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子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜

親には懐かしく子どもには新しい、不思議でレトロな絵本『こんなおみせしってる?』

絵本記事を書いたり、絵本について研究の日々を送る、絵本研究家のてらしまちはるさん。その活動の原点には、小さな頃にお母様から読み聞かせてもらったたくさんの絵本があるそうです。子ども時代の一風変わった、けれど本当はどこにでもある絵本体験を、当時の視点で語ってもらいます。「絵本の楽しさって何?」「読み聞かせているとき、子どもは何を思っているの?」そんな大人の疑問を解く、意外なヒントが満載です!

レトロな絵本『こんなおみせしってる?』

『こんなおみせしってる?』という絵本を、ご存じですか?

 

たまご屋さんに、おもちゃ屋さん、金太郎飴をつくる飴屋さん……。現代ではあまり見かけなくなったレトロなお店の数々を、絵本のなかでのぞいてまわれる作品です。

『こんなおみせしってる?』

こんなおみせしってる?

駄菓子屋、サンプル屋、人形やロボットを売るお店など、昔ながらのお店や、人体模型、蛇屋など、少しこわさを含んだお店も登場して、ふしぎな世界をかいま見せています。
 

【読んであげるなら】4歳〜
【私が昔読んだ年齢(連載をあわせて)】3歳?〜11歳ごろ

現代を生きる子どもたちには、異世界ともいえる昭和のレトロなお店が描かれます。大人にとっては、人によって「見たことある」お店が混じっているかもしれません。

 

懐かしさのなかに、ちょっとの怖さや違和感があって、見る者をとりこにする絵本です。

 

私が子どものころに読んでいたのは、1985年刊行の月刊絵本版でした。

 

これがハードカバー版になったものが、ちょうど10年ほど前に福音館書店から出されるようになって、いまではふたたびあちこちの本屋さんで見かけるようになりました。
 

子どもに響く絵本選びのポイント①「知っているものが登場する」

この絵本、知る人ぞ知る作品ですが、とってもよくできた一冊なんですよ。

 

子どもが本当に夢中になる絵本づくりのポイントが、ふんだんに盛り込まれているといえます。

 

『こんなおみせしってる?』に隠された要素をひもといたら、子どもが心底楽しいと思う絵本選びのポイントが、いくつかわかる気がします。今日はこれを見てみましょう。

 

ポイントのひとつはまず、子どもの「知っているものが登場する」こと。

 

たとえば子ども時代の私なら、この絵本に描かれているおまんじゅう屋さんの光景は見たことないけれど、駄菓子屋さんでお菓子を買ったことはありました。それに、近所にまだ残っていたたまご屋さんで、量り売りの棚からかごにたまごを移す買い物を手伝ったこともありました。

 

お店の大きな棚に、たまごが山盛りに並べられて、かごを持って買いに行くなんて、いまではどこにもなくなってしまった光景ですけれどね……。自宅の近くに、そんなお店がたしかにありました。

子どもは、絵本のなかに無意識に「知っているもの」を探します。自分の身近なものがひとつでもあると「あ、これは知ってるぞ」と安心の気持ちが芽生えて、新しいものに進む原動力が生まれるものです。

 

この絵本には、レトロで見たことのないお店がたくさん描かれています。縁起物屋さんとか、ブロマイド屋さんなんて、その類いでしょうね。また、へびを食べさせるへび屋さんや、人体模型屋さんなどの、ちょっぴり怖いお店も登場します。

 

絵本ナビの「みんなの声」をのぞくと、こうした内容を捉えて、子どもには向かないんじゃないかと考える声もちらほら聞かれます。でもね、そういう内容を扱っていることそのものが悪ではないんです。

 

たしかに、絵本のなかが知らないもの、怖いものばかりでは、子どもたちになかなか読み進む気が起こらないのは事実です。

 

でも、この絵本には刊行当時の子どもたちが「知っているもの」が、ちゃんと登場しているから、大丈夫だったんです。

 

この工夫のおかげで、私たち子ども読者は、自分の世界から新たな境地へと道をのばして歩いていくことができました。

 

今日お話しするポイントはすべて、どの作品にもだいたいあてはまるもの。別の絵本を売り場や図書館などで選ぶときの、目安になると思います。

 

一方で『こんなおみせしってる?』は、もう子どもが楽しめない絵本かというと、そうではありません。

 

その時代を知っているおじいさん、おばあさん世代が一緒に読んでくれることで、生まれていない時代を子どもたちが知るという一味違った広がりを見せてくれる、おもしろい絵本でもあるのです。

子どもに響く絵本選びのポイント②「しげしげ見る楽しみがある」

ポイントのふたつめは、「しげしげ見る楽しみがある」こと。

 

この絵本の醍醐味は、なんといってもコレですね。画面のすみずみまで描かれたものを、細かに見るのって、楽しくてぜいたくな時間です。

 

いまの定番絵本だと、「しごとば」シリーズ(鈴木のりたけ、ブロンズ新社)とか、「バムとケロ」シリーズ(島田ゆか、文溪堂)なんかでも、共通する楽しみがあるように思います。すみずみまでごまかさず、ていねいに描きこまれた絵から、子どもは絵本の世界観をよく読み取ります。

『こんなおみせしってる?』では、子どもの私はどのページも時間をかけてよく読み込んでいましたが、特に覚えているのが、おもちゃ屋さんの画面です。

 

画面に描かれたのとそっくりのおもちゃ屋さんが、子どものころ、祖父母宅のあった名古屋・いりなか駅の出入り口付近にありました。「リンダ」という名前のお店で、初めての補助輪付き自転車なんかもそこで買ってもらうような、よく行くおもちゃ屋さんでした。

 

そこの店内ディスプレイが、絵本にあるような、ガラスケースに怪物のお面がたくさん積み上げられたものでした。

 

リンダに行くと、なんだかこのケースが怖くてあまり目を向けられなかったのですが、絵本のなかのお面は「動かないから大丈夫」としげしげ見ていました。

 

子どもならではの絵本の使い方だな〜と、いまとなっては思います。

子どもに響く絵本選びのポイント③「たびたび子どもが登場する」

そして、みっつめのポイントが「たびたび子どもが登場する」ことでした。

 

子どもって、なぜだか絵本のなかでも、年の同じくらいの子どもをいつも探しています。画面の中に子どもが描かれていると、どことなくホッとするんです。

 

『こんなおみせしってる?』には、ほとんどのお店の風景に子どもが登場します。たまごを落として割ってしまっていたり、食品サンプルをものほしそうに見ていたり。

 

その子たちを見て、子どものころの私は、自分を投影することもあれば、対抗心を燃やすこともありました。画面の子どもたちは、絵本を読むという行為のなかに、効き目のいいスパイスとして存在していたように思います。

 

逆に、この絵本のかつら屋さんやブロマイド屋さんの光景には、子どもがいません。そのことが、無性に不安をかきたてもして、それがまたいいエンタテインメントになっていました。

 

『こんなおみせしってる?』は、いまではレトロ絵本として認識されていて、絵本ナビのレビュー数を見ても大人が読んでいる割合が高いようです。

 

けれど、しっかり子どもの方を向いて作られた絵本でもあって、子どもが面白いと思う絵本表現を知るには、かっこうの材料が作品のなかに息をひそめてもいます。

 

いまだから、ひもといてみる価値があるのかもしれませんよ。

庭にやってきたにわとりの話

絵本を開いて昭和レトロの世界をさまよっていたら、昔の色々が思い出されてきました。

 

ついでにひとつ、おばあさんちの庭の話をして、今日はおわりにしましょう。

 

てらしま家の三姉妹がいつもいた、名古屋・いりなかの「おばあさんち」。その家には、植物のおいしげる大きな庭がありました。

 

庭のまんなか、砂地のところには、にわとりがたくさんいました。なんでも、一番目の孫(私です)が生まれたときに、おばあさんが「孫にたまごを食べさせよう」とにわとりを買ってきたんだそうで……。

 

にわとりは毎日いくつもたまごを生みました。てらしま家の三姉妹やいとこのきょうだいたちは、ころころと転がるたまごを拾ったり、菜っ葉を摘んでにわとりにやったりしたものです。

 

でも、にわとりもいつまでも生きてはいません。一羽、また一羽と減っていき、私が小学校に上がるころには、最後にめんどりだけが残りました。にぎやかだったにわとり小屋は、とんとしずかになりました。

めんどりの小屋に起きた異変とは?

庭の片隅に移動しためんどりの小屋に、しかし、ある異変が起きたのです。

 

小さな子猫が一匹、どこからか迷い込んだのでした。

 

真っ黒な子猫は、めんどりに育てられて、若い猫になりました。おばあさんちの面々が猫に気づいたのは、めんどりと子猫の生活がしばらく経ったころでした。

 

私たちはこの猫に「キキ」と名前をつけました。キキは気のいい猫で、話しかければ寄ってきて、私たち子どもの相手をしてくれました。

 

しばらくして、キキの親役を買って出ためんどりも、とうとう死んでしまいました。おじいさんが庭の柿の木の下に穴を掘って、そこにみんなで埋めました。庭にはもう、にわとりの鳴き声が聞かれなくなりました。

 

そんなある日、小学校から帰った私を、母が「こっちこっち」と手招きします。

 

「なんだろう?」と後をついていくと、母は母屋の軒下にとめてある古ぼけた乳母車の前で立ち止まって、指をさしました。

 

乳母車のなかをのぞきこむと「あ……!」。

 

キキがいて、こっちを見ていました。そのお腹のところには、小さな毛玉がいくつもひっついています。白、白、黒、ぶち、ぶち、白。キキは6匹の子猫を生んだのでした。

 

子猫たちはまもなく出歩くようになりました。

 

庭にはにわとりもたまごもなくなってしまったけれど、そのかわりに、にわとりに世話になった私たち6人の子どもと、総勢7匹になった猫の親子がかけまわるようになりましたとさ。

 

絵本みたいな、本当のお話です。

てらしま ちはる

1983年名古屋市生まれ。絵本研究家、フリーライター。雑誌やウェブ媒体で絵本関連記事の執筆や選書をするかたわら、東京学芸大学大学院で戦後日本の絵本と絵本関連ワークショップについて研究している。『ボローニャてくてく通信』代表。女子美術大学ほかで特別講師も。日本児童文芸家協会正会員。http://terashimachiharu.com/

写真:©渡邊晃子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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