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絵本作家ひろたあきらの 一冊ぐらい絵本を読んでみませんか?

絵本作家ひろたあきらの 一冊ぐらい絵本を読んでみませんか? vol.2『おなみだぽいぽい』

僕は今、絵本作家として絵本を作っています。ですが、元々はただの絵本好きでした。それは今でも変わっていません。

 

映画、音楽、漫画、小説、アニメ。大人が楽しめるカルチャーはたくさんあります。それと同じように、絵本だって大人が読んでも楽しめるのです。この連載は、そんな絵本の魅力を、普段絵本を読まない大人にも届けたいという思いで始まりました。

一冊ぐらい絵本を読んでみませんか。

あなたは最近泣きましたか?

うまく言えない泣きたい気持ちに、そっと寄り添う絵本

おなみだぽいぽい

じゅぎょうのとき せんせいのいうことわからなくて なみだこぼれそうなときあります。

 

…わたしのなみだがしみこんだ、ぱんのみみ。それを投げると、トリがキャッチして食べてくれて…。

子どもも大人も、心の奥にしまっていた何かを思い出すストーリーと、斬新で色鮮やかな絵。
数々の書籍の装画を手がける著者が、長年温めつづけた初めての絵本、満を持して発刊。

今回紹介する、大人に読んでほしい絵本は『おなみだぽいぽい』です。おなみだぽいぽい。声に出して言いたくなります。皆さんも言ってみてください。せーの、おなみだぽいぽい。魔法の呪文っぽくて、心地よい響きです。

この絵本は、タイトルからも分かる通り、涙にまつわるお話です。

大人になると、なかなか泣くことってないですよね。あなたは最近泣きましたか? 僕は少し前ですが、映画館で『ゴジラ-1.0』を見てちょろっと泣きました。その前は、10年以上の付き合いになる、先輩芸人の結婚式で泣きました。これはなかなかの号泣でした。幸せそうな先輩の姿を見ていたら、どんどん涙が溢れ出して、止まらなくなってしまいました。

 

涙にもいろんな種類の涙があります。大人になればなるほど、今まで流したことのない種類の涙を流すのでしょう。この絵本は、そんな涙をぽいぽいするお話です。

表紙をめくり、最初のページを読むとこう書いてあります。

 

「じゅぎょうのとき せんせいのいうこと わからなくて なみだ こぼれそうなとき あります」

 

これを言っているのは、主人公のねずみです。絵では、授業中の教室の様子が描かれてあり、主人公のねずみ以外は、みんな手をあげているけど、主人公のねずみだけ教科書で顔を隠しています。確かに、これは泣けますね。絶望的な孤独を感じると思います。

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=115812

次のページをめくると、ねずみは誰もいない場所でひとりぼっちで泣いています。またページをめくると、こう続きます。

 

「はんかちの なかで めをつむったら のどが きゅーう といいました それから つらつら はなみず でました。」

 

ねずみはかなり泣いている様子です。お気に入りのハンカチは、涙と鼻水でずっしりと重たくなりました。そしてまたページをめくると、

 

「なげました!」

https://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=115812

ねずみは突然、天井に空いた穴をめがけて、お気に入りのハンカチを豪快に投げてしまいます。これぞまさしく、おなみだぽいぽいです。ここからねずみは、次々とおなみだをぽいぽいしていきます。

 

ねずみは、隠しておいたパンの耳を食べます。しかし、泣いているせいで喉がつまってしまいうまく食べられません。さらに溢れる涙を、しかたなくパンの耳でぬぐいます。そしてまた、天井の穴に向かって、涙の染みたパンの耳を思いっきり投げて、おなみだぽいぽいするのです。すると、涙の染みたパンの耳が、思いもよらない方向へと物語を動かします。パンの耳はどうなったのか?ねずみは涙を止めることができたの? 続きは絵本を読んでお楽しみ下さい。

このねずみは、悲しくて泣いているはずなのに、涙をぽいぽいと投げる姿を見ていると、泣いていることがむしろ楽しく感じられます。本来なら下に落ちるはずの涙を、上に投げるって発想が素敵ですよね。そして絵本を一冊読み終える頃には、不思議と泣き終わった後のような、スッキリした爽やかな気持ちにさせてくれます。

人に泣く機能が備わってるいるということは、きっと泣くことも大切なことのはず。確かに、全く涙を流さない人より、たまには涙を流す人の方が、人間味があって安心します。

なるべく、悲しい涙は流したくありませんが、残念ながら生きていたら悲しいこともやってきます。そんな時はこのねずみのようにいっぱい泣いて、おなみだぽいぽいできたらいいですね。

この絵本は物語が面白いのはもちろん、言葉のリズムが独特で読んでいて楽しいです。歌の歌詞を歌わずに読んでいる感じがします。そして、絵がすごい。コラージュのつぎはぎ感のある絵で、ページごとにいろんな視点で見せ方に工夫があるので、ページをめくるたびに目がわくわくします。大人が読んでも、楽しめるポイントがいっぱいつまった絵本です。泣きたい夜のお供に、一冊読んでみてはいかがでしょうか。

 

最近のこと

最近作った新しい絵本のラフです。
いつもこんな感じで、A5のコピー用紙に、落書きみたいに描いてます。
いつか絵本になるのか、ならないのか、楽しみにお待ち下さい。

 

 

今月の、推し「長新太絵本」!

長新太さんの絵本が大好き というひろたさんに、月に1冊、推し「長新太絵本」の魅力を動画で語ってもらうコーナーもスタートしてみました! 今月紹介してくれるのは……?

 

 

 

ひろた あきら

1989年愛知県額⽥郡幸⽥町⽣まれ。吉本興業所属の絵本作家。2019年2⽉に刊⾏したデ ビュー作『むれ』(KADOKAWA)が「第12回MOE絵本屋さん⼤賞2019」の新⼈賞第1位、「第7回 積⽂館グループ絵本⼤賞」第1位、「第3回未来屋えほん⼤賞」の第3位に選ばれるなど多くの絵 本賞を受賞。その後も第2作『いちにち』(KADOKAWA)、『ぐるぐるぴ』(講談社)、『にゃおにゃお にゃお』『ちんぽうがき』(ヨシモトブックス)など、精⼒的に活動を続けている。2021年、幸⽥町絵 本⼤使に就任。絵本を⽤いたワークショップや読み聞かせ会を積極的に⾏う。

ひろたあきらさんの新作は「うんこ絵本」!

ぷり

2019年『むれ』の衝撃のデビューから話題作を立て続けに発表する、ひろたあきらさんの新作が登場。テーマは「うんこ」!? 本書は小さな動物から、想像上の生き物、神様(!)まで、あらゆる命の個性豊かで尊い排泄姿とうんこが描かれます。この作品は「生きとし生けるものはすべてうんこをする」という「生命賛歌」の物語です。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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