vol.16 心してにぎることにします。『おにぎりに はいりたいやつ よっといで』
昔からおにぎりが大好き。
子どもの頃、家族で出かけた時に外で食べる母のおにぎりはいつも最高だったし、給食であまったごはんを先生がおにぎりにして配ってくれた時の味も忘れられない。
パリパリのりのおにぎりを初めて食べた時の感動は覚えているし、友だちのお弁当に入っている具沢山で豪華なおにぎりがうらやましくてたまらなかった記憶もずっと残っている。
コンビニのおにぎりも悪くないし、オフィスの近くにあるおにぎり屋さんの素朴な味が美味しくてしょっちゅう食べている。
だけど。
自分のつくるおにぎりには今イチ自信が持てないのです。美味しい具を入れているし、塩加減だって強め。のりはしっとりさせているし、にぎり方だってフワッとさせているはずなのに……息子の一番好きなおにぎりは「塩むすび」。そりゃあ、炊きたてのご飯には勝てないけどさ。
あ、もしかしたら私は大事なことを忘れているのかもしれません。
「おにぎりの身になってみる」
どういうことかというと。
おにぎりに はいりたいやつ よっといで
おにぎりに気持ちなんてあるの……?
そんなところでつまづいていたら、岡田よしたかさんの絵本を楽しむことはできません。なにしろこのお話、おにぎりたちのこんな会話から始まります。
「ぼくら、ぐ、いれてもらってないねんなあ」
「ぐ、ほしいな。みんなでさがしにいこか」
はだかのままではカッコ悪いと、それぞれお気に入りの服(のり)を着て、自らの“ぐ”を自分たちで探しに出かけるのです。その出かけた先というのは…
海!
広い砂浜におにぎり。目の前に現れたのは巨大なサメ。
なんという景色でしょう。
確かに“ぐ”といえば、シャケ、たらこ、ツナマヨ。
方向性は間違ってはいないけれど。
でも大丈夫、カモメに教えてもらって、彼らは気をとりなおして商店街に出かけます。ここなら自分たちにぴったりな“ぐ”に出会えるでしょうか。
読み終わってみれば、なんとも変なお話です。おにぎりたちは、どうしてそんなに“ぐ”を入れてもらいたいのか。シャケやたらこたちはどうしてそんなに“ぐ”になりたいのか。
だけど一つ確実に言えるのは、登場する食べ物たちがみんな生き生きしているってこと。なんだかずっと楽しそう。表情はないのに、動きだけで伝わってくる。すると美味しそうに見えてくるっていうのが不思議です。気が付けば、口の中にさまざまな“ぐ”の入ったおにぎりの味が浮かんできて……。確かに彼らの言う通り、その出会いが最高に幸せなのもしれません。お腹のすく絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
彼らは言うのです。
「ひとつの おにぎりに ひとつの ぐ(具)。
これこそ、ぐ にとって
さいこうの しあわせや」
一期一会、それこそ運命の相手なのです。
そんな事を思いながら、大事ににぎったことがあったでしょうか。
そこまで思いながら、大切に具を入れたことがあったでしょうか。
今度から心してにぎることにしてみます。
春からお弁当生活ですし……。
岡田よしたか たべもの絵本の世界
磯崎 園子(絵本ナビ編集長)
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