【編集長の気になる1冊】私の道は続くのだ。『まだまだ まだまだ』
スタートは全員ずれている。生まれてから40年以上経っている私と、倍近く生きている母と、半分にも満たない息子。
誰もがそうであるように、3人とも気が付いたら走り続けている。ゴールはどこだ。目を澄ましてみても一向に見えてこない。本当に疲れるかけっこだ。こんなに走っているのに、まだ前が見えない。仕方ないから、寄り道をしてみたり、まわりを眺めてみたり、仮でゴールにしてみたり。
時々、母がもう進みたくないという。合間に息子が進む気配を消してしまう。そんな時、私は思いっきり逆走をしたくなってしまう。あの時、あっちの道を進んでいれば。一緒に走ってあげていられれば。
同じところをぐるぐる回っている私のよこで、気が付けば息子が静かに筋トレをしている。母がいつの間にか音もなく先の方を走っている。そうか、そうだ。
「まだまだ、まだまだ」
私の道は続くのだ。
まだまだ まだまだ
「よーい、どん」でみんなが一斉に駆けだします。かけっこですね。楽しそうです。あれ、もうゴールになっちゃった?! いえいえ、物語はここからスタートですよ。
「まだまだ まだまだ」
ひとり飛び出したのは、男の子。ぼくはまだ終わらないのです。賑やかな街の中や、ビルの間や町のはずれも、畑の中だって。まだまだずっと、かけっこです。走り続ける彼を不思議そうに見る人がいれば、気が付かない人だっている。そんなのおかまいなしに、彼はまだまだ、まだまだ、走ります。やがて、牧場も森の中もその先も抜けていくと……あれ?
たとえ誰かに「これで終わり」だって言われても、ぼくはまだまだ行きたい。どこまで行くのか、ぼくにだってわからないけれど、まだまだ行ってみたいのだ! この絵本を読みながら耳を傾けてみると、どこからか聞こえてくるこんな叫び。だけど、走っている本人は飄々としたもの。子どもたちの心はいつだって自由なものです。
「まだまだ まだまだ」
見習わないといけないのは、私たちのほうかもしれませんね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
いったんゴールをしたかと思ったぼくが、まだまだ終わらないからと、一人駆けていく姿のなんて楽しそうなこと。嬉しそうなこと。こんな顔、どこかで見たことあったっけ。
とりあえず、私も。よく準備体操して、もう一回。
「よーい、どん!」
まだまだ五味太郎作品!
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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