【ランキング】夏休み、どんな本が読まれてる? 2023年7月から8月上旬の児童書人気ランキング発表!
夏休み、小学生が読んでいるのはどんな本? 人気のロングセラー読み物から新刊読み物まで。また気になる課題図書の人気作品などを一挙ご紹介。夏休み後半、何か面白い本はないかな、と思ったら参考にしてみてくださいね。
ここまでいろいろ本を読んだ人も、読書はこれから、という人も、夏の読書を楽しみましょう♪
2023年7月から8月上旬、児童書人気ランキング【2023/7/1~8/9】総合!
「あなたはあなたのままでいい」2023年課題図書低学年の部のこちらが、今夏の一番人気作品!
きつねは絵を描くのが大好きです。何かにすごい! と気持ちが動いたら、勢い良くどんどん描いていきます。けれども、絵を見たやまねこから「ほんものとは ずいぶん ちがうな、へんなのー。」と言われたり、あひるからも「もっと きちんと いろを ぬらなくては だめですよ。」と言われてから、急に周りの目が気になるようになってしまいます。
そんな中、展覧会に絵を出品することになったきつね。みんなを見返したくて、「すごい絵」を描いてやるぞ! と意気込みますが、描いても描いてもこんな絵じゃだめなんじゃないか、もっとすごいものを描かなくちゃと焦ってばかり。描けば描くほど楽しくなくなってきて、みんなにどう思われるかばかり心配になって、とうとうきつねは絵を描けなくなってしまいました。
その後、ためいきをついてばかりのきつねでしたが、てつぼうができずにからかわれている友だちのうさぎとのやりとりを通して、大切なことを思い出していきます。
そして展覧会の日がやってきて……。
自分の好きなこと、やりたいことに対してただ気持ち良くやればいいのに、つい周りの目が気になってしまうこと、子どもたちにもきっとたくさんあることでしょう。なかなか自信が持てなくて、周りの意見が気になってしまうきつねの姿に共感する子も多いのでは? きつねの姿と友だちのうさぎのやりとりを通して、とても大切なメッセージが伝わってきます。
絵本から童話、紙芝居まで、子どもたちの心の動きを丁寧に綴った作品をたくさん生み出されている礒みゆきさんが描くとっておきのおはなしは、うさぎが登場するあたりからの展開に驚きがいくつも隠されていて、何度もハッとさせられると同時に、温かい気持ちが充満してきます。はたこうしろうさんが描く、きつねの表情や動きも生き生きとして、なんて魅力的なのでしょう。さらに、きつねが描いた絵もおはなしの中で見ることができるのですが、その絵もとっても素敵なんです。
「かきたいから かく。かきたいものを かく。」
きつねが自分に向けてつぶやくこのセリフは、絵のことだけでなく、いろいろなことに共通する大切なこと。小学1、2年生向きのおはなしではありますが、小学生全員に伝えてあげたいメッセージが詰まっています。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
新版でさらに読みやすくなったムーミンの物語、夏のお話。
ムーミン谷が洪水に見舞われ、流れてきた家に移り住んだムーミン一家。あやしい家は、どうやら劇場というもので、ドタバタと芝居をすることになりますが…!? 一家離散の大騒動や、スナフキンとちびのミイのたのしい一幕も必見です。
1964年に翻訳出版されてから、55年もの間愛され続けてきた「ムーミン」の物語。大人気のキャラクター「ムーミン」は、この全集が原典となっており、今なおその魅力は増すばかりです。
この度、今の時代により読みやすくするべく、改訂を行いました。
初めての方も、ムーミンのことなら何でもご存じの方も、楽しんでいただける[新版]として、順次刊行して参ります。
1現代的表現、言い回しに整え、読みやすくなりました
2さしえがクリアな美しい線で再現されます
3原語最終版に基づき、より細部にこだわった表現に
4フィンランド最新刊と共通のカバーデザイン
5四六判ソフトカバーでコンパクトに
こどもから大人も楽しめる、大注目のシリーズ、決定版です!
展覧会開催で今盛りあがっている『エルマーのぼうけん』が3位に。
さあ、リュックサックに道具をつめて、エルマーと一緒に冒険の旅に出発しよう!
これは僕の父さん、エルマーが小さかった頃のある冒険のお話です。ある雨の夜、エルマーは、年取ったのらねこから、「どうぶつ島」に捕らえられているかわいそうなりゅうの話を聞きます。りゅうは、空の低いところに浮いていた雲から落っこちてきたちっちゃな子どものりゅうで、ジャングルの猛獣たちに捕まえられて、川を渡るために働かされているというのです。
エルマーは、すぐに助けに行こうと決心します。早速ねこにどうぶつ島のことや、持っていくものを教えてもらい、旅の準備に取り掛かります。エルマーがリュックサックにつめたのは、「チューインガム、ももいろのぼうつきキャンデー二ダース、わゴム一はこ、くろいゴムながぐつ、じしゃくが一つ、はブラシとチューブいりはみがき‥‥‥」などなどたくさんの道具。そして「どうぶつ島」へと繋がる「みかん島」行きの船に忍び込んだエルマーは、六日六晩たってようやく「みかん島」へ。ここで食料のみかんをリュックいっぱいに詰め込んで、夜の間に「どうぶつ島」へと渡ります。
「どうぶつ島」へ着くと、早速りゅうがつながれている川を探しに、気味の悪いジャングルの中を歩いていくエルマー。ジャングルでは、おかしな喋り方をするねずみや、うわさ好きのいのししに出くわしたり、とら、さい、ライオンなど恐ろしい猛獣たちにつぎつぎと出くわします。猛獣たちはたいていお腹をすかせていて、食べられそうになることもしばしば。さてエルマーは、どんな風に猛獣たちの危険をくぐり抜け、どうやってりゅうを助け出すのでしょうか?
特に注目したいのは、リュックサックに詰めた道具たちの活躍と、見返しに描かれた「みかん島とどうぶつ島のちず」。道具は、はじめはこんなものが何の役にたつのだろう? と思ってしまいそうなアイテムばかりなのですが、エルマーの知恵も合わさって、驚くほどぴったりはまって役に立つ様子にワクワクさせられます。道具を介した猛獣たちとのやりとりもユーモアたっぷり。何回読んでも繰り返し楽しませてくれる場面がいっぱいです。
「みかん島とどうぶつ島のちず」には、エルマーが冒険した場所や、エルマーの足取りが細かく描かれています。地図を見ながらお話を読み進めていくと、よりエルマーと一緒に冒険しているような臨場感が味わえるでしょう。お話の途中で、また一章ごとに、お話を読み終えた後になど、ぜひ地図をたっぷり眺めながら読んでみて下さいね。
日本では、1963年の刊行から50年以上も読み継がれ、幼年童話の最高峰とも呼ばれる本書。作者は、ニューヨーク生まれのルース・スタイルス・ガレットさんという女性で、このお話でニューベリー賞(アメリカで毎年最もすぐれた児童文学作品に与えられる)を受賞しています。さし絵は、お継母さんのルース・クリスマン・ガネットさんによるもの。細かいところまで丁寧に描かれながらも、ユーモアあふれる魅力的なエルマーやりゅう、猛獣たちのさし絵が、物語を一層楽しく盛り上げます。さらに英語版の文字の大きさや書体を決めたのは旦那様のピーターさんだそうで、刊行時は、家族総出でこの本を作るのに取り組まれていたそうです。
この後も、『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』と続いていく、エルマーとりゅうのとびきりの冒険と友情の物語。内容は5才ぐらいから楽しめるかと思いますが、子どもがひとりで読むのは小学2年生ぐらいまでは難しいのではということと、なかなかのハラハラドキドキの冒険となりますので、はじめはぜひ大人が読んで聞かせてあげて下さいね。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
合わせておすすめ。
2023年6月に再登場の、持ち運びに便利なソフトカバー版もおすすめ♪
第4位は同数の売れで、2タイトルが並びました。
第4位 さかさまがっこう
下記の記事で、おすすめしています。
第4位 大きい1年生と小さな2年生
子どもたちが1、2年生のうちにぜひ出会わせたい名作!
お話に登場するのは、体は大きいけれど弱虫の1年生のまさやと、体は小さいけれどしっかり者でけんかも強い2年生のあきよです。読む子どもたちは、それぞれどちらに親近感を覚えるでしょうか?
まさやは1年生になったばかり。家から学校までの「がけのあいだのみち」がこわくて仕方がありません。狭くて暗いし、木はしげっているし、時々カラスも鳴いていてこわいのです。けれどもお母さんからひとりで学校へ行くのよ、と言われ困っていると、次の日、2年生の子どもたち四人が迎えにやってきて、まさやはあきよに手をつないでもらい、登校するようになります。まさやはあきよがいるだけで心強い気持ちになり、だんだんあきよの強さとしっかりとした様子に憧れるように‥‥‥。一方であきよもまた、まさやを見守ることによって、体は小さくても自分は大きいのだという自信が湧いてくるのでした。
そんなある日、事件が起こります。
あきよが好きな「ホタルブクロの花」を、「じんじゃの森」に探しに行くことになったあきよとまり子(あきよの友達)とまさや。傷を作りながらもあちこち探して、やっとの思いで二つだけ手にするのですが、帰り道に3年生の男の子たちとケンカになり、踏みつぶされてしまいます。その時、あきよが泣く姿を始めて目にしたまさやは、あきよのために「ホタルブクロの花」を取りに行こうと決意するのでした。そして1週間後の日曜日、「ホタルブクロの花」がたくさん咲いているという遠い場所にある「一本スギの森」に向かって歩き出します。ひとりで学校へも行けないまさやが大きな勇気を出して頑張る姿がみどころです。
こわいものがたくさんあるまさやも、体が小さいことに強いコンプレックスを持っているあきよも、それぞれの悩みは本人たちにとっては深刻なものでしょう。大人も読んでいるうちに自分が子どもの頃に感じていた悩みや感情を思い出し、子どもたちが目にしている毎日や世界がありありと感じられるような体験をするのではないでしょうか。中でも「しっかりする」というのは、いったいどういうことなのか? とまさやが考える場面では、小学生になったらしっかりしなさい、しっかりしなくちゃいけない、と言われるのは昔も今もずっと変わらないテーマなのだなあ、と思わせられました。
1970年の刊行以来、50年以上も読み継がれているこちらのお話は、『おしいれのぼうけん』『ロボット・カミイ』でおなじみの児童文学作家古田足日さんが残された名作です。小学1、2年生の子どもたちが抱える不安や悩みはどんなに時代が変わっても変わらない普遍的なものであること、しかし、きっかけさえあれば、短い間でぐんと成長するたくましさを秘めていること、まさやとあきよがお互いに関わりながら大きく成長していく様子に子どもは子ども同士の関わりの中で育つ、という真理を見たりなど、何度読んでも胸を打つものがたくさんあります。
子どもたちが1、2年生のうちにぜひ出会わせてあげたい作品です。
しかし長さは166ページとボリュームがありますので、1、2年生でひとりで読めるという子はなかなかいないでしょう。ハラハラする場面もたくさんありますので、大人がお話の案内人となって読んであげることをおすすめします。各章の表題も、「ぼく、おなか すいたあ」「子どもには、たいていのみちは、はじめてのみち」「しんせつなおじさんか? ゆうかいはんか?」など、とても魅力的。章ごとに毎日1章ずつ読んでいくというのもいいですね。子どもたちへの応援の気持ちをたくさん込めながら、ぜひご家庭や教室で、読んでみて下さいね。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
第6位 先生、しゅくだいわすれました
発売以来、夏の読書感想文時期に特に人気の一冊!
ある朝、宿題を忘れてしまったゆうすけくん。
このままだと、先生に「追加の宿題」をさせられる!
とっさに、おなかが痛くて宿題ができなかったとウソをつきますが、話すうちにどんどんボロが出て、結局バレてしまいました。
「ウソつくなら、すぐばれるようなのはだめだよ。もっと、ばれないようなので、それから、聞いた相手が楽しくなるようなのじゃなくちゃ」
そう言ってニヤリと笑う、えりこ先生。
それなら、よーし、見てろよ!
「先生、しゅくだい忘れました!」
次の日、さっそくはりきってそう報告したゆうすけくん。
理由をきかれて、さあ、待ってました!
ぼくが宿題できなかったのは・・・宇宙人のせいなんです!
「先生、おれ、たぶん明日宿題忘れます」
「ずるい。明日はわたしが忘れようと思ったのに」
「おれも宿題忘れたい」
「じゃあ、順番にしようよ」
そうしておかしなことに、みんなは順番に「宿題を忘れる」ことにしました。
どうして宿題をすることができなかったのか、そのおかしな理由を毎日ひとりずつ話していく、クラスのみんな。
ところが、その日に宿題を忘れてきたのは……なんと、えりこ先生!
「あんまり賢くない宇宙人のせい」や、「野ネズミの恩返しのせい」など、クラスのみんなが話す、「宿題をできなかった理由」がとってもユニークです。
ウソをただウソとかたづけずに、想像力を自由に遊ばせる方法としてとらえ直すその考え方に目からウロコ!
なるほど、ウソのいなし方にはこんな方法もあるのかと、納得させられます。
物語をつむぐ楽しさ、そしてそのむずかしさを描いた、胸躍ることうけ合いの一冊です。
「そりゃあ、プリント作るの忘れてもしかたないね」
クラスのみんなも納得、えりこ先生が宿題を忘れた、その壮大な理由とは?
(堀井拓馬 小説家)
第7位は同数の売れで、4タイトルが並びました。
第7位 数と図形について知っておきたいすべてのこと
複雑な仕組みをアイデアたっぷりのイラストでシンプルに解説することで有名な世界的ベストセラー作家・イラストレーター、デビッド・マコーレイによる算数図鑑です。
日常生活でも一生つきまとう算数の基礎知識を、お金の計算や時間の計り方、地図の見方、建物の建て方、乗り物の動き方、表の作り方など60以上のトピックに分け、それぞれマンモスとトガリネズミによる一コマストーリーで解説していきます。
足し算、掛け算、約数、分数、比率、面積、体積、角度、数列、速さ、質量、確率…、言葉や数式だけではなかなか納得できなかった算数の基本概念が、子どもも大人も目からウロコが落ちるようにわかります。
第7位 けんかのたね
2023年課題図書、低学年の部より
忙しい一日を終えたお父さんが家に帰ると、家の中は大さわぎ! いぬは、ねこをおいまわし、4人のきょうだいは大げんか。「いったい、だれをしかっていいのやら……」と途方にくれるお母さん。
「わたしは、わるくない!」と、いちばん上のおねえちゃんのドラ。
「ちがう! ぼくのせいじゃない」と弟のフランク。
「あたしのせいじゃない」と妹のエミリー。
つぎつぎに自分のせいじゃない! といいわけする子どもたち。
一方、いぬのボンゾーとねこのプッスはいいわけができません。
結局すえっ子のミーナの言い分から、もめごとのはじまりはねこのプッスということに。そのプッスが向かったのは、ねずみのところ。「もとはといえば、おまえがわるいんだよ!」とねずみに襲いかかろうとするプッスに対して、ねずみは意外な行動をとって……。ここからお話は意外な方向へ展開していきます。
ひとつの「たね」からどんどんもめごとが繋がっていくさまと、その逆が起こっていくさまを同時に目のあたりにできるところが、このお話の面白さ。とくにドタバタのケンカ劇が修復していくさまには、しっかりと心に残るメッセージがあります。子どもたちにとっても大人にとってもどこか身に覚えのある身近な日常の光景だからこそ、より心に響いてくるものがあることでしょう。
『おやすみなさいフランシス』でおなじみのラッセル・ホーバンさんが描く、ユーモラスながらも心に残る温かい家族のお話。小宮由さんの生き生きとした会話で進む語り口は、子どもたちに読んであげるのにもぴったり。登場人物のセリフの口調の違いからそれぞれの性格もよく伝わります。挿絵を描かれているのは、小学校の国語の教科書の表紙画なども手がけられている大野八生さん。けんかというテーマを和らげる、大野さんの明るくコミカルな絵は親しみやすいですね。中でも特にいいなと思った挿絵は、「けんかのたね」がどんどん繋がっていく様子がひと目で分かる表紙と、ねずみが丁寧に暮らしていることが伝わる壁の中のねずみの住まいの様子の絵。ぜひお話と一緒に楽しい挿絵の細部も楽しんでみて下さいね。
小学1年生ぐらいから大人の方まで、幅広い年齢の方におすすめしたい絵童話です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
第7位 かあちゃん取扱説明書
ぼくんちで、一番いばっているのはかあちゃんです。今朝も朝からガミガミうるさくって、ぼくはハラがたちました。かあちゃんにいいたいのは、何日も同じごはんをつくらないでほしいです。さいごに、かあちゃんはすぐ「早く」っていうけれど、ぼくが「早く」っていうとおこるのは、やめてほしいと思います。
……ぼくの作文を読んだ父ちゃんは大笑いして「かあちゃんはほめるときげんがよくなるんだ。とにかくほめること。パソコンもビデオも扱い方をまちがえると動かないだろ、それと同じさ」
扱い方! そうか、扱い方さえまちがえなければ、かあちゃんなんてちょちょいのちょいだ!
哲哉はこうして、かあちゃん取扱説明書を書きはじめたのだが…。
第7位 新版ヒキガエルとんだ大冒険(1) 火曜日のごちそうはヒキガエル
ヒキガエルのウォートンが、恐ろしいミミズクにつかまった! 誕生日のごちそうに食べられちゃうの!?
小学校の国語の教科書にも長い間取り上げられているこちらのお話。大人の方には懐かしく感じられる方も多いのではないでしょうか。1982年に日本で初めて刊行された後、2008年に訳を新たに装丁も大きく変わり、さらに手にとりやすく、読みやすくなりました。
土の中で暮らしているヒキガエルのきょうだい、ウォートンとモートン。ある冬の日、ウォートンはモートンが作った美味しい砂糖菓子をおばさんに届けるため、寒い雪道をスキーで出かけます。しかし途中で足をケガして、たちの悪いミミズクにつかまってしまうのでした。ミミズクは6日後の自分の誕生日の特別なごちそうとして、ウォートンを食べるといいます。けれどもウォートンとミミズクは毎晩、お茶を飲んでたくさんおしゃべりをするように。もしかしたらミミズクの気が変わるかも? と淡い期待を持つウォートン。読者である私たちもウォートンがどうか食べられませんように、と祈らずにはいられません。そうするうちにもミミズクは、カレンダーの日付をいちにちいちにち「×」で消していき、誕生日はどんどん近づいて‥‥‥。
はたしてウォートンは食べられてしまうのでしょうか?
どんな絶望的状況にあろうとも決してあきらめない勇敢なウォートンの姿と、お話のあちこちで感じられる登場人物それぞれの優しさに、子どもたちは何を感じとるでしょうか。来たるミミズクの誕生日には予想外の展開が次々とおとずれ、心があちこちに大きく揺さぶられます。さまざまな感情をウォートンとともに体感し、ウォートン以外の登場人物の気持ちをも汲みとることで、言葉にできない豊かなものが子どもたちの中に育まれていくようなそんなステキな作品です。
ヒキガエルのウォートンとモートンのお話がもっと読みたくなったら、ぜひ続けて「ヒキガエルとんだ大冒険」シリーズをどうぞ。こちらはなんと続編が6冊も出ています。1人で読むなら3年生ぐらいから、読んで聞かせてあげるなら5歳ぐらいからおすすめの名作です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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2023年7月~8月上旬、小学生向け読み物、新刊部門ランキング
頑張るみんなにプレッシャーでなくエールを!
「楽しくやるってことを、頑張らなくていいってことだと思ってるよね。」
「二十四時間、毎日毎日、合唱コンクールのことだけを考えていたら、うまくなれるの?」
「まわりと競争して一番をめざすことだけが、えらいってわけじゃないじゃん。」
どのセリフも心の真ん中にささるような、ドキッとするやりとり。
クラスメイトや仲間と何か一緒に取り組んだことがある小学生、中学生の皆さんは、似たような場を体験したことがあるでしょうか。
中心となる舞台は、学校の合唱クラブ。合唱コンクールに向けて「今年こそ金賞を」と力の入る張りつめた空気の中で、「頑張る」ことに対して、さまざまな立場や考え方の人が登場します。部長としての責任感から部員や下級生への指導に厳しさが増していく部長の穂乃花、合唱クラブの厳しさに耐えられなくなり不登校になってしまった優里、合唱部の雰囲気と優里のことでもやもやしながらもなかなか自分の意見が言えない、このお話の主人公、真子。合唱クラブには所属していないけれど美しいボーイ・ソプラノの歌声をもつ朔(はじめ)、そして朔が参加する商店街の「半地下合唱団」の個性的なメンバー。
朔に誘われて「半地下合唱団」の練習に参加するようになった真子は、発声練習も基礎練習もせず声量がバラバラながらも、「半地下合唱団」の全員が楽しそうに歌っている姿に打たれます。さらに、思っていることをしっかり言葉にできる朔やメンバーとのやりとりを通して、だんだん自分の言葉を見つけていきます。
元々は友だちだった部長の穂乃花がどんなに部員に厳しい言葉をかけても何も言い返せない真子の姿に共感する人も多いことでしょう。けれども、どうしたら良いのか、ずっと悩んで考え続けていたことで、真子の内側の思いはしっかりとした言葉となっていきます。穂乃花や顧問の先生に対して真子の言葉があふれ出る場面には、お話を読みながら同じようにもやもやしていた私たちの気持ちも外に出ていくようで、清々しさを覚えたり、励まされるのではないでしょうか。さらに、合唱クラブの在り方に対して全部を否定するのではなく、相手にとっての「正しさ」を認めながらどっちが間違っているとか悪者というわけではない、という考えには、人と人とのコミュニケーションにおける大切なことを教えてもらった気がしました。
「力強く、澄んだ風に物語や想いがとけると、ラベンダーみたいな優しい香りがする」
小学校の入学式の時に、はじめて聴いた合唱クラブの歌に、いい香りのするラベンダーのような風が吹いてきたのを感じた真子。それ以来ずっと憧れ、四年生で期待に胸を膨らませて入った合唱クラブ。さて、思いを伝えた先の合唱クラブの歌声は、またラベンダーの香りを吹かせることができるのでしょうか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
第2位は同数の売れで、3タイトルが並びました。
ヨシタケシンスケさんが描く 「人は何のために生きてるの?」の3つのお話。
身も蓋もない言葉の中にだけ、
希望を見出せるときもある。
ヨシタケシンスケが描く
「人は何のために生きてるの?」の3つのお話。
『メメンとモリとちいさいおさら』
メメンが作ったお皿を割ってしまったモリ。
「世界にひとつしかないお皿なのに…」といつまでもクヨクヨしているモリに、
メメンは「大丈夫よ、また作ればいいんだから」と励まします。
『メメンとモリときたないゆきだるま』
夜のうちに降った雪。メメンとモリは次の日の晴れた朝、張り切ってゆきだるまをつくりました。
でも雪は足りず、晴れて溶けかかり、できあがってゆきだるまは想像していたものと違いました。
複雑な顔をしてゆきだるまを見つめるメメンとモリ。
でもゆきだるまは、そんなふたりの顔を冷静に見ていたのです。
『メメンとモリとつまんないえいが』
つまらない映画を見てしまったメメンとモリ。「時間を損しちゃったね」と話しているうちに、
モリは「みんなは楽しいことをしているのに、ぼくだけ損をしているみたい」と思いはじめます。
そんなモリにメメンは「いきものはべつに楽しむために生きているわけじゃないからね」と言うのですが…。
全国に広まり、数多くの児童と先生の間をつなげてきた<あのね帳>がヨシタケシンスケさんの絵で蘇る!
鹿島和夫と担任した小学校一年生たちとの、いわば交換日記であった「あのね帳」からセレクト。笑いをさそうもの、胸をうつもの…こどもたちから生まれた生のことばがヨシタケシンスケの絵とタッグを組み、新たに心をゆさぶる。
読書感想文の悩みに寄り添い、助けてくれる頼もしい一冊!
毎年夏になると多くの親子が苦労していると思われる「読書感想文」の宿題。
そんな読書感想文の悩みに寄り添い、助けてくれる頼もしい一冊が登場しました。
表紙には「読書感想文」の文字はありません。「ことば変身辞典」という文字が飛び込んでくるので、一見、ことばの本なのかと思いますよね。本書は確かにことばの本なのですが、ことばを変身させるということが読書感想文さらには文章を書くときの大きな助けに繋がることが本書を読むと分かります。
この本の著者である、こな・つむりさんは、「はじめに」のところでこんな風に言われています。
“この本は「思ったことを言葉にするのが苦手」「言いたいことはあるけれど言葉が出てこない」「読書感想文を書くのがめんどう」と感じたことがある子どもたち、そしてその親御さんに読んでもらいたい本です。”
ここで言及されている、思ったことを言葉にする難しさというのは、大人でも日々感じている方も多いでしょうし、もともと持っている語彙がまだ少ない子どもたちならなおのことでしょう。
本書では、読書感想文でよく使われる感情を表す13のことばに対して、それぞれ約10個の言い換えのことばを紹介してくれます。たとえば「うれしい」というひとつの感情に対して、うれしさの度合いに合わせて「ときめく」「わくわく」「ほおがゆるむ」「天にものぼる心地」などのことばを紹介してくれたり、「感動する」ということばについても「胸が熱くなる」「ぐっとくる」など、大人にも表現のヒントになりそうなことばをたくさん紹介してくれるのです。
ひとつの感情を表すことばにこんなにバリエーションがある! ということを知るだけでも、子どもたちはワクワクしたり、新しい表現を使ってみたいと思うのではないでしょうか。
そして、3章「おうちの人とやってみよう」、4章「文章を書いてみよう」の項目では、実際に読書感想文の書き方についてしっかりとした手順とともに具体的なアドバイスがあります。
著者のこな・つむりさんは、元書店員であり、POP職人としてあちこちで講座もされているそうです。本のPOPというのは、限られたスペースの中で最大限にその本の良さを伝えるものなので、まさにどんなことばを選んで使うかが重要になってきますよね。その名人であるこな・つむりさんが、ことばの広がりや使い方を易しく子どもたちに伝えてくれるというのは、とても頼もしいですね。さらに、3人のお子さんの母親でもおられるということで、本の中にはそれぞれの子どもたちと読書感想文に取り組んでみた様子がマンガで表現されていて、こちらは、あるある! の共感ポイントが満載。実際の体験を通してのアドバイスは説得力があり、どこをどうしたら良いのかが具体的に分かります。
今年の夏は、この一冊を手に、読書感想文に向かってみませんか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
第5位 ひげよ、さらば
上野瞭さんによる児童文学の傑作『ひげよさらば』が町田尚子さんの絵で新装版に。1984年にNHKの人形劇で放送され、今夏は舞台でも上映され話題に!
記憶喪失の猫、ヨゴロウザがいきついたのは猫たちが住むナナツカマツカの丘。あまたの敵から身を守るべく、群れない猫をまとめる理想に向かう片目に出会う。そこから猫たちの骨太な叙事詩が始まった。名作長編・三分冊の上巻。
編集者コメント
上野瞭の代表作ともいうべき『ひげよ、さらば』。原稿用紙1500枚ほどの骨太な名作長編が、町田尚子のみずみずしい絵を携えて三分冊で生まれ変わった。数多く登場する猫はじめ、犬、ねずみ、ふくろう、蛙、蛇…そのひとりひとりの魂をなまなましく感じるのは、上野瞭の哲学が息づいているからであろう。群れないはずの猫は共同体を作りうるのか? 読後、自分のひげはなんなのか、それにさらばといえるのか、考え続けたくなる。
犬達の縄張りで思いがけない提案を受けた帰り道。気がつけばヨゴロウザの前には兄貴と慕うさがし猫がいた。彼を連れヨゴロウザのなかの何かが目覚める。そして猫たちの骨太な叙事詩はつながっていく。名作長編・三分冊の中巻。
2023年7月~8月上旬、課題図書ランキング
低学年の部より『よるのあいだに… みんなをささえる はたらく人たち』
昼のあいだ、いろんな人が仕事をしている。
朝早く、おいしい朝食を買おうと、人々がパン屋を訪れる。
彼らは、電車や乗って、会社に向かう。
会社のビルでは、大勢の人たちがフロアを行き来して、働いている。
でもじつは、夜のあいだにも、いろんな人が仕事をしてる。
夜は道が空いていて、物が運びやすい! トラックの運転手さんが夜のあいだに小麦粉を届けてくれるから、パン屋さんは朝早くにパンを焼ける。
ビルの掃除をするのだって、人のいない夜のほうがやりやすい。夜のあいだに清掃員さんが掃除をしてくれているから、みんな気持ちよくフロアを使える。
それから、線路の工事をしてくれる、作業員さん。電車が走っていない夜のあいだに、線路のトラブルを解決して、安全を守ってくれている。
多くの人が寝静まる時間に働く人々をテーマにした、ユニークな視点のお仕事絵本。ひとつひとつのお仕事をくわしく掘り下げていくのではなく、紹介するお仕事のそれぞれが、互いに、あるいは昼のお仕事と、どう関わり合っているのかということについて、さまざまな表情を見せる夜の町でゆっくりと視点を移しながら紹介していきます。
みんなが眠りについている時間にも、途切れることなくどこかでだれかが働いていて、そういうお仕事ひとつひとつが、人々の生活全体を支えている。考えてみれば当たり前だけど、自分で気づいて、思い描くのはむずかしい。そんなぼくらにあたらしい視点で社会を見つめる目をくれる、「ありがとう!」のイマジネーションにあふれた一冊です。
低学年の部より『それで、いい!』
絵を描くのが大好きな、きつね。上手下手なんて考えもせず、夢中で絵を描いていました。あるとき、先生がきつねに展覧会に絵を出品するように勧めました。きつねは「みんながおどろくような、すごい絵を描く!」と意気込みます。だけど、なにを描いてもすごい絵なのかどうかわからず不安ばかりが募ります。あんなに絵を描くのが楽しかったのに、いまはちっとも楽しくないのです。とうとうきつねは絵を描けなくなって……。
人に認められることは、自信を持つことにつながります。だけれど、認められることばかりに気を取られてしまうと、人の目を気にして、自分自身の気持ちや考えをどこかに置き忘れてしまうこともあるものです。
きつねも、そうでした。ただただ、描きたいものを描きたいように描くことが大好きだったのに、みんなに「すごい絵」と、思わせたいという気持ちが強くなると、描いても描いても満足できず、描いても描いてもこれではいけないような気持になっていました。
そして、だんだん、描くことが苦しくなってしまうのです。
この物語は、子どもたちに、あなたはあなたのままでいい、と語りかけます。
人の目を気にしないで、やりたいことと、やりたいようにしていいのだ、と。
そのままのあなたが、すばらしいのだ、と。
第3位は同数の売れで、2冊が並びました。
第5位 うまれてくるよ海のなか
低学年の部より『うまれてくるよ海のなか』
ここは青い海の底、身を寄せあったクマノミ夫婦。2匹の下には、ひときわ目をひくオレンジの色。ぷちぷち、ピカピカ、まるで宝石! 2匹は、卵を守っているのです。
やがて生まれる赤ちゃんは、卵とは違って、透き通った銀色。星の粒のようなたくさんの赤ちゃんたちが、透明な海のなかを、きらきらと泳いでいく。なんて神秘的な光景でしょう。
かと思えば、こんな迫力のあるシーンも。
おおきく開けた口から、ドババー! パパの口からちっちゃな赤ちゃんを大放出する、ホシカゲアゴアマダイ。
まるでカンガルー!? お腹のふくろからひょっこり顔を出す、タツノオトシゴ。
海に住む生き物たちが産んだ卵と、それを守り、育む親の姿。そして、卵からかえったばかりの、ちいさな命。彼らにやどる生命の神秘を、ダイナミックに切り取った写真絵本です。
著者は、身近な自然への疑問をテーマにした絵本を多く執筆する、かんちくたかこさんと、海の生き物を捉えた大迫力の写真絵本で知られる、水中写真家の高久至さん。海の中でたくみに姿を隠す生き物たちの姿をユーモラスに映し出した、『かくれているよ海のなか』につづき、同コンビによる2冊目の絵本です。
「海の魚の多くは、お父さんが卵をまもるのはどうしてだろう?」という疑問をきっかけに、本書を手掛けたという高久至さん。
卵につきっきりで、水を吹きかけるもの。とにかくたくさん産み落として、ただようにまかせるもの。甲羅の隙間に卵を隠して、肌身離さず守るもの。本書に収録されている写真を見ると、卵の守り方もそれぞれにおおきく異なっているのがわかります。
「自然に対する「なぜだろう?」に、正解はないかもしれませんが、こうやって考えることは、とっても楽しく、たいせつなことだと思います」という高久至さんのメッセージのとおり、本書には知的好奇心をくすぐる疑問がいっぱい!
そのうえ、思わず口元ほころび目尻の下がる、とてつもなくキュートな赤ちゃんの写真まで載っているんだから、盛りだくさん。短い手足がチマチマとたよりない、ヤリイカの赤ちゃんに、ビー玉みたいにプクプクまんまるな、ハコフグの赤ちゃん……た、たまらない!
そんなのアリ!? と目を見張るようなおどろきの光景から、思わず口元ほころぶかわいい赤ちゃんの姿まで、みどころいっぱいの一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
いかがでしたか。
例年以上に暑さの厳しい夏、涼しいお部屋の中で読書したり、またお出かけの途中の移動時間や待ち時間などに読書を取り入れてみたり……。心に残る本との出会いがありますように。
秋山朋恵(あきやま ともえ)
絵本ナビ 副編集長・児童書主担当
書店の本部児童書仕入れ担当を経て、私立和光小学校の図書室で8年間勤務。現在は絵本ナビ児童書主担当として、ロングセラーから新刊までさまざまな切り口で児童書を紹介。子どもたちが本に苦手意識を持たずに、まず本って楽しい!と感じられるように、子どもたち目線で本を選ぶことを1番大切にしている。著書に「つぎ、なにをよむ?」シリーズ(全3冊)(偕成社)がある。
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