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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

「科学的思考力」につながる絵本

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

科学的思考力とは?

「科学的思考力」という言葉をご存知でしょうか? 「論理的思考力」のひとつに位置しますが、身の回りの現象に疑問を持ち、そこに仮説を立て検証することができる力のことを指します。
連載第14回では「論理的思考力」を取り上げましたが、現在、論理的思考力の中でも「科学的思考力」が特に注目されています。

今の日本の子どもたちは、他の国の子どもたちよりも科学的な事柄に対し関心・興味・意欲が低いそうです。しかし、個人や企業の活動のすべては科学技術とかかわっていますし、社会はこれからも科学によってどんどん変革していきます。

そうした時代には科学への興味・理解は不可欠です。また、多くの情報を受け取れる現代では、その分一人ひとりが客観的根拠にもとづいて情報を選び判断していかなければいけません。科学的思考力を身につけていないと、判断力を失うことにもなります。
このように、これからとても重要となってくる科学的思考力ですが、その力を身につけるには、まず科学に興味を持つことが土台となります。今回は、身の回りの不思議に気づかせてくれる絵本をご紹介し、子どもたちにとっての科学的思考力とはどのようなものか、考えていきたいと思います。

身近なものに興味を持とう

庭にも空き地にも道の片隅にも、雑草はいつもどこかで目にしますよね。「雑草」というだけあって、ふだんは特に意識しない存在ですが、じっくり見ると、植物同士の勢力争いがけっこうおもしろい、そんなことを伝えてくれる絵本があります。

雑草の世界を5年にわたって見つめた、比類なく美しくドラマにみちた科学絵本

雑草のくらし

植物はどんなくらしをしているのか? 雑草の世界を5年にわたって見つめ続けてきた著者が、精魂傾けて描く、比類なく美しくドラマにみちた大型科学絵本。

この絵本は空き地の5年間を観察し、ある時期はこの雑草が、次の時期にはこの雑草がと雑草の生態とその勢力の移り変わりを伝える観察絵本です。

作者の甲斐信枝さんは、「雑草」「植物」を描き続ける画家さんです。細部まで丁寧に描かれた雑草の姿は見慣れているはずなのに、そのエネルギーや瞬間の美しさに圧倒されます。そして、身近であるはずなのに、一つ一つの草たちが、どうタネを飛ばし、どう増えていくかなど全く知らなかったことに気づかされます。

この絵本は、とある空き地を定点観察していますが、この絵本を子どもたちと読んだ後に、実際に自分の家の庭でもどこかの空き地でもよいので、定点観察をしてみると面白いですよ。我が家には小さな庭があるのですが、毎年雑草との戦いです。いつもやみくもに雑草を抜くばかりでしたが、この絵本を読むと、たしかに時期によって生えてくる雑草の種類が違い、雑草を抜き切った後の日当たりのよい状態で生えてくる雑草が決まっていることなどに気づくようになりました。これまでなんとなく「雑草」と思っていたものも、じっくり観察するとまた違った興味が芽生えてきます。そうした「観察」の面白さに気づかせてくれる絵本です。

水のふしぎな形がつぎつぎと現れます

じゃぐちをあけると

じゃぐちをあけて、さあ、はじまりはじまり。指ではじいて、チュッ。コップにあてると水の風船。スプーンを入れると宇宙船。そしてスプーンをひっくりかえすと! ! ……水の美しい形がつぎつぎと生まれます。さあ、つぎはどんな形が生まれるかな?あなたがやったら、どんな形になるかな?水や風のふしぎに魅せられ、水や風で動く彫刻を創りつづけている新宮晋氏が、水あそびのだいすきな子どもたちにおくる絵本。

「水」も、子どもたちにはとっても身近な存在ですが、触って持てる物=個体と違って、水=液体を改めて説明しようとすると難しいものですよね。この絵本は、液体である水がさまざまな姿に変わっていく面白さを伝えてくれます。日常で見慣れた水ですが、入れる容器によって形を変えたり、バシャッと撒くとしずくになったり、改めてじっくり見てみると不思議な存在です。そんなところから、「液体ってなんだろう?」「しずくを落としたら広がる丸い輪ってなんだろう?」といろいろな疑問が芽生えてきます。

子どもたちはとにかく水遊びが大好き。例えばお風呂も、子どもにとっては、体を洗うことよりも水で遊ぶ方に意識がいっていると思います。我が家でもお風呂に入れば水鉄砲を打ち合い、親は当たり前のように巻き込まれていますが、「水でもあたると痛いんだから!」と怒りながら水圧についても触れたりなど、身近なできごとも親子の会話のなかで「この現象はどういったものか?」など広げていくことができると思います。

違った視点で見てみると?

日常の風景も、ちょっと視点を変えてみるだけで新たな発見が生まれてくると思います。そんな「視点を変えると見えてくるもの」の面白さを伝える絵本をご紹介します。

視点を変えると、ちがうものが見えてくる

ぼくからみると

夏休みのある日、昼下がりのひょうたん池。
おなじ時を生きるたくさんの命。
つりをする少年から見ると、池のさかなから見ると、空のとんびから見ると、あまがえるから見ると……
いろいろな視点から見ると、ちがうものが見えてくる。
それぞれの見た風景を、片山健さんが迫力のある油絵で描きます。
観察し、想像しながら、子どもから大人まで読んでほしい絵本です。

舞台は夏休みの昼過ぎのひょうたん池。ひょうたん池は、人から見ると、どこにでもありそうなごくふつうの小さな池です。でも、そこには魚もいれば水鳥もいて、池の上にはとんびが飛んでいて、虫もカエルもいます。彼らの目から見れば、いつもの池の姿も全く違って見えてくる。

視点を変えると見えるものが違ってくるという、分かっていそうで分かっていないシンプルなことを、この絵本は清々しい絵で伝えてくれます。

また、ちょっと違った視点で見てみると、日常がとても面白くなることを教えてくれる絵本がこちら。

日常の「あれ?」を探してみよう

まちには いろんな かおがいて

見なれたマンホールや公園の遊具も、じっと眺めていると、ふしぎと顔に見えてきます。町を歩いて出あったいくつもの「顔」を写真に収めました。あなたも探してみませんか?

ふつうの町の風景の中にひそむ“かお”のように見えるいろいろなものを撮った写真絵本です。人間の脳は、点や線が逆三角形に配置されたものを見ると、“かお”と判断してしまいます。それをシミュラクラ現象というそうです。

絵本の中のポストや家やマンホールを見ると、たしかに顔、顔、いろんな顔に見えてきます。そして、これがシミュラクラ現象と名付けられているということは、「なぜ人の顔に見えてしまうんだろう」と疑問を持った人がいるということですよね。まさに、日常の「あれ?」に気づき、研究・実証された科学的思考力から生まれた絵本です。

ブラックボックスの中身とは?

“ブラックボックス”という言葉はご存知でしょうか? 中身が分からない不気味なものを例えた言葉で、どのようなものかというと、その機能はわかっているけれど、どうやってその機能・結果が生み出されているか、内部がどうなっているかは分からない、そうした装置・システム・しかけのことを指します。

私たちの身の回りには、そうしたブラックボックス製品が数多くありますよね。テレビ・パソコン・スマホ……などなど、その内部の仕組みは分からなくても、当たり前に使用しているものがたくさんあります。ですが、その内部には何らかの仕組みがあるわけです。知らないまま結果だけを享受するだけでなく、そうなった原因・過程に興味を持った方が発展があるはずですよね。

「どうしてこうなったんだろう?」「”ブラックボックス”で何が起きたのかな?」そう考える面白さに気づかせてくれる絵本として、こちらの2冊をご紹介します。

推理する面白さと喜びを味わえる写真絵本

このあいだに なにがあった?

「毛がもこもこの羊」と「短い毛の羊」の写真が並んでいます。2枚の写真の間には、どんなことがあったでしょう? 答えは、「羊の毛を刈った」。並んだ2枚の写真から、間に起こった出来事を推理します。では、「湯船に浮かんだおもちゃ」と「洗い場に転がったおもちゃ」の写真の間には、どんなことがあった? 「推理する」という、人間ならではの力が発現する時の面白さと喜びを感じられる、知的好奇心を刺激する写真絵本です。

もこもこのヒツジと、つるつるのヒツジがいます。ヒツジがもこもこからつるつるに変わる間には「毛を刈る」という工程が必要です。

次に、オタマジャクシとカエルがいます。オタマジャクシからカエルに変わるには、その間に「変態」があります。このように、何かが変化するためには、間に「何らかのアクション」がある、ということを分かりやすく伝えてくれる写真絵本です。

X線写真を使って透かして見ると……?

中を そうぞうしてみよ

椅子、鉛筆、ボールペン、貯金箱など身近なものの中身をX線写真を使って透かして見ると、
いつもと違うものや、見えなかったものが見えてきます。 想像力を刺激する1冊。

こちらの絵本は、イス、針山、貯金箱などなどの「見えない部分・構造」をエックス線写真によって明らかにして見せてくれます。物は「組み合わせ」によってできていることを伝えてくれる写真絵本です。

私も含めてですが、その過程や内部を知らないまま、科学的な結果だけを享受して生活してしまっていることは数多くあります。ですが、目の前の現象を「ふーん」と思うだけで通り過ぎる人と、「なぜこうなるんだろう?」と疑問に思う人とで、これからの時代は、ものの見方も価値観も、道が大きく分かれてしまうのではないでしょうか?

当たり前に思っている現象の、複雑な仕組み

”ブラックボックス”の他にも、空には太陽と雲がある、スイッチを入れれば明かりがつく、などなど私たちの身の回りにはごく当たり前と思っていることが数多くあります。ですが、あらゆる現象は様々な科学的現象が組み合わさって起きているのです。そうした気づきを与えてくれる絵本の中でまずご紹介したいのが、こちらの絵本です。

人間は、どのようにして電気を手に入れているのか

わたしのひかり

きらきら光る町のあかり、あのあかりも、もともとはわたし(太陽)のひかりなのですよ。―人間がどのようにして電気を手に入れているかを語る絵本。さまざまな発電方法の短所と長所も解説しています。

この絵本からは、太陽の光が、地球でどのようにエネルギーとなり電気となっていくのかが非常によくわかります。太陽の光が地上に降り注ぐと海をあたため、あたためられた水が水蒸気となって雲を作り、雨となって川に注ぎます。その水の力が発電所のタービンを回し、エネルギーが電気に変わります。このように、太陽の光が様々な科学的現象を経ることで、エネルギーとして私たちの生活につながっていることを分かりやすく教えてくれる絵本です。

また、冬の季節に起こる自然現象をテーマにした絵本から、こちらの一冊をご紹介します。

しもばしら

 

寒い冬の晴れた夜、地面に出来る不思議な氷、霜柱。どうして出来るのかな? 観察に出かけよう! 家庭の冷蔵庫で霜柱を作る方法も紹介。科学する楽しさを伝える絵本です。

この絵本は、しもばしらの不思議に気づき、仮説を立て、実証していくという見事な科学的思考力の絵本となっています。

寒い朝、おばあちゃんと畑でしもばしらを見つけた、はーちゃん。そっとはがして、てのひらにのせると溶けていきます。そして、「しもばしらってどうやってできるんだろう?」と疑問を持ちます。

そこで、おばあちゃんが絶妙なアシストをします。はーちゃんに、まずは「しもばしらたんけんしてみようか」と観察を勧めるのです。

しもばしらは昨日の夕方にはなかったことから、「よるのあいだにできたんじゃないの?」とはーちゃんは思います。さらにおばあちゃんは、「きのうのよるのてんきはどうだったかな?」とパスを出します。そして、「いつもよりさむかった!」とはーちゃんは気づき、しもばしらは氷だから寒い夜にできるのではないか?と仮説を立てるのです。お見事、おばあちゃんとはーちゃん!

そこからは、冷蔵庫を使って「寒いところだと本当にしもばしらができるのかな?」という実験に入っていきます。

身近な現象を不思議に思い→仮説を立て→実験・検証する、という、科学的思考力とは何なのかを見事に体現した絵本です。

特に、この絵本でおばあちゃんは、子どもの疑問にどう答えてあげるとよいのか、とても理想的なやり取りをしています。ただ質問に答えてあげるのではなく、一緒に観察して、疑問を掘り下げ、アドバイスをしながら一緒に実験してあげます。こうしたやり取りは科学的思考力の土台となると思います。ぜひ参考にしてみてください。

さいごに

身の回りにはたくさんの不思議があり、様々な現象に囲まれて私たちは暮らしています。ほとんどの現象に対し、大人は当たり前とつい思い、日々通り過ぎていっています。しかし、大人にとっては当たり前でも子どもにとっては不思議なものがたくさんあります。

アグネス・チャンさんは、お子さんが「これなあに?」と聞いてくると、そのとき何をやっていても必ず手を止めて「よくぞ聞いてくれました」とお子さんの問いに答えてあげていたそうです。そのエピソードを聞いて「すばらしいなあ」と思い、私も心がけようと思いました。が、子どもって「なぜ今!」というタイミングで聞いてきますよね(苦笑)。ちょうど揚げ物をしていたり、顔を洗っていたりする時に限って「おかあさん、これなに?!」と聞かれるとさすがに「ちょっと待って!」となり、子どもの疑問にすぐに答えることはなかなか困難なミッションです。

ただ、子どもは好奇心旺盛な分、興味がどんどん移り変わり「これなあに?」という瞬間はあっという間に過ぎていきます。ですので、すぐに疑問に答えてあげることが大事ということはよく分かります。いつも手を止めることは難しくても、できるかぎりは我が心の中のアグネスさんを呼び覚まして「よくぞ聞いてくれました!」と言うべく取り組んでいる最中です。熱くなりすぎ、間違って松岡修造さんを呼び覚ましてしまい「分からないことはもうないか? 食い下がってこい!」とやりすぎて、「え、もういいよ……」と引かれることもたまにあります……。

また、今回ご紹介した絵本は、くしくも福音館書店の「かがくのとも」の絵本がほとんどです。小さな子は、どう口で説明してもビジュアルで見せた方がすっと理解してくれますよね。このシリーズは様々な自然科学のテーマをわかりやすく絵で見せてくれますので、小さな子の疑問にもしっかり答えられます。そして、このシリーズは数多くのテーマを扱っていますので、「こんな疑問には答えられない!」と思った際は、ぜひバックナンバーを調べてみてください。「え、こんなものまで!」と思うぐらい幅広いテーマを取り扱っているので、お子さんのどんな細かい疑問にも対応してくれますよ。

それでは、子どもたちの科学への興味を育てるべく、こうした絵本を活用しつつ、心の中のアグネスさんを呼び覚ましながら、ぜひ、子どもたちの疑問に答えてみてください!

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。6歳と3歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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