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現役学校司書が本でCheer Up! 中学生に読んでほしいオススメ本

中学生に贈りたい本! 2023~2024

みなさん、こんにちは!
あっという間に2023年うさぎ年も残すところあとわずかとなりました。
みなさんのこの1年はいかがでしたか?

 

2023年、私は本を通じてたくさんの人との出会いがあり、また人を通じてたくさんの本と出会いました。今年の年末年始はみなさんどのように過ごしますか? 日頃会わない人と会ったり、クリスマスプレゼントやお年玉を渡したり、もらったりする季節ですね。「中高生に本を贈りたいけれど、なにを選んだらいいかな?」と思う大人も多いと思います。2023年を振り返り、2024年によい橋渡しができるような本を、心を込めて選びました。

 

今年の「贈りたい本」のテーマは「一緒に」です。一緒にクイズを解いたり、一緒にテーマについて議論したり、贈るだけでなく次のアクションにつながれば嬉しいです。大切な人に贈る本選びの参考になれば幸いです。

今年の「贈りたい本」のテーマは「一緒に」

親戚みんなで謎解きしよう!

2023年、珍しいジャンルでとっても面白い本が刊行されました。著者は「国際言語学オリンピック日本委員会」。
んんん? なんだか難しそう! と思ったあなた、ちょっと待って! この先を読んでくださいね。

 

ところでみなさん、ヒントを手がかりに謎を解いていく、いま大ブームの「謎解き」はお好きですか? この本は、まさに「世界中の言葉を使った謎解きゲーム」なのです。
クイズが苦手な私ですが、ちゃんと答えにたどり着けました。次へ! 次へ! と読み進めていくうちに、遠い国のまったく知らない言葉が身近に感じられるから不思議です。
問題は初級レベルから難関レベルまでの4段階。韓国語、スペイン語、アイヌ語などのほか、ビルマ数字やヒエログリフまで! お正月にこの本を囲んで親戚一同で解いてみるのも楽しそうです。この本を読んで、いつか言語オリンピックに出場する人が出たら嬉しいです。

2023年にテレビでも話題になった本たち

日本テレビ系の番組「世界一受けたい授業」で2023年9月に放送されたのが、作家の西加奈子さんの特別授業。ご覧になった人も多いでしょう。居住先のカナダで乳がんの宣告を受け、抗がん剤治療や手術を受けた自身の体験を、番組で自ら話していました。この本は、その番組の元になっているルポルタージュです。

 

この本を「乳がん闘病記」と表現するのに、私は少し抵抗があります。確かに自身の病気と向き合う記録ではありますが、それだけでない多くのことを教えてくれる本だからです。私は、「多様な価値観との出会いを通じて、心揺れながら自分の価値観を探していく」ことに感銘を受けました。読んだ人によって、心動かされる(いま風にいうと「心に刺さる」)場面は異なると思います。日本とカナダの違い、自分の体と向き合うこと、医療制度について……この本から感じたことを、贈った人と贈られた人とで伝え合えたらいいな、と思い、選びました。

テレビで取り上げられた、といえば人気バラエティ番組「マツコの知らない世界」で10月に「仕掛け絵本の世界」の特集がありました。出演されたのは、鎌倉のしかけ絵本専門店メッゲンドルファーを営む嵐田さんご家族。メッゲンドルファーさんについては絵本ナビでも特集されているので、ぜひ読んでみてくださいね。

「しかけ絵本」とひとくくりにしてしまいましたが、動物が動くように見えたり、紙が立体的に飛び出したり、と本によって異なる楽しい多様なしかけがあるのです。手先が器用な人は自分で作ってみることもできるんですよ。ご紹介する次の本は、ポップアップの仕組みを理解して、作ってみるのにぴったりの2冊です。

『実物で学ぶしかけ絵本の基礎知識』は、この本自体が「しかけ絵本」になっていて、眺めるのも仕掛けを学ぶのにも適しています。


『ポップアップで遊びましょ! 紙が動く!立体になる!脅威のペーパーデザイン術』は世界のポップアップアーティストの紹介のほか、巻末に型紙がついています。コピーをしてカードなどの作品をつくることができます。本を贈るだけでなく、冬休みに一緒に作ってみてはいかがでしょうか。

2024年、あの顔が変わります!

日本で発行されている紙幣が2024年7月(予定)に新しくなります。

日本の紙幣の歴史の中で、数少ない女性の肖像として新紙幣に登場する津田梅子という人をご存じですか。

 

明治時代にアメリカに留学し、帰国後日本の女子教育の、とりわけ英語教育に尽力した人です。『梅と水仙』の梅とは、津田梅子のこと。では「水仙」は何を意味しているのでしょうか。水仙は津田梅子の父親である仙を指します。仙も留学経験を持ち、波乱の明治初頭を生き抜いた人物です。

 

梅子は仙に男児を望まれながら女として生まれ、仙の希望で6歳でアメリカに10年間留学します。たった6歳で親元を離れ、知らない土地、知らない言葉で生活する梅と、梅が留学したことで中傷を受けて職を追われる仙。
章ごとに仙と梅が主人公となり、両者の視点で読むことができる小説です。

 

この本を通じて、新紙幣の顔である津田梅子を知ることができるだけでなく、幕末から明治への動乱の様子や、その当時のジェンダー(社会的性差)格差についても、知ることができます。
男女の地位について、日本の伝統的な考えを持つ仙に、日本より対等なアメリカの男女の在り方を見て育った梅は、反発を覚えます。
親子なのに、いえ、親子だからこそこうした価値観の違いをすり合わせるのは難しいもの。大人になろうとしている中学生の皆さんの中には、今まさにそのことを感じている、という人もいるでしょう。

 

『梅と水仙』のネーミングに関するエピソードは物語の最後の方に出てきます。
中学生のみなさんと、そして中学生の親世代のみなさんに、一緒に読んでほしい一冊です。

2024年を明るい気持ちで迎えたいあなたに

『地学・資源・エネルギーのすごい話 難しいことはわかりませんが、日本の未来が明るくなるニュースを教えてください』

この本の作者であるひつじさんは地学・資源・エネルギーに関する動画を配信している人気You Tuberです。世の中ずっと暗いニュースばかり! と思っている中学生のみなさん。ひつじさんも同じように考えて、自分で調べて、日本周辺の明るいニュースにたどり着き、それをみんなに紹介することにしたそうです。

 

例えば、最初は東京ドーム1.5個分だった西之島が噴火をくりかえし、ぐんぐん成長して今や世界的に注目される資源と生態系を持つ島になっているってご存じでしたか?
そのほか、レアアース泥や油田など日本近海には貴重な資源がたくさんある、なんてことも、私はこの本を読んで初めて詳しく知りました。大学などの研究機関では、こうした資源を有効活用する研究が日々続けられています。日本周辺の、地学や資源・エネルギーに関する明るい話題をこの本で読めば、1月からの数学や理科の学びがもっと意欲的に楽しくなるのではないかな、と思います。

 

理科や環境問題に興味がある中学生に贈る本としてオススメであるのは間違いありません。この本は写真が多く、動画のQRコードも付いているので、理科や数学に興味が無い中学生に手渡して、一緒に体験型の科学館に行ってみるというのもよいと思います。
2023年に東京で好評を博した特別展「海 ―生命のみなもと―」は2024年3月から名古屋で巡回展が開催されます。とても楽しかったので、名古屋周辺の方はぜひ!

激動の2023年の国際情勢を振り返り、解決の糸口を探そう

『地政学でわかるわたしたちの世界 12の地図が語る国際情勢』

2023年の終わりに、ガザ地区でイスラム組織のハマスとイスラエル軍の紛争が起こりました。多くの犠牲者が出ている様子をニュースなどで見た中高生のみなさんも多いことでしょう。

 

この本は世界の情勢を「地政学」の視点で読み解く本です。といっても、大きな絵本仕立てで難しくはないので、安心してください。地政学って何だろう? と思った人に、この本の9ページから引用しますね。

「わたしたちが住む土地が、常にわたしたちを形作っています。土地が、世界中の戦争や、政治、社会に影響をあたえているのです。これは、大むかし、部族の長が自分たちを守るために高地を目指したのと同じく、現在でも事実なのです。国々は、その地理や地形にとらわれているということができます。」

ちょっと難しいでしょうか。ならば、一番に登場するロシアのページを見てみましょう。ページいっぱいに広がる、広大な国土を持つロシアの西側にウクライナがあります。そして、16ページにはヨーロッパ諸国とロシアの間にウクライナが位置しています。液化天然ガスの太いパイプラインが何本もウクライナを通って東欧に運ばれていることが分かります。この本では、地図とイラストで地理がどれだけ社会情勢とつながっているか、ということが分かります。この本を挟んで、世界について語り合ったり、学んだりしてほしい、そんな思いを込めて選びました。

情報に惑わされない自分の価値観を持つために

『直感とちがう数学』

オールカラーでイラストがとってもきれいなこの本は、数学が好きな人はもちろん、苦手な人にもオススメです。ひと月ごと12章に分かれていて、各章に「直感の考えとは異なる、意外な答えを持つ算数や数学の問い」がいくつか載っています。12月や1月にはクリスマスケーキやおみくじの問題があり、季節に合わせた問いになっています。

 

この本の原案は、日本お笑い数学協会会長で数学教師芸人のタカタ先生。監修は「とある男が授業をしてみた」で有名な教育Youtuberの葉一さん。巻末特集に2人の対談があり、「直観は間違えやすいという事実を肝に銘じて、論理と数値に裏打ちされた答えをもとに、 慎重に判断することが大事」と書いてあります。

 

立命館アジア太平洋大学(APU)の学長出口治明さんは、たくさんの本を読み、本を書いている方で、次の本もおすすめです。

『働く君に伝えたい「考える」の始め方』

物事を正しく見るために「タテ・ヨコ・算数」の視点が必要と説いています。これから不確実な世界に漕ぎだしていく中高生に、数字で見る大事さを伝えるのにぴったりの本です。
 

冬に読みたい新刊小説

クリスマスにちなんだ童話や絵本は、選びきれないほどたくさんあります。

たとえば、絵本ナビで特集されている、クリスマスにちなんだテーマページ

クリスマスに読みたい本

クリスマス ロングセラー絵本

クリスマスをしろう

サンタクロース大活躍

クリスマスを味わう読み物」……

今回、クリスマスプレゼントとして本を贈りたい方にオススメの新刊はこちらです。

フィンランドで「童話の女王」と呼ばれるアンニ・スヴァンの可愛らしい童話集です。クリスマス・イブやサンタクロース(冬に働きすぎてくたくたになって、ブーツを片方無くして途方に暮れている夏のサンタクロースが登場します)のお話のほか、フィンランドの美しい自然の様子や、不思議な妖精などバラエティに富んでいます。お話の1つ1つは小学校の中・高学年から楽しめます。中学生以上の人には、贈り手と受け手と一緒にあとがきを読んで、物語の世界を広げてほしいと思います(フィンランド語の原著からスヴァンの作品を選び、翻訳した古市真由美さんの思いが伝わってきます)。


本に出てくるフィンランドの伝統的なモビール「ヒンメリ」を一緒に作ってみたり(『北欧の光と影のモビール 幾何学模様の美しいヒンメリ』など)、フィンランドのガイドブック(『デザインあふれる森の国フィンランドへ』など)を眺めてみたり、してみませんか?
 

本好きの中学生に手渡したい本にまつわるミステリ

『27000冊ガーデン』

私の仕事は学校司書(ご存じですよね!?)です。書店や図書館を舞台に本と人にまつわるミステリ小説を多く発表している、大崎梢さんがやっとやっと学校図書館を舞台にした小説を出版してくださいました!

 

神奈川県立の高校図書館を舞台に、主人公である学校司書駒子が出入りの書店の針谷さんとともに、本が関係する様々な事件を解決していきます。学校司書の状況や、高校の職員室の様子など、中にいる私も「どうしてそんなに、分かってしまうの?」と驚きのリアルさで描かれています。深刻な事件はないので、年末年始に気持ちを緩めながら読める本です。

 

この本の推しポイントは、読み継がれる名作から最新作まで、中高生にオススメしたいたくさんの本が、小説の中にちりばめられている点です。時には本が謎解きのキーアイテムにもなっています。ニューヨークのクリスマスをテーマにした心温まるお話『34丁目の奇跡』のほか、クリスティ、宮部みゆき、東野圭吾などのミステリ作品もたくさん登場します。

 

タイトルにある27000冊の27000ってなんでしょう? その答えもこの本で見つけてくださいね。贈り手の方は「この本に出てきた本で、読んでみたい本があったらもう1冊プレゼントするから教えてね!」と一言添えてプレゼントするのはいかがでしょうか。
贈った本の「次」に繋がるお手伝いができたら、ステキですよね!

アニメ映画も一緒に楽しみたい!

『続 窓ぎわのトットちゃん』

この本の前作は、1981年に出版された黒柳徹子さんの自伝(『窓ぎわのトットちゃん』)で、なんと累積発行部数800万部!(これは日本国内のみの数字で、世界中で人気です)の大ベストセラーです。


この続編が2023年に出版され、12月にはアニメ映画も公開されます。
作者の黒柳徹子さんは、ギネス世界記録に認定されているトーク番組の司会者で、紅白歌合戦の司会を何度も務め……、日本の放送界の幕開けから現在まで活躍し続けている女優さん。あの特徴的な髪型とドレスをみなさんご存じのことでしょう。

 

この本は、前作でトットちゃん(黒柳徹子さん)が小学校を退学になり、トモエ学園で自分らしさと居場所を見つけるという小学校時代が描かれていました。前作の最後は、トモエ学園が戦争の空襲で焼けてしまうのですが、続編はお嬢様だった少女時代から、戦況がますます厳しくなって疎開をしたこと、戦争が終わって東京にもどり、女優としての一歩をスタートさせるまでが書かれています。

 

読者の笑いを誘うトットちゃんの面白エピソードは今回も満載です。私はNHKの養成期間に起きたエピソードに大声で笑ってしまいました。素直でおおらかで「どうしてこうなる!」という失敗をしてしまう子どもの頃のトットちゃんは、大人になってもやっぱりトットちゃんなのです。

 

裕福で幸せな子ども時代、戦時に猛烈な行動力を発揮し家族を守るトットちゃんのお母さま、最年少司会を務めた紅白歌合戦での爆笑エピソードなど……読めば多くの登場人物から元気をもらえること、間違いなしです!

 

まさに2023年を振り返り、希望を持って2024年を迎えるのにピッタリ! 贈り手のみなさんは、昭和の時代の思い出と一緒にこの本を贈ってみませんか?

おわりに

いかがでしたか?
ちょっと盛りだくさんになってしまいましたが、まだまだ紹介したい本がたくさんあります。音声配信のスペシャルコンテンツでは、「直接会えないけれど本を贈りたい(送りたい)方にオススメの本を紹介しています。こちらもぜひお楽しみください。

 

2024年もたくさんの本を紹介していきますので、引き続きこの連載をお楽しみくださいね!

 

みなさんにとって2024年も本とともにごきげんな日々になりますように!

今月のスペシャルコンテンツ

今回も絵本ナビスタイルの読者さん限定の音声スペシャルコンテンツを用意しています。
「学校図書館ラジオ」を配信しているstand.fm で「今月のちどりのもう1ブックトーク」を聴くことができます♪
下のQRコードからのみ、聴くことができる限定配信です。

QRコードを読み取っていただくか、URLをクリックして聴いてみて下さいね♪

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山下ちどり
 

現役学校司書。
音声メディアstand.fm「学校図書館ラジオ〜本とともにごきげんな毎日」のパーソナリティ。
比較的新刊のお気に入り本や、学校図書館、出版周辺のトピックスなどを配信している。Twitter @nagisalib

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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