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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む「応援力」!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

応援は力になる!

2021年から2022年にかけて、東京オリンピック・パラリンピック、北京オリンピック・パラリンピックがあり、たくさんのアスリートの挑戦する姿を見ることができました。その姿を見ると応援せずにはいられません。

応援すると、される方もする方も力が与えられるのはなぜでしょう?

人のがんばっている姿を目にすると、一周回って「自分はどうなんだろう?」と問いかけられます。そして背中を押されます。子どもも大人も、応援することで自分のベストを尽くせる、それが応援の真価なのではないでしょうか?

子どもたちは成長する間に、応援する側にもされる側にもなることでしょう。自分のベストを探し成長していく道程の中で、「応援」は不可欠です。3月は旅立ちの季節。そんな「応援力」につながる絵本をご紹介しながら、新たな旅立ちを迎える子どもたちにエールを送りたいと思います。

思わず応援したくなる!

まずは、応援せずにはいられなくなる絵本を1冊。

ジィちゃんのすごい秘密とは?

ぼくのジィちゃん

ぼくの運動会の応援に、田舎からやってきたジィちゃん。ださいし、ニコニコしているだけで、なんだかカッコ悪い。でも、運動会当日、ぼくのジィちゃんのすごい秘密を知ってしまったんだ……!新しいおじいちゃん像を描いた、心温まる作品です。運動会シーンでの、スピード感あふれる絵にもご注目ください!

この絵本は、徒競走の苦手な“ぼく”と、ぼくの“ジィちゃん”のお話です。走るのが遅いと運動会は憂鬱ですよね。主人公のぼくも、走るのが苦手で運動会がきらいです。運動会の前の夜、田舎からジィちゃんも応援にやってきますが、ぼくの気分は晴れません。ジィちゃんは言います。

「はやく はしるということは、みぎあしを まえに だしたら、つぎは ひだりあしを まえに だす。それを、だれよりも はやくする。ただ それだけじゃ」

ぼくは、それを聞いても「それ あたりまえ~」と、やる気が出ません。結局、運動会ではいつものとおりビリになってしまいました。

しかし、事件はここからです。次は「PTAクラス対抗リレー」。ぼくのお父さんはアンカーで出場する予定だったのに急に会社から呼び出されてしまいました。リレーに出ることができなくなりアンカーを引き受けてくれる人もいません。すると、

「あの~、こまってるのなら、わしが でましょうか」

と、ジィちゃんが手を挙げてしまったのです! さあ、どうなる!?

そこから、ジィちゃんの大活躍が始まるのですが、対抗馬となる、陸上選手だったという筋骨隆々のハヤト君のお父さんの姿がまた壮大な前フリとなって、展開を際立たせます。

ちょっと前までは「どうせやったってできないよ」とあきらめきっていたぼくが、ジィちゃんの爽快なミラクルを前にみるみる表情が変わり、思わず応援し、「ぼくもやるよ」という前向きな気持ちに変わっていくのです。

 

そして、思わず応援してしまう絵本をもう1冊。

ビル、がんばれ!

かしこいビル

おばさんの家に招待された少女メリーは、大切な物をトランクに詰め込んで出かけましたが、一番大切な人形のビルを入れ忘れてしまいます。涙に暮れるビルでしたが、その後あきらめずに立ち上がり、メリーの乗る列車のあとを走って走って・・・。 絵も言葉もテンポがよく、気づけばお話の中に引き込まれています。半世紀以上も子どもたちに愛されてきた古典的絵本。

ある日、メリーのところにおばさんから「あそびにおいで」と手紙が届きます。メリーは大喜びでトランクに荷物を詰め込み始めます。お気に入りの兵隊のお人形“かしこいビル”も連れていく……はずが、なんと!! 慌てたメリーはかしこいビルを入れ忘れてしまったのです。ボタボタと涙を流すビル。しかし、ビルは涙の中から決然と立ち上がり、メリーを追いかけるのです!

この絵本は、古典の名作としてとても有名な絵本ですが、特におはなしを引き立てる絵の躍動感が素晴らしく、芸術的な作品として知られています。かしこいビルが立ち上がりメリーの乗った汽車を追いかけていく疾走感は、小さな子どもも目を見張り、「ビルがんばれ、がんばれ」という気持ちがどんどん湧いてきます。

無我夢中でがんばる姿に、思わず応援し気持ちが高まってしまう、そんな絵本です。

応援の言葉「おめでとう」

何かを成し遂げた、一つ成長した、そんなときにかける言葉「おめでとう」。次は、「おめでとう」という言葉で子どもたちの成長を応援する絵本をご紹介します。

子どもの成長を身近に見守ってきたモノたち

おめでとうかいぎ

卒園の日。なかなか眠れないゆうきくんは、スペシャルゲストとして通園バッグたちが開く「おめでとうかいぎ」に招待されます。そこで待っていたのは、ゆうきくんを見守ってきたものたち。思い出とともにお祝いが伝えられます。

ゆうきくんは、幼稚園の卒園式を迎えました。もうすぐ一年生です。ですが、一年生になったときのことを考えると、なんだか眠れません。すると、

「これから、ゆうきくんを おいわいする、おめでとうかいぎを ひらきます」

いつも一緒に幼稚園に通っていた通園バッグがやってきて、ゆうきくんが赤ちゃんの頃から一緒だった、ぼうしや服、ほにゅうびんや、トレーニングパンツたちとずらりと並ぶのです。

この時点で親目線としてはもう胸が熱くなるのですが、集まった物たちが一言ずつゆうきくんの思い出を語り、ゆうきくんが卒園までにいろんなことができるようになって、みんなに見守られて成長してきたことを伝えてくれるのです。

 大きくなっておめでとう、これまでもこれからも、たくさんの人や物が、あなたの成長を応援してくれるよ、がんばれるよ、ということをストレートに伝えてくれるステキな絵本です。

応援って見守ること

次は、応援する姿勢について考えさせられる絵本です。

そうだ、おかしに変身しよう!

おかしになりたいピーマン

きらわれ者のピーマン。
「なんでみんな、ぼくのこと嫌うの……。そうだ、おかしに変身しよう!」
そう考えたピーマンは、キャンディーにまぎれてみたりチョコレートをかぶってみたり。
でも、うまくいきません。

ピーマンが嫌いな子って多いですよね。そんなピーマンが子どもに好かれるべく奮闘する姿がユーモラスに描かれています。ですが、このピーマン、努力する方向がちょーっとずれています。お弁当のおかずになることを夢見ていますが、子どもたちに嫌われていることを知り、子どもたちの好きな「おかしになってみよう」とがんばってみるのです。

キャンディ、アイスクリーム、ケーキなどなどに変身してみますが、元はピーマン、無理があります。ピーマンの行動に突っ込みどころ満載で、「努力の方向性ちがうから!」と止めたいところ……なのですが、このピーマンがわが子だと考えると、どんなにまちがった努力をしていても、自分でもがいて気づかなければ意味がない! ということで、じっと見守りながら読み進めることになります。

 

紆余曲折ありつつも、最後には「よかったねー」という結果となるのですが、そこに至るまで「どんなに成功してほしくても、周りは見守ることしかできないのよね」という応援の境地をユーモラスに伝えてくれる絵本です。

ひとりじゃないと伝えたい

挑戦すること、戦うこと、生きていくこと、それらは最終的にはひとりで挑むことです。しかし、ひとりで続けていると押しつぶされそうになる。そんなとき、「ひとりじゃないよ」って語りかけること、それが背中を押してくれるということを伝えてくれる素晴らしい絵本があります。

わたしはひとりぼっちじゃなかった!

二平方メートルの世界で

札幌に暮らす小学3年生の主人公は、生まれたときから脳神経の病気で入退院を繰り返している。入院するとしばらくベッドの上での生活となる。お母さんは一緒にいてくれるが、放射線を使った治療のときは、ガラスを隔てて別々になる。家ではお兄ちゃんが鍵っ子になる。申し訳ない気持ちだ。どうして自分だけが病気なんだろう・・・。そんなある日、海音ちゃんは、病室で大発見をする。わたしはひとりぼっちじゃなかった! 実在の小学3年生が書いた 「子どもノンフィクション文学賞」(北九州市主催)の大賞受賞作品に、当代一の人気絵本作家はたこうしろうが絵をつけた奇跡のコラボレーション。誰も予想できない30ー31ページ目の見開きと、ハートウオーミングなラスト。涙なしには読めない感動作。

二平方メートルとは病院のベッドとその周りを囲むカーテンの中の範囲のこと。作者の前田海音さんは、3歳のころから長期入院を繰り返し、入院中はその二平方メートルの中で全てをすまします。病気とはたぶん一生つきあわなくてはいけないことを理解しています。他の子が当たり前に経験することができないこともわかっています。わかっていても、苦しい。でも、みんなを困らせてしまうから、だれにも言えない。すさまじい孤独感です。そんな海音さんにあるとき、孤独な戦いのさなか、「ひとりじゃないよ」と応援されるできごとが訪れるのです。

海音さんは、今日も病気と向き合いがんばっていると思います。様々な困難から逃げず、正面から考え続けるその姿に、私たち読者の方が励まされ、背中を押されるのです。

親は応援しかできない

あんなに あんなに

子育ては「あんなに」の連続。あんなにほしがってたのに、あんなにしんぱいしたのに、あんなに小さかったのに―。日常にあふれるたくさんの「あんなに」の中で、子どもは大人になっていく―。
大人気の絵本作家・ヨシタケシンスケによる、こどもと昔こどもだったすべての人に届けたい、ちょっと目頭が熱くなっちゃうやさしい絵本。

あんなにあんなに小さかった子と、あんなにあんなにがんばって子育てしていたお父さんお母さんへ贈る絵本です。

泣いたり笑ったり病気したり暴れたり、子どもって常に動き続けていますし、それに対して親は心配したり世話したり怒ったり、目まぐるしく時は過ぎていきます。ですが、「あれ? この子こないだまであんなに小さかったのに、もうこんなになったの!」と驚く瞬間が、ふいにやってきます。そんなことに気づかされる、特にお母さんに読んでもらいたい絵本です。

時は戻せません。あんなに小さくてかわいくてどうしようもなかった子が、気づけば少年になり大人になってしまっている、時は戻せないけれど、あんなにあんなにいろんなことがあって、小さかったあの子はいなくなってしまったけれど、まだまだかわいくて、親は応援しかできないけれど、これからも見守り続けていこう……、そんなお父さんお母さんへのエールともなっています。

この絵本はMOE絵本屋さん大賞2021で第1位を獲得し、世の親たちを号泣させたと評判の絵本です。以前、子育ての先輩が、「子どもはいくつになってもかわいいの。中学生になっても高校生になっても大学生になってもかわいいの」と言っていました。そのときはよくわかりませんでしたし、我が子は上もまだ小学生でどう思えるようになるのか分かりませんが、この絵本を読むと、「こういうことなのかな」と思わされます。そこに至るまで、夢中で子育てしよう、その子のそのときそのときを必死で応援しよう、そう思える素晴らしい絵本です。

さいごに

人が何かに挑戦する姿を見ると、胸が熱くなってきます。思わず応援してしまいます。オリンピック・パラリンピックでも、様々な挑戦をするアスリートの姿に感動しました。直近では、やはり羽生結弦選手の限界への挑戦にはとても心を動かされました。そして、私はつい親目線で、羽生選手のご両親に思いを馳せてしまうんです。以前、羽生選手は小学生の頃のインタビューで、「幼稚園のころから、遊んだことがない。でも、スケートが好きだから」と答えていました。幼稚園の頃から今までの20年以上、常に練習し挑戦し続け、そして、その間ご両親もまた、彼の意思を尊重し応援し続けてきたのだと思うと、その途方もなさに圧倒されてしまいました。

うちの子が通う幼稚園の発表会では、立候補による選抜種目があります。そして、うちの下の子も「やるって言ってきた!」と帰ってきました。それだけですと大した話ではないんです。が、この子がなかなかの引っ込み思案で人前でお話しすることが苦手、お友達や先生に「〇〇やりたい」と主張することも苦手、授業参観では手を挙げられず背中を丸めて幼いながらに必死で気配を消そうとしています。

そんな前フリからの、「ぼく、やるって言ったよ!」です。その場では、「がんばったねー、すごいねー」と笑顔で返し、さあ、子どもたちを寝かしつけた後の晩酌タイム。日本酒片手に、今日の「ぼく、やるって言ったよ!」を噛みしめた瞬間、ダーッと涙が……。子どもは少しずつ成長していて親はそれを応援し続けて……。「あなたががんばるから、わたしもがんばれるのよー!」と号泣しては杯が進んでしまう夜でした。

人を応援するということは、それを通じて自分を見つめなおすことなのではないでしょうか? 子どもたちは、さまざまな行事で「応援すること」を教えられます。人を応援することで、その挑戦は「他人事」ではなく「自分事」として正面から、がんばることって何なのかに向き合えるのだと思います。他人事にしておけば確かに気が楽です。ですが、成長もしません。努力して挑戦しても成功するとは限りません。ですが、その経験は人生に力を与えてくれます。だからこそ応援せずにはいられないのだと思います。

子どもたちのこれからには、多くの壁が出てきます。最初はすくんでしまうこともあるでしょう。そのとき、これまで応援してきた多くの人々の挑戦する姿を思い出すと、心を奮い立たせることができると思うのです。3月は旅立ちの季節、子どもたちにもパパママにもたくさん応援し、される機会があると思います。応援するって素晴らしいこと。大人も子どもも、周りを応援しながら、いろいろなことに挑戦していってもらいたいと思います。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。6歳と3歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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