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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で心をひとやすみ。おすすめ「リトリート絵本」6選!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

なんだか気持ちが落ち着かない……! 絵本でリトリートしてみませんか?

梅雨もはじまり、すっきりしないお天気が続きますね。夏休みまではまだ間がある、でも今から夏休みの予定は立てておかないといけないし、いろんな行事は5,6月にてんこもりだし(熱中症対策で最近の学校行事は夏を避けるんですよ!)、しかも7月半ばまで休日がない! そんな、この時期、とてつもなく忙しいというわけでもないけれど、やることはいろいろあって気持ちが落ち着かない……。そんな日々を親子でお過ごしかと思います。

そんなとき、絵本で「リトリート」体験はいかがですか? 「リトリート」とは、いつもの生活からちょっと離れて心身をリフレッシュしたり自己を見つめたりする旅や活動のこと。最近「リトリート旅」などと観光旅行ではないのんびり癒しの旅のような形で使われたりしますが、英語のRetreatmentを語源としていて、もともと「避難」「隠居」などの意味があるそうです。「あー、現実からちょっと離れたい、リフレッシュしたい!」という感覚ですかね? 今まさにそんな気持ちのご家庭が多いかと思います。そして、そんなときにこそ絵本はぴったりです。なにせ、扉をあければそこは別世界なんですから! 

ということで、ちょっと親子で気ぜわしい今の季節、「絵本でリトリート」のおすすめ本を今回はご紹介します。

読んでるだけでリトリート!

まず読み終わった瞬間から「リトリートー!」と叫びたいくらい気分が潤う1冊をご紹介します。

みずみずしい朝の森と、密やかな夜の森

もりのあさ

女の子は、朝もやが残るころにカゴを持って森へと出かけていきます。
まだ目覚めたばかりの森。クモの巣には宝石のような朝露が光り、鳥たちは遠慮がちにおしゃべりをはじめ、やがてリスたちも枝の上に姿を見せます。目の前にある森は、夜になるといったいどんな様子をしているのでしょう? 鳥たちはどこで眠りについて、リスたちの赤いしっぽはどんな色に見えるのでしょう? いつものベリーを摘むお気に入りの場所で、女の子は目をつぶって夜の森のことを想像しはじめます。咲いているはずの花や、空の上の方に見える月、飛んでいるものたちや、足音を忍ばせて歩くものたちのことを。まだ今は、自分の周りの小さな世界のことしか見ることができないけれど、女の子はまるで森と共鳴しているように、静かで優しい夜の森をありありと思い浮かべることができるのでした。みずみずしい朝の森と、密やかな夜の森が絵本の中に広がります。

朝もやの残る早朝、女の子はかごを持って森へ出かけます。森の入り口のくるみの木の葉を一枚ちぎり、甘ずっぱい匂いをかぎながら森の中へ。誰もいな朝の森、ふわふわした苔の感触、きらきらした朝露、木立のきしむ音。木いちごを摘んでは夜の森のことを考え、そうするうちに朝の光が全身をおおいます。

「森の朝」と聞いただけで静かですがすがしい気分になりませんか? この絵本はまさにその気分を絵に表したようなもの! 土の感触、葉の匂い、朝露の光、木立のきしみ、木いちごの味、五感すべてからさわやかな森の朝を届けてくれます。

この絵本は、ぜひ声に出して読んでみてください。

「だれもいない あさのもり……」

と声に出しているうちに、あのすがすがしい森の空気が周囲に満ちて、気づいたら森の中にトリップしています!

ほんの少し、自分をいたわってみて

気持ちを切り替えたいなーと思った時は、ちょっとどこかへ出かけてリセットと思うこともありますが、本当に気持ちが落ち込んでいたり疲れ切っていたりすると動くこともままなりませんよね。そんなときには、まず近くにあるほんのちょっとの癒しを求めてみませんか?

そんな、小さな癒しが静かに心を潤す絵本がこちら。

ほっと一息。コーヒーの香りが広がる絵本

クマダさんのどんぐりコーヒー

引っ越した町に馴染めず、家から出られなくなってしまったクマダさん。ある日、どんぐりコーヒーを淹れてみると、良い香りが広がりました。すると、喫茶店と勘違いした近所の人が、ガチャリとクマダさんの家に入ってきて…。

クマダさんはどこにも出かけず寝てばかり。窓のカーテンは何週間も開けておらず部屋は真っ暗。なぜそんなに落ち込んでいるのかは明かされませんが、ふるさとの森を恋しく思い、

「もりの どんぐりコーヒー、また のみたいなぁ」

と、なんとなくコロコロコロとどんぐりを火にかけてコーヒーを作ることにしました。

トポポポポポポとお湯を注ぎ、コーヒーの香りをすぅーんと吸いこんだら、少し気分が上向きます。

久しぶりにカーテンと窓を開けると、お隣のハチダさんがコーヒー屋さんと間違えて入ってきました。

クマダさんは「ここは……コーヒーやでは……」と言おうとしますが、元気のないクマダさんの声は届かずハチダさんにしかたなくコーヒーを入れ……。

最初は、真っ暗な部屋の中クマダさんがどんぐりをつまらなそうに食べているところから始まるこの絵本。見るからに“どよーん”としたクマダさんに心配になりますが、コーヒーの香りを吸い込みカーテンを開けるとちょっとだけ光が差し込みます。それは、クマダさんの心の心象風景のよう。そしてコーヒーの香りに誘われるようになぜかみんなクマダさんのうちをコーヒー屋と間違えて入ってきて、コーヒーがまたお客さんも癒し、クマダさんもお客さんとの交流でさらに気持ちが明るくなっていくのです。

気持ちをゆるやかに持ち上げてくれる絵本です。この絵本では「香り」が癒しとなりましたが、楽しい音楽、きれいな風景などなど、ちょっとした身近な癒しがきっかけで心の切り替えにつながるかもしれません。

めったにできない体験を!

心をすかっとさせるには、めったにできない体験をするのが一番! ですが、そんな体験にはタイミングも費用もそう簡単には……、そんなお悩みにも絵本はばっちり効きます。例えば、みんなが憧れる空の旅。そんな体験をご提供できるのがこの絵本。

空を飛んで地球を体感!

そらをとびたい

空を飛んで撮影した写真で地球を体感!
鳥のように空を飛んだら、世界はどのように見えるのだろうか?

背中に大きなプロペラ付エンジンを背負って、飛ぶモーターパラグライダーに乗り、空から大地を撮影。
空の向こうに見えるのは、光が作り出す「天使の階段」、黄金に輝く雲、虹のリング……。
飛んでいる間に、雲や光が刻々と変化していき、想像もしていなかったような絶景にめぐりあう。
地球と一体になると、地球の声が聞こえてくる。

「空を飛びたい!」できないからこそ、自由自在に空を飛べたらどんなだろう? 空から地上を見下ろしたら気持ちいいだろうな、と憧れます。そんな空飛ぶ体験ができてしまうこの絵本。モーターパラグライダーという、パラグライダー用の翼で飛びながらプロペラ付きエンジンで自由に飛ぶ方法で撮影された写真絵本です。

本を開くと、雲から雨が降り出す瞬間や果てしなく広がる雲の海といった、鳥でしか見ることができないような絶景が次から次へと展開されます。

航空写真とはまたちょっとちがった、自分が飛んで地上を見下ろしているかのような写真に「空を飛ぶってこうなのか!」と実体験のように感じることのできる絵本です。

また、空を飛ぶよりは現実的だけれど、やっぱりそう気軽には実現できない旅を描いた絵本として、こちらもご紹介します。

憧れのキャンピングカー生活がここに!

キャンピングカーのたび

海の向こうの星空がきれいなキャンプ場へ、主人公とお父さんは「のろのろごう」で出かけます。「のろのろごう」はちょっと小さなキャンピングカー。力がないのでスピードはでませんが、車の中でご飯を食べたり、泊まったりできるのです。キャブコンやバンコンなど、旅の途中で出合うキャンピングカーにはいろいろなタイプがあってびっくり。秘密基地? 隠れ家? 今人気のキャンピングカーに詳しくなれる、話題の絵本です。

キャンピングカー生活、憧れますよね。見かけると「いいなー」と思うんですけど、日常的に使うのは難しいですし維持費もちょっと……というわけで、地味にハードルが高くて高嶺の花です。

そんなキャンピングカー生活の楽しさを描写するこの絵本。車の中にベッドもトイレもシャワーもあって、ギャレーと呼ばれるキッチンでご飯を作り、ソーラーパネルで電気も作れて、好きなところに行ってキャンプができる!……と、キャンピングカーの旅はとっても楽しそうです。キャンピングカーの種類もたくさん紹介されていて、軽自動車にポップアップルーフを付けた“けいキャン”はコンパクトでけっこう使えそう?と思ったり、夢がどんどん膨らみます。

なかなか実現できない体験を絵本なら追体験できますし、「いつかチャレンジしたいな」と心の準備もできる絵本たちです。

これはこれで、リフレッシュ!?

お次は「これはリトリートになるんですか?!」と思われそうな絵本ですが、陰鬱な気分を吹き飛ばしてリフレッシュできる異世界体験というのも、気持ちを新たにするリトリートになるんじゃないですかね!(無理やり?)という、私の大のお気に入り絵本です。

不思議楽しい異世界に癒される

かべのすきま

今夜はぼく、ひとり。かべから出ている糸みたいなものをひっぱったら、あれ! かべのすきまができちゃった。なんとそこから出てきたのは・・・大阪弁をしゃべるおばちゃんたち! 夜のお留守番中に起こった、不思議で楽しいこととは?

男の子が夜、家の中で一人きり。なぜ夜9時に一人きりなのかはわかりませんが、置いていかなければいけない何かしらの事情があるのでしょう。一人きりの家の中で不安で仕方ないぼくはふと、かべから糸みたいなものが出ていることに気づきます。ズズズズズと引っ張ってみると壁にすきまがあいてしまい、すきまからニョキっと足が現れました! ぼくが恐ろしさで固まっていると、ヒョウ柄タイツにトラ顔シャツのおばちゃんが顔を出しました! さらに「おじゃましますぅ」と合計三人のおばちゃんたちがやってきて、こたつの上にお菓子の山を広げだしたのです。

「だれだ、このひとたち?」と布団の間から覗き見ると、

「はずかしがらんと はよ こっちおいで」

「みたらわかるやろ。わてらピチピチギャルやで」

「さんじゅうねんまえの、な」

と、コテコテの大阪のおばちゃん会話で手招きします。

そして人のうちの台所で勝手に卵焼きを作り始め、おいしそうなにおいに布団からはい出したぼくは、気づけば陽気なおばちゃんたちのお茶会にすっかり仲間入りしてしまったのでした……。

まさに“大阪のおばちゃん”パワー炸裂。当初の「ひとりぼっちで不安でこわくて……」という状況を、おばちゃんたちが一発でふっとばしてしまいます。おばちゃんたちはいったいどうやってここにやってきたのか?という疑問も、アニマル柄の服で漫才みたいな会話をしながら、手際よくちゃっちゃとお茶会をするおばちゃんたちに交じってしまえば、もうどうでもよくなってしまって、ぼくも夜の怖さなんてきれいさっぱり忘れてしまうのです。

クサクサしているとき、どよーんとしているとき、うちにもおばちゃんたちが来てくれるといいなーと思っちゃいますが、あれ? もしかして私、おばちゃんの方になれるんとちがう? トラ柄Tシャツ買ってしまおか? なんて。

おばちゃんパワーに元気をもらえる絵本です!

「いつか行こう!」それが希望に

次の絵本の舞台は、世界中からお客さんがやってくる、とある小さな町のホテル。

いつか、おおきなかばんをもって、このまちをでて……

ぼくのたび

ぼくはまだ、このちいさなまちしかしらない。
だけどいつか、ぼくが、おおきなかばんをもって、このまちをでて、このくにをでて……

ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞
ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞 他
世界中で高い評価を受ける実力派作家がリトグラフで描く、美しいたびの絵本。

主人公の「ぼく」は、ホテルの主人です。お客さんから知らない国の話を聞き、代わりに小さな町のことを教えてあげる日々。ぼくはこの小さな町しか知らず、ホテルの仕事は毎日同じことの繰り返し。仕事を終えてベッドに入ると遠くへ行きたい気持ちがこみ上げ、夢の中で大きなカバンを持って旅に出ます。そしてまた朝がやってきて、世界中のお客さんたちから届いた手紙を読んでは旅への思いがかきたてられるのです。

とても静かに「旅」への憧れが描かれたお話です。ぼくは夢想したまま、まだ旅には出られていません。シチュエーションから考えてみると、“ぼく”は変わらぬ毎日に飽きてしまってどこかへ行ってしまいたいのかしら?とも思えますが、絵本全体を読めば、ぼくがホテルの仕事に誇りを持ち楽しんでいることが伝わります。ですが、それでもなお「ここではないどこかへ行ったら何が起こるんだろう?」という渇望は、ぼくだけじゃなく誰の中にも眠っているものだと感じられるのです。

リトグラフという版画の技法で描かれたみやこしさんの描く遠い外国の絵は、まさに「ここではないどこか」の夢想感に包まれていて憧れをかきたてます。ですが、ここで大事なのは、「旅に出る」ことではないんですよね。今は同じ場所にとどまっていても「いつか旅に行ける未来がある!」それが自分の希望となって、また毎日を生活していく意欲につながっていく……という、「明日への希望」がリトリートとなる絵本です。

さいごに

朝起きても空が暗いと気持ちも晴れない季節ですよね。暗い空を見ながらこの間、コロナの緊急事態宣言時を思い出したのですが、子どももまだ小さかったのでずっと家の中に居るのも厳しく、でも公園に行くだけでも(禁止されてませんでしたけど)いろいろ言われてギスギス閉塞的で「いつまで続くんだろう……」と欝々となっていました。ですので、『ぼくのたび』のように「自分はいつか、どんなところでも行くことができる!」と未来のことを考えられることは、大人にも子どもにも必要な希望だと思うんですよね。

 

閉塞的でせわしない気分が続いてしまうと余裕もなくなりどこかにひずみができてしまいます。がっつりリトリート旅でもできればよいですが、なかなか夏休みまで休みづらいと思います。

ご紹介した絵本などでちょっと気持ちをリセットしたり「自分の今の気持ちってなんだろう?」と見つめなおしたりして、少し気持ちをゆるめてはいかがでしょうか?

 

最近の我が家では家族全員「今日も学校かー、仕事かー」と朝どんよりしているので(毎日ひたすら「やらなきゃいけない何か」があるというせわしなさによってでして……)、気持ちをあげるために、ロックバンド・打首獄門同好会の『布団の中から出たくない』をかけて起きています。

「ふとんのなかからでたくないー!」「ふとんのなかからでてえらいー!」

と歌いながら、やる気のない自分たちを認めてセルフ褒めしてあげるのも、1つのリトリートかしら?と、こじつけましたが、皆様も絵本やいろいろな手段で自分を認めてリトリートしながら来たる夏休みを目指してください!

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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