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絵本トレンドライターN田N昌の “大人だってもっと絵本読みたいの!”

約50年の時を経て待望の単行本化! 小沢正×長新太の幻の名作絵本

子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介! 
最近話題の新しい絵本、注目の作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。

ここがゴイスー! 待望の市販化、幻の名作絵本『きつねのぱんとねこのぱん』

絵本の中には、月刊絵本で刊行されたものが、改めてハードカバー化、市販化されるものがございます。

ご存知の方も多いと思いますが、絵本を出版している出版社のなかには、「月刊絵本」というスタイルで絵本を刊行しているところがございます。毎月、全国の幼稚園、保育園、認定こども園に届けられる、ソフトカバーのアノ絵本のことでございます。基本的に、一般の書店に並ぶことのない絵本でございます。なかには、「こどものとも」(福音館書店)などのように、書店、個人でも購入できる月刊絵本もございます。

ちなみに最近でいうと、五味太郎さまの『ひよこは にげます』(福音館書店)は、「こどものとも」の2018年4月号から、内田麟太郎さまの『ぴぽん』(鈴木出版)も月刊絵本からの「こどものくに」の2020年7月号からのハードカバー化でございます。ハードカバー化、市販化されるタイミングは、出版社や作品によってそれぞれでございます。

そんななか、なんと約50年もの時を経て市販化された絵本が、今回ご紹介する『きつねのぱんとねこのぱん』でございます!

壁にぶつかった時に読んでほしい絵本

きつねのぱんとねこのぱん

きつねとねこは、それぞれパン屋さんをしています。
ある日、自分のお店よりもおいしいパン屋さんがあると聞きました。
お互いパンを食べると、自分のパンより相手のパンの方がおいしいと感じ、ショックで泣き出してしまいます。
そんな二人のユーモラスな表情を「ナンセンスの神様」の異名を持つ長新太が描きます。
虚勢を張り合うきつねとねこの豊かな表情に是非ご注目ください。

こちらが月刊絵本として登場したのは1973年。今でも続いております世界文化社の月刊絵本「ワンダーブック」の2月号として初お目見えいたしました。以降、2007年に『ワンダーブック お話傑作選(2) 4さいからの夢と感動いっぱいのおはなし』の1つに再収録されましたが、市販化されることなく月日が流れ、今年10月に市販化、ついに書店に並んだのでございます。このような歳月を経ての市販化はゴイスーに稀なケースではないかと存じます。

いったい、どんな絵本なのか?

絵は長新太さま、文は小沢正さま。2人とも絵本界、児童文学会のレジェンドでございます。

内容は、それぞれパン屋を営むきつねとねこのおはなしでございます。世界一おいしいパンを作ることを目指すふたりは、お互いのパンを食べると、自分のパンより相手のパンの方がおいしいと感じ、ショックで泣き出してしまうのでございますが……?

絵本の帯でコメントを載せられているお笑いコンビNON STYLEの石田明さまのお言葉をお借りします。

たくさんの努力をしてやっとの思いで持てた自信。そんな自信がポキッと折られることがある。そんなときに読んでほしい。落ち込まなくてもいい。諦めなくていい。みんな一緒なんだと思わせてくれる作品です。

絵本に描かれているパン屋さんを通して、パパママは50年という時代の変化を様々な点で体感できるのではないかと。ただ、絵本の中で登場するパン屋さんの姿は、そこで売られているパンも含め、あまり変わっていなかったりもいたします。そんなところに絵本ならではの魅力を感じたりもいたします。

比較する楽しさが、ゴイスー!

さらに、こんな楽しみ方もできるのではないかと。

実は、こちらの作品、藤枝リュウジさまと小沢正さまのコンビで1996年に1度市販絵本として出版されております。

藤枝リュウジ版で楽しむ『きつねのぱんとねこのぱん』

きつねのぱんとねこのぱん

きつねと、ねこはパン屋さんです。ある日、自分の作ったパンより、おいしいパンがあると聞いて…。楽しいパン屋さんのお話。

月刊絵本として1973年に刊行されたのちに、世界文化社とは違う他の出版社(国土社)から絵の担当が藤枝リュウジさまで市販絵本として刊行されていたのでございます。そう、同じ文章で絵が違う二冊の絵本を楽しめるのでございます。読み比べ、観比べることができるのでございます。絵が違うと、どう印象がかわるのか? 大人もお子様も是非、ご体験頂きたいのでございます。

対談ページ付きで、ゴイスー!

さらに、こちらの絵本、もうひとつゴイスーに希な点がございます。

なんと!絵本の最後に対談のページが掲載されております。ワタクシの記憶の限りでは、なかなかそんな絵本はないのではないかと。その対談というのは、長新太さまはもちろん、数々の名作絵本を手掛けている編集者で編集プロダクション「トムズボックス」代表の土井章史さまと、長新太さまの大ファンのワタクシ、N田N昌でございます。誠に申し訳ございません。宣伝でございます(笑)。

是非、対談もお楽しみ頂ければと存じます。

ほかにも! 復刊されている長新太作品

そして、もう少しだけ、お付き合いお願いいたします。

今回の『きつねのぱんとねこのぱん』は正確には“復刊”という言い方はできないかも…でございますが、長新太さまの作品は、本当にたくさん復刊されております。最近、マツコデラックスさまや又吉さまが、長新太さまの絵本を絶賛したり、ヨシタケシンスケさま、くりはらたかしさまなど、人気絵本作家さまが、好きな絵本作家として長新太さまの名前をあげられたり、そんな影響もあるのではないかと存じます。

 

『ぼくの すきな おじさん』(絵本塾出版)も昨年、復刊されましたが、『みんなでつくっちゃった』(大日本図書)、『そよそよとかぜがふいている』(復刊ドットコム)など、長さまの絵本はご本人が亡くなられた後も、通常の絵本作家さまが絵本を出すペースで、出版(復刊)されているのではないかと。おそるべし長新太さまの人気でございます。

ちなみに、ワタクシが強く復刊を願う長さん絵本は、『ピアノの音』(白泉社)と『くもの日記ちょう』(ビリケン出版)でございます。

入手困難絵本でございますが、長さん好きにはたまりまセブンな作品でございます。

N田N昌

絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。  

@NtaNmasa

 

(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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