絵本ナビスタイル トップ  >  絵本・本・よみきかせ   >   未来の今日の一冊 ~今週はどんな1週間?~   >   【今週の今日の一冊】東日本大震災から15年。未来へ語り継ぐ震災の本
未来の今日の一冊 ~今週はどんな1週間?~

【今週の今日の一冊】東日本大震災から15年。未来へ語り継ぐ震災の本

2011年3月11日、14時46分。東日本大震災が起きたあの日から、2026年で15年となります。

この15年のあいだに、震災の記憶や教訓を伝える絵本や本が数多く刊行されてきました。とくに震災から間もない2012年から2015年にかけて出版された本には、あのときに感じた不安や悲しみ、人と人との支え合いの記憶が刻まれていて、ページをめくるとすぐに当時の空気が思い起こされるように感じます。

月日の経過と共に増えていく震災を知らない世代の子どもたちに、記憶と教訓を語り継いでいくために……。また、震災によって得た教訓やまだ解決していない問題を大人も考え続けていくために、今週は「東日本大震災を語り継ぐ本」を特集します。

2026年3月9日から3月15日までの絵本「今日の一冊」をご紹介

3月9日 東日本大震災から15年。あの日をわすれない。

月曜日は『ひまわりの おか』

ひまわりの おか

6月のはじめ、
「おかの上の花だんに、ひまわりをうえようよ!」
そう言ったのは、愛ちゃんのお母さん。
愛ちゃんは2011年3月の東日本大震災による津波により命を落としてしまいました。
小学校6年生でした。
「ひまわりが咲いたら きっと喜ぶよ」
やがて、小石だらけの土から、小さな芽が顔をだして・・・
お母さんたちは、ひまわりの世話をしながら、子どもたちのことを話すのです。

宮城県石巻市立大川小学校は、74人の子どもたちと10人の先生の命が亡くなり行方不明となるという悲劇がおこりました。
ドキュメンタリーを撮るために現地へ行っていた作家・葉方丹さんは、新聞で大川小学校の児童のお母さんたちがひまわりを育てていることを知ります。そこでひまわりを丹念に世話をする姿を見ているうちに「絵本になればいいな」と思ったのだそうです。
葉方さんに託されたお母さんたちからの手紙には、子どもたちへの果てしない愛情が込められたメッセージが詰まっていました。松成真理子さんも現地へ赴き、お母さんがたの話に耳を傾け、絵本をつくりあげていったそうです。

もちろん涙で絵本が読めなくなることもあるけれど・・・
その愛らしい子どもたちは確かにそこで笑っています。優しいお母さんたちの心の中でずっと生きています。たくましく育ったひまわりの花はそんなお母さんたちの愛情を受けとった子どもたちのよう。
私たちはその子たち一人ひとりの事を想い、その子のお母さんのことを想います。
そうやって、みんながこの絵本を読みながら想うことで、子どもたちは絵本の中でずっと元気に遊んでいられるのかもしれません。
【この絵本の売り上げの一部は、被災地復興などのため寄付されるそうです。】

(磯崎園子  絵本ナビ編集長)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=86912

読者の声より

2011年3月11日、津波により宮城県石巻市立大川小学校は、74人の子どもたちと10人の先生の命を奪うという悲劇がおこりました。
ドキュメンタリーを撮るために現地へ行っていた作者は、ひまわりを育てている児童のお母さんたちに出会い、この絵本が誕生しました。
作者に託されたお母さんたちの手紙は、子どもたちへ果てしない愛情が込められたメッセージでした。絵者の松成真理子さんも現地へ赴いたとのことです。
どのページにもまぶしいほどの笑顔の子どもたちが描かれていて、生前の子どもたちの様子や言葉が紹介されていています
そのすべてが前向きで希望に満ち溢れていて、熱い思いがこみ上げてくることを押さえることができません……
お母さんたちの心の中で、子どもたちがみんな生きているんだと感じます
尊い多くの命が失われた大震災を私たちは決して忘れてはいけないのです
日々その方々の分も一生懸命「生きる」ことをやめてはいけないのです
人生の応援歌のようにも聞こえてくる「ひまわりのような子どもの笑顔」が全国のお母さんたちに声援を贈っているようです
がんばれ!がんばれって……
(風の秋桜さん 40代・その他の方)

3月10日 命の大切さを考える「3.11」の物語集

火曜日は『きみは「3.11」をしっていますか?』

きみは「3.11」をしっていますか?

豊富なカラー記事とデータが満載。表紙を見て、一見、難しいのかな? 長いのかな? と思った子もいるかもしれませんが、本を開いてみると文章がひとりひとりに優しく語りかけるように紡がれていく、とても読みやすい1冊です。
「この本を手に取ってくれたきみへ」のメッセージの中に、「2011年の3月11日に大きな地震と津波が起こりました。その時きみは、何歳だったかな。」の語りかけがあり、この本が小学生や中学生に向けて書かれたことが分かります。ソフトカバーで軽く、難しい内容はほとんどありません。ひとりで読むとしたら、小学校4年生ぐらいからでしょうか。すべての漢字にルビも振られています。

本書は5章に分かれているのですが、第1章は、宮城県石巻市にある「石ノ森漫画館」での3.11からの5日間がまんがで描かれています。まんがを描かれているのは、漫画家の細野不二彦さん。最初がまんがから始まるので、本を読むのがちょっと苦手という子でも、無理なく読み進めていけそうです。

つづく第2章は、津波で大切な娘さんを失った中学校教師の平塚真一郎さんの「天国の笑顔のために」。とても胸が詰まり、読み進めるのがつらい場面もありますが、ここに書き紡いで下さったことに感謝すると共に、心に残ることばとたくさん出会うことができます。

第3章は、東北を代表する新聞社「河北新報社」が集めた被災地の「声」。41人の方それぞれの震災体験とそこからの日々のこと、読者へのメッセージが伝わります。それぞれに大きな困難や悲しみに見舞われながらも、周りの人々に支えられ、前に進んできた歩みが力強く感じられます。

第4章は、〇〇で見る3.11ということで、「新聞で見る3.11」「地図で見る3.11」「数字で見る3.11」「写真で見る3.11」……というように、とても分かりやすく震災に関するデータがまとめられています。

そして最後の第5章は、観光学者の井出明さんによる「死の意味と復興の力強さ」と題したまとめが語られます。
この章では「なぜ震災を学ぶのか」、その理由がストンと胸に落ち、さらに防災の世界でしばしば語られるという「2度目の死」ということについてじっくりと教えて下さいます。

震災の日のこと、大切な人を失った悲しみ、命のとらえ方、若い人に伝えたいそれぞれの方からのメッセージ‥‥‥。この本はたくさんのことを教えてくれますが、一貫して伝わってくるのは、命の大切さ、かけがえのなさです。

「命はひとつ。大切なきみの命。名前もひとつ。大切なきみの名前。」

この本の編集をされた方が、あとがきで「泣きながら作りました」と書いていましたが、たくさんの伝えたい、伝えなければという思いを受けて、子どもたちが震災のことだけでなく、自分の命について考える時に、大きな助けとなる1冊となるに違いありません。この本に触れることで、頭で知る知識だけではない、心で感じる知識がしっかりと胸に刻まれていくことでしょう。もちろん大人の方にもおすすめしたい1冊ですが、読み終えた後は、ぜひ身近にいる子どもたちに手渡していただけたらいいなと思います。また、学校の図書室や教室や児童館など、子どもたちが自然と手を伸ばせるところに置いていただけたら、と願います。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

3月11日 いざというとき、じぶんのいのちをまもるのは?

水曜日は『はしれ、上へ! つなみてんでんこ』

はしれ、上へ! つなみてんでんこ

2011年3月11日。岩手県の海岸から400~500メートル地点にある、鵜住居(うすのまい)小学校と釜石東中学校の子どもたちが、午後の授業を受けているとき、地震がおきました。
その直後、小中学生600人が山への坂道を2キロにわたり走って逃げました。
中学生は小学生と手をつなぎ、近くの園の園児たちをのせた台車をおしながら。
ほとんどの子どもが津波から逃げのびた、「釜石の奇跡」といわれた実話です。
これは、その実話をもとにした絵本です。

主人公の小学生、「ぼく」のじいちゃんは、漁師。
大槌(おおつち)湾の美しい海で魚をとって暮らしてきました。
絵本からはいろんなことがつたわってきます。
どこに逃げるか、一瞬判断に迷う先生。見つめる「ぼく」たちのまなざし。
窓の外で中学生が逃げはじめたときの、教室の空気。
「車に、気をつけろー!」「川がわは、はしるなー!」と中学生が叫ぶ声。
互いに励ましあいながら高台の“ございしょの里”へ、“やまざきデイサービス”へ、いや、もっと上の峠へ!
避難場所がどんどん高くなっていく緊迫感……。

親戚が被災し、釜石に通うようになった指田和さんが文を書き、本書はうまれました。
昔から津波におそわれてきた東北地方には“つなみてんでんこ”という言い伝えがあります。
てんでんこは、てんでんばらばらの意味。
家族が信頼しあって、いざというときは、ひとりひとりがしっかり逃げる。
けっして一家全滅などというつらくかなしい思いをしない、という意味がこめられているのだそうです。

釜石ではこのとき、それでも多くの方々が亡くなりました。家も学校も何もかも流されました。
伊藤秀男さんが描いた、圧巻の観音開きの絵の重みを、感じてください。
人間があらがえない自然災害。防災教育は、防災訓練だけではありません。
いざというとき、じぶんのいのちをまもるのはじぶんだと、子ども自身が信じることが大事なのではないかと思います。
「いのちさえあれば、これからなんだってできるものな」
ニッとわらった「ぼく」のじいちゃんの言葉と、描かれた海のうつくしさが、胸にしみます。
いつか遭遇する自然災害を、いきのびる勇気が、心のどこかに、芽生える絵本です。

(大和田佳世  絵本ナビライター)

読者の声より

2011年3月11日、東日本大震災。地震と津波のニュースが流れた。あれからしばらく経って、TV番組で「津波てんでんこ」と言う方言を初めて耳にした。「てんでんこ」とは「てんでんばらばらに」の意味で「人にかまわず必死で逃げろ」とのこと。これは親子でも家族でも、だそうだ。とても衝撃的で、非常な言葉に感じた。でも東北、特に沿岸部では、この「てんでんこ」と言う言葉が代々伝われ続けてきたと言う。それだけ非常事態で、それだけ重い、大事な言葉であることは感じられた。「てんでんこ」に感じられ、今も復興のお手伝いをしながら取材をしているフリーライターの指田氏により震災から約3年後にこの絵本が出版された。小学校・中学校の生徒の目線で、あの日震災当日の様子が子供たちの会話と迫力ある挿絵から伝えられる。
きっと何がなんだかわからないながらも身を守る事の一生懸命な子供達、少し経ってからの哀しみ絶望などもほんの僅かしか分かって差しあげられないもどかしさも感じつつ、自分が今出来ること、しなければいけないこと、忘れてはいけない一つとして考えさせられる絵本。
そして最後に「人間は海から恵みをもらうばっかりで付き合い方を忘れてたのかも知んねいな」「命さえあればこれからなんだって出来るもんな」と言うじいちゃんの言葉がグッときた。
(1姫2太郎ママさん 40代・ママ 女の子19歳、男の子17歳、男の子9歳)

3月12日 じぶんをじぶんでまもる、はやあるき

木曜日は『はなちゃんの はやあるき はやあるき』

はなちゃんの はやあるき はやあるき

はなちゃんがかよう保育園では、毎月、避難訓練があります。
園長先生の放送が流れたら、みんなでテーブルの下にかくれてから避難場所へ急ぎます。
でもすみれ組のはなちゃんは、ちょっとのんびりやさん。ニコニコちょうちょやお花を見て、おそ~い。
「はなちゃん、のんびりしてるとつなみにさらわれるぞ! がおがおがお~んって!」
先生にそういわれたはなちゃんは、そんなのやだ!と、それから「はやあるき」の練習です。
どんなときも、すっすっ さっさっ すっすっ さっさっ すっすっ さっさっ。
ある日、ほんとうに大きな地震がきて……。

東日本大震災で、岩手県の北にある野田村保育所の園児90名、職員14名は、全員、津波を逃れました。
その奇跡的な避難の背景には、毎月の地道な訓練があったといわれます。
あの日の、「だれも泣かず、だれもぐずらず、それはそれはりっぱだったんですよ」と職員(じつは作者の義妹)から聞いた園児たちの姿……。
それが作者の宇部京子さんの心にはずっと残っていて、震災から4年近くの時を経て絵本になりました。
宇部京子さんは岩手県久慈市在住の詩人。語りかけるようなやわらかな言葉と、イラストレーター菅野博子さんの絵から、園児さんたちの非常時の緊張感やいつもの笑顔がまっすぐつたわってきます。

子どもたちがなぜがんばれたのか。あるいてあるいて、あるきとおすことができたのか。不思議でたまりません。
でもこの絵本を読むと、そのわけがわかる気がします。
はなちゃんのはやあるき。それはじぶんをじぶんでまもる、はやあるき。
ちいさな笑顔と必死さが、わたしたちの胸に力強くやさしく迫ってくる絵本です。

(大和田佳世  絵本ナビライター)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=106126

読者の声より

小さなころ、避難訓練や防災訓練など、学校で行われることが多かったけれど、
正直、遊び半分、少しみんなでおしゃべりしながら「訓練ごっこ」しかしていなかったように思います。

自分自身の経験でさえ、そんなものなので、いま幼い子どもに、こうした日常の訓練の大切さ、万が一の備えとそのときに慌てずに対処できるための準備の大切さ、
それらをどう伝えればいいのか、わかりませんでした。

しかし、この絵本は、そうした訓練の大切さを、実例をもって、やさしく、わかりやすく、描いています。
地道な日々のはやあるき、はやあるき、の訓練が保育園のみんなを救った、一生懸命みんながんばった、そんな様子をまざまざと示すことで、子どもにも本当に大切なんだと気づかせてくれる、そんな絵本です。

東日本大震災が起きて、自分の地域でどこに、どのように避難すればよいか、改めて考えた人も多いと思います。
幼い子どもと一緒にそうしたことを考えるうえで、とても重要な一冊です。

うちの子もどちらかというと、おっとりとした逃げ遅れそうな子です。
あまり教訓じみず、でも大切な部分がしっかり伝えられるので、しっかり読み聞かせたいと思います。
(lazy_planetさん 30代・パパ 女の子3歳)

3月13日 忘れてはいけない、たくさんの大切な命のこと

金曜日は『ぼくは海になった 東日本大震災で消えた小さな命の物語』

ぼくは海になった 東日本大震災で消えた小さな命の物語

東日本大震災では、多くの方のかけがえのない命と共に、多くの動物たちのかけがえのない命もまた、失われました。亡くなった動物たちの絵を描くことで、少しでも飼い主の心をなぐさめたいと考えた「震災で消えた小さな命展」代表の著者が、犬のチョビと飼い主のたえちゃんの絆を通して、命の大切さや平等さを伝える物語絵本です。

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=92530

読者の声より

あの震災で失われた多くの命には
動物たちも含まれていたのだと
再認識させられました。

ゆかり深い人、場所・・そして、かわいがっていた動物たち。

この絵本に出てくる犬、ちょびも
そんなかわいがられていた動物の一匹で
大事に思うお母さんの場所を伝えるという使命を終えて
本当の意味で天に召されていきます。

優しい色合いで語られる絵が
一層の切なさを誘います。
(やこちんさん 40代・ママ 女の子12歳)

3月14日 牛たちを守りながら伝えつづける放射能と命のこと

土曜日は『希望の牧場』

希望の牧場

「なあ、『牛飼い』って、しってるか? 牧場で、牛のせわして、くらしてる。それが牛飼いだよ。かんたんだろ?
でもあのでっかい地震のあとは、かんたんじゃなくなった。うちの牧場は、原子力発電所の近くにあったからだ。」

大地震の約一時間後、原発施設を津波がおそい、事故がおこりました。
町にはだれもいなくなりました。事故によって放射能がひろがったからです。
花、ホトトギスの鳴き声、紅葉、雪模様、星空。うつくしい土地はかわらないのに、目に見えない放射能があるというだけで、意味がかわってしまいました。
「もうここに住まないでください」「牛たちの殺処分に同意してください」国の役人がなんどもいいにきます。
330頭の肉牛。放射能をあびて食えない、売れない牛たち。それでものどがかわき、おなかがすく牛たち。
「だれもいなくなった町の牧場に、オレはのこった。そりゃ放射能はこわいけど、しょうがない。だってオレ、牛飼いだからな。」

直木賞作家の森絵都さんが文章を書き、『パパのしごとはわるものです』などでいま注目のイラストレーターの一人、吉田尚令さんが絵を描いた絵本です。
福島第一原子力発電所からたった14キロ地点。警戒区域内にとりのこされた「希望の牧場・ふくしま」を森絵都さんと吉田尚令さんは訪れ、この絵本をつくりました。
「希望」ってなんだろう? そして「放射能」っていったいなに? 生き物が「生きる」ってなに?
いろんなことを考えるきっかけになると思います。
みじかい文章で場面は構成され、「牛飼い」の語りが一場面、一場面、まっすぐ読み手にとどいてきます。
言葉の意味がすべてはわからなくても、吉田尚令さんの絵と森絵都さんの文から伝わるなにかが、きっと子どもたちの糧となるでしょう。これからの時代、なおさらに。
いまもエサ不足が深刻な牧場。絵本売上げの一部が活動資金として寄付されるそうです。
牛も人もほかの動物もみな、いま生きている。意味があっても、なくても。それを受け止めたいですね。

(大和田佳世  絵本ナビライター)

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=104746

読者の声より

肉牛を育て、売ることで生計を立てていた吉沢さんは、あの東日本大震災の福島原発事故で、環境が一変してしまいました。
放射能汚染のために、立ち入り禁止地区となった牧場には330頭の牛がいます。
牛たちのためには立ち退くわけにはいかない。
苦難の生活に追い打ちをかけるように、牛を殺処分するようにとの命令が出されました。
牛飼にとって、すべてを捨てろというに等しい指令。
吉沢さんは牛たちの命を守ることを決意しました。
かつては、育てた牛を肉牛として売っていた自分と、無意味な死を否定する自分は同一人物です。
逆境に立ち向かう吉沢さんの基に支援者が集まり始めました。
「希望の牧場」と呼ばれるようになった牧場の物語。
絵もお話もすごいけれど、これが事実であることが何よりすごいと思います。
(ヒラPさん 60代・パパ)

3月15日 あたりまえの毎日が失われた時、どう自分を守る?

日曜日は『角川つばさ文庫 世界はとつぜん変わってしまう?』

角川つばさ文庫 世界はとつぜん変わってしまう?

「そうだったのか……」。

2011年3月11日に起きた東日本大震災。今になって知らなかったことがこんなにあったなんて。被災地ではなかったけれどあの揺れを実際に体験し、津波の映像をリアルタイムで見て、その後もさまざまなメディアや本で多少なりとも「あの日」について知った気でいたのに……。

この本は、東日本大震災を体験していない小学生世代に向けて、2011年3月11日の「あの日」に何が起こったのかをあらためて伝える、インタビューに基づくノンフィクション作品です。小学生のダイキとミサキが東日本大震災についての宿題を解くために、いろいろな人の話を聞きに行くという形で進んでいきます。

まず第一章「震災の日」で語ってくれるのは、小学五年生で被災した体験を話して伝える「語り部」という活動をしている雁部那由多(がんべなゆた)さんです。
地震のすぐ後は「生きている側」と「亡くなった側」と考えるようになったこと。学校が始まった後、被災したクラスメイトと被災していないクラスメイトの間には、見えない壁があったこと。さらに同じ被災組の中でならつらかったり悲しかったりする気持ちを分かち合えたかというと、そうでもなかったこと。中学二年生の時に「震災の体験を話す」ことが自分の心に変化を与え「語り部」の活動を始めたことなどが語られます。インタビューの中では次のような言葉がとくに印象に残りました。

「ぼくたちが被災したのと同じ場所で学んでいる今の小学生にとっても震災は教科書の中のできごとになっちゃってるみたいなんだ。(中略)そういうときは震災を知らない世代が増えてきたのだなあと、実感するよ」

「避難所では『小学生は手伝わなくていい』と言われていたけれど、高学年のぼくたちは何か役に立ちたかった。」

「ぼくたちが震災前に学校や地域で受けていた防災教育では『判断をしなさい』って言われてた。でも、実際に東日本大震災が起こったときに求められたのは『決断』だったんだ。」

つづく第二章「震災後の生活」では、「チャイルドライン」という、子どもの電話を受け付ける活動をしている小林純子さんが、避難所での子どもたちの生活を中心に、当時の子どもたちの声を三人の小学生の物語にまとめて届けます。
登場するのは、地震の時に二日間お母さんと離れていた不安な気持ちからお母さんと離れられなくなってしまったユウカ、おじいちゃんと猫のチイが見つからないまま不安な気持ちで過ごす中、避難所での生活にも辛さを感じているマコ、お父さんが見つからない悲しみとイライラを誰かにぶつけるしかないケイタ。
「子どもにとって避難所は過酷な場所でした」という言葉に驚きを覚えました。
小林さんへのインタビューでは、「チャイルドライン」の使い方や考え方が紹介され、子どもたちがどんなことに悩み、何を求めているかの生の声が伝わってきます。

第一章と第二章からは、当時の小学生の声がたくさん聞こえてきます。同じ小学生が感じた気持ちだからこそ、今小学生である子どもたちにより身近に自分事として感じられるものがあるのではないでしょうか。

しかし本書は、ここまででは終わりません。
最終章の第三章「これから」では、貧困問題について研究活動を続ける阿部彩さんが、震災だけでなく貧困や新型コロナ感染症などさまざまな問題に直面したときに、どのように考え、解決に向かったら良いのかヒントを出しながら、「考える」ステップに進めさせ、問いかけます。災害が起こった時だけでなく日頃からの心がけが大事だということ、また「社会的包摂(ほうせつ)」の考え方が大切だという阿部さん(社会的包摂について詳しくは本書で)。さらに、感情にまかせるだけで判断するのではなく、数字をもとに考える視点の重要性も述べられ、心に残ります。

地震や津波、台風、大雨などの自然災害に加え、新型コロナ感染症の問題、さらには戦争……と予測もつかないことが世界規模でつぎつぎに起こっている今、とくに新型コロナ感染症の問題では、学校が休校になったり、行事が中止になったりと、「あたりまえ」の毎日が、ある日とつぜんうしなわれるという体験をした小学生も多くいたことでしょう。本書をまずは、今の小学生が震災を教科書の中の出来事ではなく自分事としてとらえることの助けとして。さらには、さまざま起こる出来事から自分をどう守っていくか、どう対処すれば良いのかを考えるきっかけとして、多くの小学生にすすめたいと思います。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

こちらの記事も合わせてどうぞ。

あらためて東日本大震災について書かれた本を眺めてみると、1冊1冊に、あの時だからこそ生まれた貴重さと、書き手の方の深い思いを感じます。これからもずっと大切に語り継いでいけたらと思います。

 

選書・文:秋山 朋恵(絵本ナビ副編集長)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
Don`t copy text!