中学生に贈りたい本! 2022~2023
中学生に本を贈るなら! 目的別にご紹介
みなさん、こんにちは!
山下ちどりです。
2022年もあとわずかになりました!
12月は街のどこかしもがうきうきした雰囲気ですよね。
本屋さんもクリスマスプレゼントや年末年始の贈り物選びで、とても活気があるんですよ!
今年も12月は、中学生に贈りたい本の特集です。
大人から中学生へ、はたまた中学生同士で、本を贈ってみませんか?
2023年はウサギ年! 世界で人気のあのウサギの新シリーズを新訳で!
2022年は『ピーター・ラビット』が商業出版されて120周年の節目の年でした。
東京を皮切りに、大阪、静岡と約1年間をかけて各地で展覧会が行われました。私は東京の世田谷美術館で展覧会を観ました。世界で愛される可愛いうさぎのキャラクター、ピーター・ラビットと仲間たちの絵を味わいながら、作者ビアトリクス・ポターの人生を知ることができ、大満足でした!
さて、この出版120周年に合わせて絵本のシリーズが新訳で出版されています(シリーズの完結は2024年だそうです)。作家で詩人の川上未映子さんの翻訳です。言葉にとことんこだわった、川上未映子さん訳をぜひ手に取ってみてください。
新訳が出る前は、数多くの英米文学を日本に紹介した石井桃子さんの訳による福音館書店のシリーズが定番でした。こちらは大人のみなさんが慣れ親しんだ、味わい深い訳です。両方の訳を併せて読んで比較してみるのもオススメですよ。
川上未映子さんによる新訳「早川書房 ピーターラビット™」シリーズ
石井桃子さんの訳による「福音館書店 ピーターラビット」シリーズ
中学生に絵本? と思われるかもしれません。1つ1つの本は小さく可愛らしいので、お部屋の本棚に置くだけで気分が上がります。
さらに、原書である英語版と共にプレゼントすることをオススメしたいです。
小説で原書にチャレンジするのはハードルが高くても、絵からストーリーのヒントを知ることができる英語絵本は、英語学習の入り口にピッタリなのです。
このシリーズは日本語も英語も1ページあたりの文は2つか3つ。
英語を母語とする子どもに向けて描かれた絵本なので、中には見慣れない英語も出てきます。訳と比べて読むことで、教科書には出てこない英単語を知ることができるほか、単語が持つ複数の意味を知ることができます。
(この後紹介する本の中に a fine company という言葉が出てきます。ここでの company は会社という意味ではなく、文脈から「ステキな仲間のご一行」ということが分かります)
1日1ページずつ訳を見ながら英文を写してみるのもいいですね!
教科書ではない、原書の文学に触れる最初の一歩にオススメです。
シリーズの中の1冊である『こねこのトムのおはなし』を取り上げてご紹介しましょう。
川上未映子さんによる新訳「早川書房 ピーターラビット™」シリーズより『こねこのトムのおはなし』
おかあさんねこが子ねこの顔を洗う様子が「顔をこしこし」という言葉で表現されています。左にある絵は、こしこし、という言葉がぴったり! 訳のうまさにうなります。
もう1つ、かわいらしい訳がありますよ。よそいきのお洋服を着せてもらったのに、お外ですっかり脱いでしまったやんちゃな子ねこたちの様子を「毛のみ毛のまま」って表しているんです。
洋服を着ていない状態だから、毛のみ毛のまま! なんて楽しい訳なのでしょう。
愛らしい絵と、言葉のカップリングを楽しんでくださいね。
「早川書房 ピーターラビット™」シリーズ、現在9冊が刊行されています(全23巻)
贈り物にぴったりの愛らしいシリーズ! グラフィック社「小さなてのひら事典」シリーズ
書棚に置くだけで可愛い! 眺めて楽しい! 年末年始の贈り物にぴったりの愛らしいシリーズです。
各本で取り上げられているテーマは、とりやねこといった小動物、薬草・バラなどの植物、クリスマスやおとぎ話などの人文系、占星術や花言葉などの占い系まで、幅広いです。
こちらはフランス原著の翻訳シリーズ。ぽってりとした厚みのある表紙に描かれている柄は、洋館の壁紙みたいにおしゃれです。本の天と小口と地(紙の厚みの部分に当たります)は三方金といって、ピカピカの金色で華やか。シリーズ名の通り、文庫をちょっと大きくしたような手のひらサイズで愛らしいという言葉がピッタリです。
タイトルのテーマに関する事柄が、左にテーマと説明文、右側はテーマに合ったちょっとレトロなイラストが配置され、見開きで完結しています。
シリーズの中の『月』を例に挙げると、月の表面、月と太陽、月の動き、スーパームーンといった地学的なテーマから、月のシンボル、月と音楽、月の映画など、文化的なことまで、とっても幅広いんです。最後まで通して読めば、月について相当詳しくなれちゃいます!
ちいさな手のひら事典 月
贈る相手の好みが分からなければ、この時期にぴったりの『クリスマス』や、本を通じて会話が弾みそうな『占星術』がオススメです。
それぞれの本の読み方は、目次をめくって好きなテーマを選んでも、パラパラめくって目に留まった絵のところから読み始めても、OK! 贈った相手が気軽に楽しめるシリーズです。
ちいさな手のひら事典 クリスマス
ちいさな手のひら事典 占星術
ちいさな手のひら事典 花言葉
「ちいさな手のひら事典」シリーズ
中学生から探Q(探究)する心!
日本の学習指導要領は2020年から順次新しくなっています。今年2022年から始まった高等学校の学習指導要領の柱となっているのが「探究」学習。国語・地歴公民・理科・数学などで「〇〇探究」という科目が新設されています。
そもそも「探究」ってなんでしょう?
漢字を分解すると「(物事を)探って、究める=深いところまで明らかにする こと」ですね。ある事柄に対して、問いを立て、探り方を考え、実際に調べて、自分なりに意見をまとめること、それが探究のプロセスです。
探究する気持ちをくすぐり、なぜ?や知りたい!を広げてくれる中高生向けのシリーズが続々出ています。その中からオススメ数冊をご紹介します。
まずは、ちくまQブックスから
ちくまQブックス(筑摩書房)
『生命倫理のレッスン 人体改造はどこまで許されるのか?』
著者は、生命や先端医療技術に関わる倫理問題を大学で教えている先生です。
文字だけ見ると、うっ!難しいのでは? と思ってしまうかもしれませんが、ご安心を。
各章の見出しは
美容整形は「私の自由」?
ドーピングはなぜいけないのか?安全性・主体性・公平性から考える
スマートドラッグで「私」ではなくなる?
読んだだけで、どうなんだろう!? と思わずページをめくりたくなるようなテーマばかりです。そして各章で展開されるのは、唯一の解への導きではなく、様々な切り口の提示です。「薬物が身体に悪いからって禁止していいの?」と一見常識と思えることをあえて覆し、深掘りすることで、脳の使っていない部分がストレッチされるような感覚になるかもしれません。
中学生は心も体も急激な変化を遂げ、自立していく時期。一度は自分の身体について、じっくりと考えて欲しい、と思っています。自分の身体を自分で考えるきっかけになる本です。
『苦手から始める作文教室 文章が書けたらいいことはある?』
小説の名手だなぁと私が思う作家、津村記久子さんによる『苦手から始める作文教室』は、語りかけるような文体と、親しみやすい例で、読み物として読んで欲しい本です。津村さんは「作文が苦手」と本書で書かれていますが、通して読んで「津村さんは文章の名手だなぁ」と感動します。一緒に散歩しながら会話しているような気軽さなのに、読後に多くの気づきを得ていたことに驚くような、見慣れた何気ない景色が津村さんの解説によって、かけがえのないものだったことに気づくような、そんな津村ワールドを垣間見ることができます。作文がなんで探究?と思うかもしれません。
先ほど私が書いた、「ある事柄に対して、問いを立て、探り方を考え、実際に調べて、自分なりに意見をまとめること」それが探究のプロセスです という文を読み返してみてください。読書感想文やブログを書くときのプロセスと似ていますよね。
「問いを立てて→アウトプットまでが探究活動」と考えると、この本そのものが探究活動であるとともに、みなさんの探究活動を広く下支えしてくれる本ともいえますよ。
次にご紹介するのは、「岩波ジュニアスタートブックス」シリーズです。
『未来をつくるあなたへ』
ウクライナ侵攻が始まった今年、中学生にぜひ読んで欲しい本です。
著者の中満泉さんは、国連の事務次長として軍縮問題を担っている人です。探究をテーマにした各社のシリーズの特徴に、世界で活躍する豪華な顔ぶれが中学生に向けて易しい言葉で書いている、ことが挙げられます。どの本も贅沢すぎる著者陣ですが、こちらも世界の諸問題を知り、世界をまとめるリーダーの考えを知ることができるという贅沢さがあります。
中満さんは、核兵器や生物兵器を禁止し、世界が平和になるよう現在も世界中を飛び回っています。兵器をなくし、平和を実現する軍縮の他にも、この本では環境、人権、格差、ジェンダーなど、世界で取り組むべき課題を紹介しています。16の章は簡潔でどれも読みやすく、中学生のみならず、大人の視野も広げてくれますよ!
世界中で問題は山積していますが、本書で紹介されているデズモンド・ツツ大司教の言葉に、私はとても感銘を受けました。きっとみなさんの心も照らしてくれるはずです。ぜひ確かめてみてくださいね。
『なぜ私たちは理系を選んだのか』
ニュースやバラエティでおなじみの桝太一さんが、各分野で活躍する理系出身の7人にインタビューした『なぜ私たちは理系を選んだのか』は、進路に悩む中高生に手渡したい1冊です。
本が大好きで文系という選択肢もあった宇宙飛行士の山崎直子さん。文系を勧められたけれど工学部に進み、今は人気Youtuberになっているゆきりぬさん。工学システムを学び、大好きなテーマパークに技術職として関わる渡邊さんなど、多様な人が取り上げられていて、理系のイメージがぐぐっと広がる1冊です。
それぞれのシリーズにはまだまだたくさんの本があります。
贈りたい中学生の興味・関心に合わせて、選んでみてくださいね!
「ちくまQブックス」シリーズ
「岩波ジュニアスタートブックス」シリーズ
日ごろは本を読まない中学生に。映画と楽しむ原作本や関連本
本を読んでいる姿を見たことがない、という中学生には映画と本をセットでプレゼントがオススメです。
この冬1番のオススメは、中学生にも大人気の作家、辻村深月さんの2018年本屋大賞受賞作『かがみの孤城』です!
この本は中学1年生のこころを主人公に、それぞれ悩みを抱えた中学生たちが登場します。学園ものでミステリーで、ラブ要素もあり・・・・・・あとはネタバレになってしまうので控えますが、面白さがてんこ盛りのこの小説は、「読み始めたら一気読み!」の声多数。大人も寝不足必至です。
「でも、本は絶対読まない」という人には、先に一緒にアニメ映画を観て、その後、本をプレゼントしてみたらいかがでしょうか。単行本、文庫、ポプラキミノベル、と3種類あります。本屋さんで贈る相手を思い浮かべながら、選んでみてくださいね。
「かがみの孤城」単行本版、ポプラキミノベル版はこちら。
『収容所から来た遺書』
ん? そんな映画あったかな? と思う人がいるかもしれません。
ジャニーズの二宮和也さんが主演している映画「ラーゲリより愛をこめて」の原作です。すでに映画を観た人から「感動して、号泣!」とオススメされたのでご紹介します。
舞台は第二次世界大戦後のシベリア。マイナス40度の極寒の地で、ラーゲリと呼ばれるソ連の強制収容所に送り込まれた日本兵たちの、過酷な日々と人間愛を描いたドラマです。
映画の原作となっているのが、辺見じゅんが20年以上前に発表して大きな話題となったドキュメンタリー『収容所(ラーゲリ)からの遺書』です。シベリアの描写は私たちになじみが薄いので、映画を観た後、感動冷めないうちに読むことをオススメします。
日本への帰還(ダモイ)を願っていたシベリア抑留者たちの、過酷な条件下での人間愛を淡々とした記述から知ることができます。
この冬、離島で生活する医師を描いた「Dr.コトー診療所」シリーズの新作が、16年ぶりに公開されました。
本土からフェリーで6時間かかるへき地の孤島でたった一人、村の人たちの健康を支える医師の奮闘を描いた作品です。原作はコミックで、現在は休載中。
この映画を観た後に、オススメしたいのが藤岡陽子さんの『海とジイ』です。直接「Dr.コトー」とつながりがあるわけではありませんが、瀬戸内海に浮かぶ島を舞台にした3つの短編小説の1つは、おじいさんの男性医師が主人公です(ちなみにDr.コトーはおじいさんではありませんよ)。
残る2つも1つは末期がんのおじいさんと孫との約束、もう1つは怪我で陸上選手をあきらめざるを得なかった高校生の大晦日が描かれています。著者の藤岡陽子さんの看護師の経験を生かした、病院や病院で働く人の描写がとてもリアルです。
「Dr.コトー」の映画を観た後、もう一つの離島の医師の物語を読んでみませんか。
日本から世界を感じたい中学生に
『6カ国転校生 ナージャの発見』
ロシア、日本、イギリス、フランス、カナダの計6カ国の学校に通った(なんと小学校は3回卒業だそうです!)キリーロバ・ナージャさんによる本です。ナージャさんが児童・生徒として通った各国の学校の様子を、イラストともに詳しく解説していて、今大人気の本です。教室の座席や、使用する筆記用具、入学年齢など、国によって事情が異なることがよ~く分かります。
教室から知るお国柄は、その国の文化や社会の事情を反映しているので「教室と地続きの国際理解」を体験できますよ。満点をなかなかつけないフランス、個性的な科目や選択授業が多いカナダの中学校、など初めて知ることがたくさん!
さて、登場する6カ国のうち、日本に比較的近い国はどこでしょう?
本書でぜひ確かめてみてくださいね!
『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』
ウスビ・サコさんはマリ共和国出身で京都の大学の学長を務めています。
6カ国語と日本語は関西弁を少し(だそうです)を操る国際人。
この本は、サコさんが見た日本の不思議なところや、日本人が誇りにする文化への違和感を、切り口スッパリ、語り口はマイルドに(はんなりと?)まとめている本です。
ご近所から「にぎやかでよろしいね」と言われていたのに、うるさいと警察に通報されてしまったのはなぜ?
日本人は無宗教というけれど、キリスト教の結婚式では参列者が熟練した役者のようにキリスト教の儀式を完璧に演じているとは!
「近くに来たら寄ってね!」と言われたから遊びに行ったのに、なんで驚くの!?
と、日本人なら「空気で察して」分かることが、サコさんには不思議でならないんです。
この本を読むと、当たり前のように感じていた日本の文化の、「言葉とは異なる習慣の難しさ」(花見と言うけれど夜の飲み会で花はよく見えないし誰も見ていない、など・・・・・・)を「なるほど、そうかも!」と気づくことが出来ます。
また「全力で外国の人をおもてなし」する姿勢が、実は外国の方にとってはあまりありがたくないことだったり、「外国の方はみな支援が必要」と決めつけてしまうことが、与える→与えられるの関係性になってしまっていることなど、日本人の善意の裏側にあるものにハッと気づかされることが多々あります。
私たちにあまりなじみのないマリ共和国の習慣も紹介されており、読んでびっくり! 世界は広い! と驚くばかりです。
今月のスペシャルコンテンツ
今回も絵本ナビスタイルの読者さん限定の音声スペシャルコンテンツを用意しています。
「学校図書館ラジオ」を配信しているstand.fm で「今月のちどりのもう1ブックトーク」を聴くことができます♪
下のQRコードからのみ、聴くことができる限定配信です。
QRコードを読み取っていただくか、URLをクリックして聴いてみて下さいね♪
アンケートのご回答ありがとうございました。
>中学生のもえさん(読み方がちがっていたらごめんなさい!)
アンケートのご記入ありがとうございます。
冬も読書感想文がでる学校なのですね。それは素晴らしい!と私は思いますよ。
今回、「中学生に贈りたい本!2022〜2023」でご紹介した本たちはどれもおすすめです。
特に冬休みに映画を観る予定があったら、もえさんと同年代が主人公の『かがみの孤城』がオススメです。お友達と観て、お友達の感想も含めて感想文に盛り込むとあっという間に書き上がっちゃうかも!
スペシャルコンテンツでご紹介している本は20人の様々な国から日本にやってきた人々が紹介されています。もえさんの心に、登場する誰かが引っかかれば、その人の出身国を調べてオリジナルの感想文が書けると思います。特にこの本は出たばかりなので、周りのお友達と重なることもなさそうですよ!
よかったら感想文に選んだ本や、最近のおすすめの本を教えてくださいね!
おわりに
2022年の終わりから2023年のはじめにかけて、中学生に贈りたいホットな本をたくさんご紹介しました。日頃は会わない親戚のおじさんやおばさん、年の近いいとこたちと本屋さんで時間を過ごすのもオススメです。本を通じて互いの興味・関心を知ったり、会話が広がるといいなと思います。
2023年も一緒にたくさんの本を読んでいきましょうね。
- 2021.12.07中学生に贈りたい本!
- 2021.09.30中学生の朝読書、すきま読書におすすめの本8選
- 2022.08.18中学生にオススメしたい、世界を旅する本
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山下ちどり
現役学校司書。
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