当したロビン・ショーによるたくさんのイラストが満載の豪華な一冊です。なぜ、文字のない絵本に敢えて物語をつけたのか? について、マイケル・モーパーゴの思いがつづられたあとがきも必見です。さらに巻末には、「世界のクリスマス」を紹介するページや、「かんぺきなスノーマンをつくるには」というスノーマンの作り方が紹介されているとびきり嬉しいページも! このお話を読んだ後、もし雪が降ったら、スノーマンづくりに挑戦してみませんか。
子ども時代に『スノーマン』のお話と出会ったならば、想像の世界が心の中に作られて、大人になっても「スノーマン」と耳にするだけで、きっとその場所のことを思い出せるはず。そんな貴重な場所が作られることを願って、ぜひ小学生に届けたいお話です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『願いがかなうふしぎな日記 光平の新たな挑戦』
「読書感想文におすすめの本」として好評の『願いがかなうふしぎな日記』の続編が発売に。『願いがかなうふしぎな日記』で、夏休みに十個の目標を日記に書いて次々に実現させていった五年生の光平。そんな夏休みの成果を冬休みにつなげようと、光平は再び日記を始めることにしたのですが‥‥‥。
「望みはこれに書いておくといいよ。きっとかなうから」
そう言っておばあちゃんが手渡してくれた「えにっき」。前作『願いがかなうふしぎな日記』で、五年生の光平は、夏休みに十個の目標を日記に書いて次々に実現させていきました。「オボレンジャー」というあだ名をつけられるほど泳げなかったのに、五十メートルも泳げるようになり、百四十ページもある『星の王子さま』を最後まで読み、読書感想文を仕上げることができたのです。
そんな夏休みの成果を冬休みにつなげようと、光平は再び日記を始めることに。ところがインフルエンザにかかり、出鼻をくじかれてしまいます。結局始めることができたのは、元旦の一月一日。転校してしまった石原さんからの年賀状を受け取った嬉しさがきっかけとなって、こんな目標を立てます。
「ぼくは一月一日、石原さんに年賀状の返事を書いた」
しかしいざ書こうとすると、何度も文章に悩んだり、新しい年賀状が見つからなくて困ったり、やっと手に入れた年賀状によだれを垂らしてしまったり、はたまた上下逆さまに書いてしまったり、と失敗の連続です。はたして最初の目標を無事達成することはできるのでしょうか。
その後も「スミス先生に英語で質問した」「100メートルを泳いだ」「マラソン大会で去年の記録を30秒更新した」などと、本気で叶えるために「したい」ではなく「した」という言葉で目標を書いていく光平ですが、出だしの年賀状に続いて、ひとつひとつ目標を叶えていく過程は、夏休みの時のようにうまくは進みません。前作の『願いがかなうふしぎな日記』を読まれた人は、あれ? 今回はなんだかスムーズにいかないことばかりだぞ、と思うかもしれませんが、そこで注目したいのが、光平の目標の内容です。本作では、苦手な英語への目標や、水泳やマラソンでも具体的な数字を出して、夏休みよりも高い目標を立てて挑戦しているのです。この目標の立て方から、夏休み以降の光平の大きな成長が感じられます。
はじめは難しいと思っていたことでも、努力を積み重ねてできるようになり、そのできた! という自信が、次のまた難しそうな目標にチャレンジする力になっていく。「もし」という言葉は弱気になるので使わずに、自分を信じて「できる!」と奮い立たせる。あれこれもがきながらも決してあきらめず目標に向かって進んでいく光平の姿は頼もしさを増したようです。今回、目標が達成できないことも出てくるのですが、ある理由からその時の光平の気持ちはすがすがしく、新たな気づきもあったり、ここにも光平の成長が頼もしく感じられました。
さらに、本作では、光平の小さな頃からの、宇宙飛行士になりたいという夢にも、一冊の本との出会いによって、一歩も二歩も近づいていきます。
もっとこうなりたい、こんなことができるようになりたい、と一生懸命考えている頑張り屋の小学生に。
夢や目標に近づくにはどんな風に考えてどう行動したら良いのか、光平の奮闘する姿がきっと挑戦する勇気やヒントをくれることでしょう。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
2022年11月の注目新刊
『小学館世界J文学館』
2022年、一番の話題作品といえるぐらいの大きな作品が、こちらの『小学館世界 J 文学館』。『小学館世界 J 文学館』は、「紙の本で名作を選び、電子書籍で本文を読む」という仕組みの全集で、文学全集に革命を起こしたとも言われている一冊です。紙の書籍は、イラストやあらすじで作品を紹介するいわば「名作図鑑」。気になる作品があったら、ページ端のQRコードを読み込むと、たちまち「電子書籍」に早変わり。その「電子書籍」を読める冊数はなんと125冊!収録作品は、永遠の名作から現代の名作まで。また初めて日本語訳で紹介される作品もたくさんあります。
この驚きの新しい読書のカタチを体験してみませんか。
1冊なのに、125冊。次世代の文学全集!
現代にふさわしい、新しい世界文学全集が誕生しました! 1冊の本を買うことで125冊の世界名作を電子書籍として読める、これまでになかったしくみの全集です。
紙の書籍は、イラストやあらすじで作品を紹介するいわば「名作図鑑」です。気になる作品があったら、ページ端のQRコードを読み込みます。すると自分のデバイスに作品の全文が出現! WiFiさえつながっていればどこででも読める、これまでにない「次世代の読書」が楽しめます。
収録作品は、「シェイクスピア物語」「赤毛のアン」など永遠の名作から、「魔女の宅急便」など現代の名作まで。本邦初訳作品もいっぱいです。くわしくは「J文学館」で検索を!
ほとんどの作品は、この全集のための新訳! 今の子どもたちにぴったりの、リズム感のあることばで訳しました。
各作品につく楽しいイラストも魅力のひとつ。人気画家の描きおろしが中心です。
そして電子書籍ならではの、「3段階のふりがな選択」と「本文音声読み上げ機能」にもご注目を。小さなお子さん、日本語を勉強中の留学生、視覚障害や読字障害をお持ちの方など、多くの人に世界名作をお届けするための工夫がいっぱいです。
『新装版 車のいろは空のいろ 白いぼうし』
1968年の第1作目の刊行以来、半世紀以上多くの読者に愛されてきた、あまんきみこさんのロングセラーシリーズ「車のいろは空のいろ」。空いろのタクシーの運転手・松井さんと、不思議なお客さんとの出会いが、やさしくあたたかく描かれます。4巻目となる最新作『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』の刊行に合わせて、画家の黒井健さんによる装画・挿絵で『白いぼうし』『春のお客さん』『星のタクシー』『ゆめでもいい』の4巻が新装版として登場しました。
空いろのタクシーは、ずっと走り続けていました。
心やさしい運転手の松井さんとふしぎなお客さん、そして、あなたの物語。
1968年の刊行以来、50年以上読み継がれるロングセラー「車のいろは 空のいろ」シリーズ。黒井健の挿画による新装版。
タクシー運転手の松井さんと、ふしぎなお客さんたちとの出会いをあたたかく描きます。
収録作
1.小さなお客さん
2.うんのいい話
3.白いぼうし
4.すずかけ通り三丁目
5.山ねこ、おことわり
6.シャボン玉の森
7.くましんし
8.本日は雪天なり
「新装版 車のいろは空のいろ」シリーズ
『特装版 車のいろは空のいろ』
「新装版 車のいろは空のいろ」シリーズの刊行と同時期に、懐かしい北田卓史さんの挿絵版である第1巻『白いぼうし』と第2巻『春のお客さん』が豪華な特装版セットとして発売されました。クロス装・箔押しの美しい造本と、しっかりとした作りの化粧箱が魅力です。
1968年に刊行以来、子どもから大人まで幅広い層の読者に世代をこえて愛読され続けてきたロングセラー「車のいろは空のいろ」シリーズの第1、2巻を豪華な特装版のセットでお届けします。
空いろのタクシーの心やさしい運転手、松井さんとふしぎなお客さんたちの織りなす物語は、いつの時代もかわらず読む人の心に寄り添い、安らぎとときめきをおくります。
【セット内容】
・書籍2冊(クロス装・箔押し・化粧箱入り)
『特装版 車のいろは空のいろ 白いぼうし』
『特装版 車のいろは空のいろ 春のお客さん』
・特製アートカード…北田卓史が描いた「車のいろは空のいろ」の名シーンの中から4場面を特製のカードにしました。
・特製リーフレット「思い出すままに」…各巻の収録作について、作者・あまんきみこが思い出すままに綴ったとっておきのお話です。
『だれもしらない小さな家』
町の通りに、大きなマンションにはさまれた小さな空き家がありました。いつも窓をのぞいていたアリスとジェーンは、ある日、とうとう足をふみいれます。おうちごっこはクッキーやさんに発展! ところがそこへ大家さんが怒鳴りこんできて……。小学1、2年生からおすすめの、幸福感に包まれる楽しくて温かな幼年童話。
ふたつの大きなマンションにはさまれた、小さな家。壁のペンキははがれ、窓にはほこりがつもり、玄関にはカギがかっていました。ずっと昔、この小さな家は広い庭の真ん中に建っていてある家族が住んでいたのですが、町がどんどん大きくなって、両隣に大きなマンションが建つと、家族は引っ越してしまい、それ以来誰からも見向きもされなくなってしまったのでした。
でも、こんな珍しい場所に建っている誰も住んでいない家を近所に住んでいる子どもたちが見逃すはずはありませんよね。まさしく、おさげ髪のアリスと金髪のジェーンがそうでした。二人は学校の帰りに小さな家の中をよくのぞいていました。それと同時に、いつもかごを下げて出かけ、小さな家で立ち止まって中をのぞいている小さなおばあさんのオブライアンさんのこともよく見かけるのでした。
小さな家にはときどき人がやってきては、住むには至らずに帰っていきます。そんなある日、アリスとジェーンがためしにドアノブを回してみるとなんとドアがガチャリ、と開いたのです! そうじがかりの人がカギをかけ忘れたのかもしれません。おそるおそる中に入った二人は「おうちごっこ」をはじめ、そのうちオブライアンさんもやってきて楽しい時間が始まりました。けれどもそこに大家さんが大きな声でどなりこんできて‥‥‥!
さて、この後、勝手に家に入ったことに腹を立てた大家さんの心をあるものが動かしていきます。それはいったい何だったのでしょうか。ダダダダッと展開していく後半は、アリスとジェーンはもちろん、オブライアンさんにとっても、そして小さな家にとっても良い方向へと転がっていき、読者を満ち足りた気持ちにさせてくれるでしょう。
作者は、『うちの弟、どうしたらいい?』(岩波書店)、『ねこのホレイショ』(こぐま社)、『ハイパーさんのバス』(徳間書店)で知られる、ニューヨーク生まれの児童文学作家、エリナー・クライマーさん。ユーモアいっぱいの温かなお話を、小宮由さんが親しみやすい訳で届けてくださいました。テンポの良い会話で進むお話は声に出して読むと、いっそう楽しさを増すようです。
佐竹美保さんの挿絵も登場人物が魅力的でユーモラスに描かれ、とくに大家さんのとってもこわい姿が一気に変化していく様子は注目どころ! しっかりと大家さんの表情の変化を見届けてくださいね。また、本の最初のページに描かれている大きなマンションに挟まれて建っている小さな家の様子もとっても魅力的で、子どもたちはこの絵を見た瞬間から、お話にぐっと惹きこまれるのではないでしょうか。さらに、いつもオブライアンさんが持っているかごの中身が気になっていたアリスとジェーンでしたが、そのかごのふたが開かれるページは、もう思わずうわあ~っと声を出してしまいそうになるほど、素敵なものがあらわれます。
小学1、2年生からおすすめの、幸福感に包まれる楽しくて温かな幼年童話。ぜひ親子で一緒に楽しんでみてくださいね。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
『オハヨウどろぼう』
オハヨウどろぼうを知っていますか? 盗むのは「おはよう」のことば。明け方、家にしのびこんで、のど元で出番を待っている「おはよう」をつまみとっていくのです。さて、被害に遭ったしんちゃんは朝からごきげんななめ。おかあさんは、どうにかしんちゃんを元気にしようと走りまわるのですが、しんちゃんは、「オハヨウどろぼう」が怪しいと考えるおじいちゃんと一緒に、おはようを取り戻しに行きます。はたして「オハヨウどろぼう」の正体とは!?『でんでら竜がでてきたよ』(理論社)や、『きっちり・しとーるさん』『てんこうせいはワニだった』(こぐま社)など多くの児童作品を手がけるおのりえんさんによる楽しくてゆかいな幼年童話。
オハヨウどろぼうを知っていますか? 盗むのは「おはよう」のことば。みんなののど元で出番を待っている明け方に、家に忍び込んでかすめとっていくのです。でも、オハヨウどろぼうのすがたをちゃんと見た人はいません。窓の外に緑のマントがひらっと翻るのを見たとか、伸びた爪がタオルに引っかかったとかいう人もいるけれど、確かなことはわかりません。
被害に遭ったしんちゃんは、「ぼくのおはようをかえせ!ぼくの一日をかえせー」とおじいちゃんと一緒に犯人さがしにのりだします。探偵さながら、聞き込みをするしんちゃんとおじいちゃん。どろぼうが置いていったであろうみどり色の羽を手掛かりに、町の様子を聞いて回ります。はたしてふたりは犯人を探し出し、盗まれた「おはよう」を取り戻すことはできるのでしょうか?
作者のおのりえんさんは、絵本「おかしきさんちのものがたり」シリーズ(フレーベル館)や、童話『きっちり・しとーるさん』(こぐま社)など多くの児童作品を手がける作家さん。子どもたちにはNHK Eテレで人気となった『でんでら竜がでてきたよ』(理論社)が有名ですね。こちらの作品では、リズミカルな文章とともに、おのさんの描く優しくユーモラスなイラストも楽しめます。
「おはよう」をなくした日常は、なんとなく居心地が悪そうです。しんちゃんも、おはようを失って、あいさつの大切さやすがすがしさを実感したようですよ。
「おはようございまーす!」この楽しいおはなしを読んだら、きっと大きな声で元気にあいさつしたくなりますね。
(出合聡美 絵本ナビライター)
『手で見るぼくの世界は』
双葉のために、ぼくには何ができるだろう? 視覚支援学校に通う中学1年生の佑と双葉の物語。ある日、目の見えない双葉にぶつけられた悪意に満ちた言葉への衝撃から、家の外に出ることができなくなってしまった双葉。その双葉をどうにか立ち直らせようとする佑でしたが‥‥‥。
著者の柏崎茜さんは、本作品の執筆に際して視覚支援学校での綿密な取材を行ったそうです。本作品では、目の見えない佑たちが見ている世界や感じている世界が、読み手にしっかりとした感覚で伝わってきます。
――この光はきっと、みんなにも届いているにちがいない。なぜなら、ここはみんなの世界だから。そして、そこは、双葉たちの世界でもあるのだ。
視覚支援学校に通う佑は、この春から中学1年生。新しいクラスメイトも増え、寄宿舎での生活もはじまったが、佑の気持ちは晴れない。小学部から親しくしていた双葉が、ある事件をきっかけに学校に来なくなってしまったからだ。何度連絡をしても、双葉からの音信はない。道しるべのような存在だった双葉を失ってしまった佑は、授業や白杖の訓練に身が入らない状態が続いていた。
いっぽう双葉は、事件の際にぶつけられた悪意に満ちた言葉への衝撃から、家の外に出ることができなくなっていた。「目が見えない人はひとりで外を歩くべきじゃない」と思っている人が、この世界にいることを知ってしまったからだ。そんな双葉を心配した母親に「伴歩・伴走クラブ」という団体を紹介された彼女は、クラブの活動を見学に行く。そして佑も、双葉に会いにいくという目標のために、苦手だった白杖の訓練に挑戦しはじめる……
ふたりの主人公が、それぞれの葛藤を乗り越え、ふたたび世界に踏み出すまでを描いた物語。
2022年12月の注目新刊
『オズの魔法使い』
1900年にアメリカで出版された、ライマン・フランク・ボームのファンタジー古典「オズの魔法使い」。物語はミュージカルや映画にもなり、世界中の子どもにも大人にも愛されるようになりました。日本でも多くの人々に親しまれる不朽の名作です。こちらは、そのダイジェスト版ともいうべき作品。岸田衿子さんのはずむような文章と堀内誠一さんのカラフルなイラストで、小さい子にもわかりやすく描いた絵本の愛蔵版です。はじめて出会う「オズの魔法使い」としておすすめです。
ある日突然、竜巻に吹き上げられ、家ごと不思議な国に運ばれてしまったドロシーと愛犬のトト。おじいさんとおばあさんがいるカンザスに帰りたい!その願いを叶えるため、国を支配する偉大な魔法使いオズに会いにいくことになります。旅の途中、脳みそがないことを嘆くカカシ、心臓がないことを悲しむブリキのきこり、勇気がないことに悩む臆病なライオンと出会い、一緒にエメラルドの都を目指します。
「オズの魔法使い」は、1900年にアメリカで出版された、ライマン・フランク・ボームのファンタジー古典。物語はミュージカルや映画にもなり、世界中の子どもにも大人にも愛されるようになりました。日本でも多くの人々に親しまれる不朽の名作です。こちらは、そのダイジェスト版ともいうべき作品。物語の見どころをぎゅっと集め、小さい子にもわかりやすく描いた絵本の愛蔵版です。
詩人でもある岸田衿子さんの読みやすくテンポの良い文章に、堀内誠一さんのカラフルで生き生きとした挿絵が添えられます。堀内誠一さんは数々の黄金期の雑誌を手がけたアートディレクターであり、『ぐるんぱのようちえん』『たろうのおでかけ』(共に福音館書店)など、名作絵本を数多く生み出した絵本作家さん。デザイン性が高く、愛嬌たっぷりのユーモラスな挿絵は、子どもだけでなく、大人の心も引きつける魅力があります。
一行は、怪物に襲われたり、ケシの花の香りを吸って眠くなったりと、様々なピンチに遭遇します。そのたびにドロシーは仲間たちと一緒に、魔法の道具の力を借りながら、乗り越えていくのです。この物語は、山あり谷ありの奇想天外の冒険ストーリーである一方、実はそれぞれ大切なものを失ったり、大切なものが欠けていると悩み、傷ついている者たちの成長物語でもあります。脳みそがないはずのカカシは、名案を次々と思いついて仲間の危機を救います。心のないはずのブリキのきこりは涙もろく、勇気がないはずのライオンも、みんなのために敵と勇敢に戦うのです。ドロシーも、自分の望みを叶えるために奮闘します。
知恵と思いやりと勇気を感じる、壮大な冒険物語。個性あふれるキャラクターたちのファンになったら、今度は完訳版を読んで、さらに作品の深い部分を味わうというのもいいですね。まずはこの絵本で、世紀が変わっても古びることのない名作と出会ってください。
(出合聡美 絵本ナビライター)
『ジャングルジム』
産経児童出版文化賞、野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞など数々の児童文学賞を受賞されている注目の作家、岩瀬成子さんによる五編の短編集。描かれるのは、今と向き合いながら進んでいく「こども」と「おとな」のありのままの姿。「こども」だけでなく「おとな」も揺れている、そしてその「おとな」も揺れている姿を「こども」の目から映し出す物語には、誠実さを感じるとともに、どこか安心感も覚えます。子どもの読者は、さまざまな感情を芽吹かせるきっかけに、大人の読者は「こども」の時に抱いていた様々な気持ちを思い出すきっかけに。静かな感動が湧いてきます。
『ガリバーのむすこ』
舞台は現代。家族や友人たちに囲まれてアフガニスタンで幸せな毎日を送っていたオマール少年は、戦争がやってきたことで生活が一変。難民となり、お母さんとともに、親戚の叔父さんがいるイギリスを目指します。しかしオマールがたどりついたのは、かつてガリバーが流れついた小人の国リリパット国でした。オマールは、島の住人たちにガリバーの息子だと思われ、歓待されるのですが‥‥‥。三百年前に書かれた『ガリバー旅行記』と現実の難民問題を結びつけ、冒険物語を通して、難民問題を身近に感じさせてくれる、マイケル・モーパーゴの新作です。
難民少年が見つけた幸せとは?
もうだめだ。
刻一刻とボートは海に沈んでいく。
ひとり、またひとりと、ボートから海に投げ出されて、
まもなく自分の番が来る。
―――海に投げ出された難民少年オマールが、目をさましてみると
そこは、ガリバーが流れついた小人の国リリパット国でした。
リリパット国の住人は、少年をガリバーの息子と思い歓待します。時間が経つにつれ、少年オマールはリリパット国で、友情をはぐくみます。
一方で、オマールは、離ればなれになってしまった家族が恋しく、毎晩、夜空に浮かぶ星を見ながら、お母さんに話しかけていました。
少年オマールは、このままリリパット国で、平和に暮らすことができるのでしょうか?
お母さんとは再会できるのでしょうか・・・。
いかがでしたか。
この後も、2022年児童書総まとめとして、新しいシリーズ作品の紹介や、各児童文学賞受賞作品について、順次お伝えしていきたいと思います。小学生の皆さんが何か面白い本はないかな、と思った時に、また小学生に向けて本を勧める時や贈り物の参考にしてみてくださいね。
秋山朋恵(あきやま ともえ)
絵本ナビ 副編集長・児童書主担当
書店の本部児童書仕入れ担当を経て、私立和光小学校の図書室で8年間勤務。現在は絵本ナビ児童書主担当として、ロングセラーから新刊までさまざまな切り口で児童書を紹介。子どもたちが本に苦手意識を持たずに、まず本って楽しい!と感じられるように、子どもたち目線で本を選ぶことを1番大切にしている。編著書に「つぎ、なにをよむ?」シリーズ(全3冊)(偕成社)がある。
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |