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【ランキング】2024年7月8月の児童書人気ランキング~夏休みの読書に人気だった本は?~

2024年の夏、みんなが買ったり読んだりしていた人気の児童書はどんな本だったのでしょう。また課題図書で人気だった本や、読書感想文向けに選ばれていた本など、夏の読書の総まとめとして、絵本ナビでの児童書人気ランキングを発表します。

2024年7月8月の児童書人気ランキング【2024/7/1~8/31】総合!

まずは第1位から10位はこちら

ふたりの温かくユーモアあふれるお話は、この夏も一番の人気でした。

ふたりはともだち

仲良しのかえる、がまくんとかえるくん。ふたりの間で繰り広げられるのは、濃くて、可笑しくて、ちょっぴり切ない……様々な愛すべきエピソード。アーノルド・ローベルの「がまくんとかえるくん」シリーズは幼年童話の傑作として、子どもから大人まで、たくさんの人たちに40年以上も愛され続けています。

そのシリーズ第1作目が『ふたりはともだち』、5つのお話が収録されています。

春が来たからと大急ぎでがまくんの家に走っていき、「おきなよ!」と大きな声で呼びたてるかえるくん。お日さまがきらきらして、雪も溶け、新しい一年がはじまったかと思うと、いてもたってもいられないのです。ところが、がまくんは布団の中。もう少し寝ていたいのです。11月から眠っているがまくんは「5月半ば頃にまた起こしてくれたまえよ。」なんて言うのです。そこで、かえるくんは……?

がまくんを外に連れ出して遊ぶためなら頭の回転だって早くなるかえるくんと、カレンダーに合わせて簡単に5月だと思い込んでしまうがまくん。最初のお話「はるがきた」で、幼さと可笑しさがたっぷり詰まったふたりのキャラクターを存分に味わうことができます。

続く「おはなし」と「なくしたボタン」では、それぞれのやり方でお互いを思いやっている様子(大いに巻き込みながらね)を、「すいえい」ではちょっぴりブラックな面をのぞかせつつ、思いっきり笑えるエピソードを披露してくれます。

すっかりふたりの世界観に夢中になった頃、登場するのが最後の「おてがみ」です。

悲しそうな顔で玄関にすわっているがまくん。なんでも「もらったことのないお手紙を待つ時間」なんだと言うのです。それを聞いたかえるくんは、がまくんに内緒でお手紙を書くことにします。ところが、配達を頼んだのがかたつむりくんだったので……。

国語の教科書に採用されたことで、今では多くの子どもたちに知られているのがこのお話。いずれ届くことも、その内容までもわかっているお手紙をじっと待つがまくんとかえるくん。その幸せそうな様子に、「手紙」の持つ力を感じずにはいられませんよね。

シリーズ4冊。がまくんとかえるくんのキャラクターを知れば知るほど、どのお話も読み返したくなる珠玉のエピソードばかり。日本では三木卓さんの翻訳で楽しむことができます。

 (磯崎園子  絵本ナビ編集長)

今年の7月に「はれときどきぶた」シリーズを書かれた児童文学作家の矢玉四郎さんがお亡くなりになりました。80歳でした。空からぶたが降るという、衝撃的な発想で子どもたちを笑わせてくれたお話は1980年の発売当時から話題になりましたが、40年以上たった今でもたくさんの子どもたちを楽しませています。この先も、子どもたちと、子どもの頃に楽しく読んだ大人たちに愛され続け、読み継がれていくことでしょう。

これからもずっと読み継いでいきたい名作です。

はれときどきぶた

三年三組。畠山則安。あだなは、十円やす。じまんは毎日、日記をつけていること。けれどもある日、大事な日記をお母さんが勝手に読んでいるところを目撃してしまい、腹を立て、「あしたの日記」を書き始めます。そこに書いたのは、トイレに大蛇がいた! お母さんが鉛筆を天ぷらに! ……そして空からぶたが降る!? などの「うそ」の日記。
はたして、日記を書いた後に起きたこととは?

1980年に刊行され、40年近くにわたり読み継がれてきた『はれときどきぶた』。子どもの頃に読んだという大人の方もたくさんいらっしゃることでしょう。大人になって『はれときどきぶた』を思い出した時に頭をよぎったのは、本の中のエピソードの記憶。特に、鉛筆の天ぷらの記憶は五感とともに残っていて、食べたことはないのに口の中で鉛筆の味がしたり、ガリガリと固い感触がしたり、則安くんのお父さんと同じようにお腹が痛い気までしてくるようで、子どもの頃にお話を読んで感じた感覚がそのまま蘇ってくるようでした。そんな風に、『はれときどきぶた』という題名を聞いただけで、子どもの頃に読んだ記憶が蘇ってくるという大人の方も多いのではないでしょうか。

そしてこのお話のすごいところは、今は大人になったかつての子どもたちと全く変わることなく、今の子どもたちのことも夢中にさせてしまうこと。お母さんが勝手に自分の日記を読んでいる、というのは、いつの時代でも腹が立つことでしょうし、「あしたの日記」にへんなことを書いてお母さんをぎゃふんと言わせてやろうという則安くんの気持ちにも、自然に共感するうちにすっとお話に入りこんでしまうと思うのです。

日記を人に読まれたくない、という内容を考えると、親から少しずつ自立し始める小学2年生の後半から3年生ぐらいからが読み始める年齢としてはぴったりくるのではないかと思います。上は小学校高学年でも楽しく読めるでしょう。一方、お母さんをぎゃふんと言わせたいというあたりはひとりでこっそり読むのに向いているかと思いますので、読み聞かせには向かないかもしれません。

小学2年生の後半ぐらいから6年生までの子どもたちの中で、本ってなんだか難しそう、面倒くさい、など本にあまり興味が持てない子に特におすすめしたいと思います。読み始めたら、本ってこんなに面白くて親しみやすいものだったのか、主人公がこんなことしてしまってもいいの!? など本へのイメージががらっと変わることでしょう。本の面白さを知る出会いの一冊として、声を大にしておすすめしたい作品です。また、「はれぶた」シリーズはこの後10巻まで出ていますので、1巻目が気に入ったら、ぜひ続けて読んでみて下さいね。

大人の方が読む場合には、あとがきに書かれている作者のメッセージにもぜひ注目を。
たとえ人から「ばかなこと」だと思われるようなことでもいろいろなことを自分の頭で考えることの大切さや、自分の感じたこと、考えたことをちゃんといえるようにならなくちゃいけないというメッセージに、面白おかしいだけではない、『はれときどきぶた』が長く読み継がれる秘密が伝わってきます。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents_old.asp?id=462 『はれときどきぶた』40周年おめでとう! 作者・矢玉四郎さんインタビュー(2020年11月)

課題図書低学年の部からは『ごめんねでてこい』が総合3位にランクインしました。

ごめんね でてこい

「おばあちゃん!」
「はなちゃん、元気だった? 大きくなったねえ。」

ひとり暮らしの家を工事する間、おばあちゃんがはなちゃんの家で一緒に暮らすことになりました。
いつもにこにこ顔でほっとするにおいのするおばあちゃん。はなちゃんはおばあちゃんが来てくれて嬉しくて仕方ありません。おしゃべりが大好きなおばあちゃんのおかげで、家族みんながいつもよりたくさん笑っています。

でも、はなちゃんには少しだけもやもやすることがありました。
おばあちゃんはよくはなちゃんのすることに対して「でもね」と言って注意するのです。
おばあちゃんの言うことが正しいのは分かってる。でも……。
そんなもやもやを抱えていたある日、仲良しの友だちが遊びに来ます。帰り際、友だちにあることを注意したおばあちゃん。これには我慢できなくなったはなちゃんは、「おばあちゃんなんて、きらい!」と言ってしまうのでした。

お話から伝わってくるのは、おばあちゃんの優しさとたっぷりの愛情。そしてはなちゃんがおばあちゃんを大好きだという気持ちです。でもそれでも我慢できないことやすれ違ってしまうこともきっとあるでしょう。思わず出てしまった言葉や行動に対して「ごめんね」のひと言がどうしても言えない。そんなはなちゃんの気持ちの動きがとても丁寧に描かれています。作者のささきみおさんが描かれた挿絵も優しく、とくに、ひまわりの刺繍が入ったピンク色のきんちゃくが印象的です。

第70回読書感想文コンクール課題図書の小学校低学年の部にも選定されている本書。「ごめんね」についての思いは、相手がおばあちゃんでなくても、なにか低学年の子どもたちなら心に引っ掛かる体験があるのではないでしょうか。お話を通して、自分の体験を思い起こしてみる。それは一歩深い読書への入り口になるのではないかと思います。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

第4位 先生、しゅくだいわすれました

忘れた理由を面白く話せたら怒られない? 毎年読書感想文の時期にさらに注目を浴びる作品です。

先生、しゅくだいわすれました

ある朝、宿題を忘れてしまったゆうすけくん。
このままだと、先生に「追加の宿題」をさせられる!
とっさに、おなかが痛くて宿題ができなかったとウソをつきますが、話すうちにどんどんボロが出て、結局バレてしまいました。

「ウソつくなら、すぐばれるようなのはだめだよ。もっと、ばれないようなので、それから、聞いた相手が楽しくなるようなのじゃなくちゃ」

そう言ってニヤリと笑う、えりこ先生。
それなら、よーし、見てろよ!

「先生、しゅくだい忘れました!」

次の日、さっそくはりきってそう報告したゆうすけくん。
理由をきかれて、さあ、待ってました!
ぼくが宿題できなかったのは・・・宇宙人のせいなんです!

「先生、おれ、たぶん明日宿題忘れます」
「ずるい。明日はわたしが忘れようと思ったのに」
「おれも宿題忘れたい」
「じゃあ、順番にしようよ」

そうしておかしなことに、みんなは順番に「宿題を忘れる」ことにしました。
どうして宿題をすることができなかったのか、そのおかしな理由を毎日ひとりずつ話していく、クラスのみんな。

ところが、その日に宿題を忘れてきたのは……なんと、えりこ先生!

「あんまり賢くない宇宙人のせい」や、「野ネズミの恩返しのせい」など、クラスのみんなが話す、「宿題をできなかった理由」がとってもユニークです。
ウソをただウソとかたづけずに、想像力を自由に遊ばせる方法としてとらえ直すその考え方に目からウロコ!
なるほど、ウソのいなし方にはこんな方法もあるのかと、納得させられます。

物語をつむぐ楽しさ、そしてそのむずかしさを描いた、胸躍ることうけ合いの一冊です。

「そりゃあ、プリント作るの忘れてもしかたないね」

クラスのみんなも納得、えりこ先生が宿題を忘れた、その壮大な理由とは?

(堀井拓馬  小説家)

第5位は同数の売れで、3タイトルが並びました。

第5位 じゅげむの夏

友情と冒険といのちを謳歌する少年たちの夏休み。2024年課題図書中学年の部からランクイン!

じゅげむの夏

「四年生の夏休みを最高の夏休みにしようよ」

待ちにまった夏休み。山あいの村、天神集落で同じ小学校に通う山ちゃん、シューちゃん、かっちゃん、ぼく(あきら)の仲よし四人組は、早速かっちゃんの部屋に集まります。四年生の夏休みを最高の夏休みにしようと言ったのはかっちゃん。そうして四人の冒険の夏が始まります。

その冒険のひとつが天神橋からの川へのとびこみ。天神集落の子どもたちにとって、川へのとびこみは、ちょっと大人へと成長できた気がするような大切な儀式。そのとびこみにかっちゃんが今年の夏、挑戦したいと言います。けれどもぼくたちの気持ちは複雑です。それは、かっちゃんが筋ジストロフィーという病気で、けがや病気をすると、進行が早まってしまうと言われているから。けれどもかっちゃんのどうしてもの願いを聞いてあげたくて、ぼくたちは準備を万端にして見守るのですが……。

慎重なぼく。やんちゃだけれど頼もしい山ちゃん。マイペースなシューちゃん。性格はみんな全然違うけれど、それぞれの方法で、やりたいことをあきらめないかっちゃんの気持ちを汲み取り、全力で手助けしながら一緒に楽しみます。どんな冒険も四人で一緒に挑戦することに意味があるのです。みんなでなんとか頭をひねらせ、できる限りの準備をして一緒に冒険にのぞんでいく友情がまぶしく光ります。

一方、体に病気を抱えていながらも、かっちゃんはいつも明るくて前向きです。将来落語家になりたいという夢を持っていて、お気に入りは「じゅげむ」。この「じゅげむ」が、冒険に向けて不安になった時や、いい方法が浮かばない時にみんなを勇気づける活力になっているよう。

お話を書かれたのは、これまで数々の児童文学賞を受賞され、心に深く残る絵本や児童文学をたくさん生み出されてきた最上一平さん。その骨太なお話に、マメイケダさんの勢いのある挿絵がとてもマッチしています。表紙に描かれている、緑いっぱいの山に囲まれた集落の上に広がる真っ青な空。むっと湿度を含んだ夏の空気と木々の匂いがしてきませんか。

第70回読書感想文コンクール課題図書の小学校中学年の部にも選定されている本書。夏をめいっぱい冒険したい三年生、四年生に。さらに少年たちの友情と冒険といのちを謳歌する日々のこのきらめきを、大人の方にもぜひ感じてほしいです。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

第5位 ぼくはめいたんてい(1) きえた犬のえ(新装版)

1年を通して人気の名作。夏もネートと一緒にナゾ解きを楽しめたかな?

ぼくはめいたんてい(1) きえた犬のえ(新装版)

9歳のネートは探偵です。
今日もネートの元に1本の電話が入りました。
仲良しの女の子アニーから、なくなった絵を探してほしいとの依頼です。

すぐにアニーのところへ駆けつけるネート。
まず、アニーの話をじっくり聞き、部屋の中をくまなく調べます。
次に、その絵を見た他の人たちー仲良しのロザモンド、弟のハリー、犬のファングについて丁寧に調査していきます。
はたしてネートは、アニーのなくなった絵を発見することができたのでしょうか。

一見、すぐに解けそうと思わせておきながら、意外になかなか解けないナゾの面白さと、ネートのツボを押さえた探偵ぶりに子どもも(大人も!)たちまち心を掴まれてしまいます。
また9歳という年齢でありながら、どんなナゾが来ても常に落ち着き、周りから頼りにされているネート。子どもたちは、自分と同じぐらいの年齢の子の活躍とカッコよさにたちまち憧れてしまうのではないでしょうか。一方でパンケーキが大好物で、気が付けばいつもパンケーキを食べているところには親しみを感じてしまいますね。

こちらは、1982年の発売以来、たくさんの子どもたちに愛され、読み継がれてきた「ぼくはめいたんてい」シリーズの第1巻目。マージョリー・W・シャーマットさんによる全17巻となるこちらのシリーズは、5歳ぐらいから小学校低学年の子どもたちにちょうど良いハラハラさで、子どもたちがはじめて物語の楽しさに出会えるシリーズでもあります。つぎつぎにネートに降りかかるナゾ解きの面白さはもちろんのこと、巻ごとに増えていく個性的な登場人物、ネートからママへの置き手紙の内容など、読めば読むほど多くの楽しみをも発見できるでしょう。

すべての漢字にふりがながついているので、はじめての読み物としてもぴったり。ひとり読みに移る前に、まずは読んであげながら親子で一緒にナゾ解きを楽しんでみるのもいいですね。シーモントさんの温かくユーモアたっぷりの挿絵と、訳者の小宮由さんの柔らかな語り口も、子どもたちの読書をやさしく応援してくれます。お話の最後には「めいたんていのこころえ」もついていて、もし周りでなにかナゾが起きた時の役に立つかも!? さあ、ネートとどんどんナゾを解いて、一緒に名探偵になろう!

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

第5位 大どろぼうホッツェンプロッツ

おばあさんの大切なコーヒーひきが盗まれた! 少年カスパールとゼッペルがホッツェンプロッツに挑みます。

大どろぼうホッツェンプロッツ

盗まれたコーヒーひきを取り戻すため、大どろぼうホッツェンプロッツに、少年カスパールとゼッペルがあれこれ作戦をたて挑みます。さらに悪い魔法使いも登場し、どちらが勝つのか最後までハラハラドキドキ、一気に引き込まれます。本当に面白いと思える本との出会いのために、ぜひ小学生のうちに出会わせたい傑作です。

第8位は同数の売れで、2タイトルが並びました。

第8位 AIマスクはいかがですか?

もしAIマスクがあったら、どんななやみを解決したい?

AIマスクはいかがですか?

ここ数年ですっかり身近なものとなった「マスク」。そのマスクに特別な力があったら‥‥‥!?小学生のリナが、ふしぎなピエロからもらった『ハキハキAIマスク』。声が小さくて、いつも言いたいことが口の中でもごもごしてしまうリナにはぴったりで、つけた瞬間からハキハキ話せるように。さらに音楽の時間には先生に歌声を褒められて、音楽会で独唱をすることになります。どんどん話すことに自信を持っていくリナでしたが、しかしAIがどんどん賢くなって、言ってほしくない呟きまでもハキハキした声に変換するようになってしまいます。
他にも、『イケメンマスク』『コメディアンAIマスク』『チアAIマスク』を使った小学生たちのお話を三編収録

第8位 まほうのじどうはんばいき

「あなたのみかた」ってどういうこと?

まほうのじどうはんばいき

学校の帰り道、ぼくが見つけた変わった自動販売機。虹みたいな色をしていて「あなたのみかた」と書いてある。「あなたのみかた」ってどういうこと?自動販売機から何が出てくるのか、次に何が起こるのかワクワクさせられます。こんな自動販売機があったらいいなと思いながらも、ちょっと考えさせられる結末が待っています。

第10位は同数の売れで4タイトルが並びました。

第10位 ぼくはアフリカにすむキリンといいます

手紙がつなぐ友情! 手紙をやりとりする楽しさや、新しい出会いの喜びが詰まったお話

ぼくはアフリカにすむキリンといいます

手紙を出したり受け取ったりする楽しさや、新しい誰かとの出会いの喜びが伝わるお話です。キリンがペンギンのことを想像して真似する姿はユーモアたっぷり。地平線のこちらから向こうまでなが―い距離を行き来する手紙のことを想像したり、手紙をやりとりするそれぞれの気持ちを想像しながらゆったりとした気持ちで楽しんで下さい。

第10位 エルマーのぼうけん

とびきりの冒険物語を読みたいと思ったら、こちらを。今夏も人気がありました。

エルマーのぼうけん

 

さあ、リュックサックに道具をつめて、エルマーと一緒に冒険の旅に出発しよう!

これは僕の父さん、エルマーが小さかった頃のある冒険のお話です。ある雨の夜、エルマーは、年取ったのらねこから、「どうぶつ島」に捕らえられているかわいそうなりゅうの話を聞きます。りゅうは、空の低いところに浮いていた雲から落っこちてきたちっちゃな子どものりゅうで、ジャングルの猛獣たちに捕まえられて、川を渡るために働かされているというのです。

エルマーは、すぐに助けに行こうと決心します。早速ねこにどうぶつ島のことや、持っていくものを教えてもらい、旅の準備に取り掛かります。エルマーがリュックサックにつめたのは、「チューインガム、ももいろのぼうつきキャンデー二ダース、わゴム一はこ、くろいゴムながぐつ、じしゃくが一つ、はブラシとチューブいりはみがき‥‥‥」などなどたくさんの道具。そして「どうぶつ島」へと繋がる「みかん島」行きの船に忍び込んだエルマーは、六日六晩たってようやく「みかん島」へ。ここで食料のみかんをリュックいっぱいに詰め込んで、夜の間に「どうぶつ島」へと渡ります。

「どうぶつ島」へ着くと、早速りゅうがつながれている川を探しに、気味の悪いジャングルの中を歩いていくエルマー。ジャングルでは、おかしな喋り方をするねずみや、うわさ好きのいのししに出くわしたり、とら、さい、ライオンなど恐ろしい猛獣たちにつぎつぎと出くわします。猛獣たちはたいていお腹をすかせていて、食べられそうになることもしばしば。さてエルマーは、どんな風に猛獣たちの危険をくぐり抜け、どうやってりゅうを助け出すのでしょうか?

特に注目したいのは、リュックサックに詰めた道具たちの活躍と、見返しに描かれた「みかん島とどうぶつ島のちず」。道具は、はじめはこんなものが何の役にたつのだろう? と思ってしまいそうなアイテムばかりなのですが、エルマーの知恵も合わさって、驚くほどぴったりはまって役に立つ様子にワクワクさせられます。道具を介した猛獣たちとのやりとりもユーモアたっぷり。何回読んでも繰り返し楽しませてくれる場面がいっぱいです。
「みかん島とどうぶつ島のちず」には、エルマーが冒険した場所や、エルマーの足取りが細かく描かれています。地図を見ながらお話を読み進めていくと、よりエルマーと一緒に冒険しているような臨場感が味わえるでしょう。お話の途中で、また一章ごとに、お話を読み終えた後になど、ぜひ地図をたっぷり眺めながら読んでみて下さいね。

日本では、1963年の刊行から50年以上も読み継がれ、幼年童話の最高峰とも呼ばれる本書。作者は、ニューヨーク生まれのルース・スタイルス・ガレットさんという女性で、このお話でニューベリー賞(アメリカで毎年最もすぐれた児童文学作品に与えられる)を受賞しています。さし絵は、お継母さんのルース・クリスマン・ガネットさんによるもの。細かいところまで丁寧に描かれながらも、ユーモアあふれる魅力的なエルマーやりゅう、猛獣たちのさし絵が、物語を一層楽しく盛り上げます。さらに英語版の文字の大きさや書体を決めたのは旦那様のピーターさんだそうで、刊行時は、家族総出でこの本を作るのに取り組まれていたそうです。

この後も、『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』と続いていく、エルマーとりゅうのとびきりの冒険と友情の物語。内容は5才ぐらいから楽しめるかと思いますが、子どもがひとりで読むのは小学2年生ぐらいまでは難しいのではということと、なかなかのハラハラドキドキの冒険となりますので、はじめはぜひ大人が読んであげることをおすすめします。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

第10位 字のないはがき

向田邦子さんの戦時下における胸をうつ実話。あさイチで紹介され話題となりました。

字のないはがき

戦争時代、ちいさな妹が疎開するとき、
お父さんはちいさな妹に、
「元気なときは大きな○を書くように」と、
たくさんのはがきを渡しました。
しかし、大きな○がついたはがきは、
すぐに小さな○になり、やがて×になり・・・。

 

このお話は・・・
脚本家、エッセイスト、直木賞作家である
故・向田邦子の作品の中でもとりわけ愛され続ける
名作「字のない葉書」(『眠る盃』所収、1979年講談社)が原作。

【直木賞作家2人の夢の共演!】
当代人気作家の角田光代と西加奈子の最強コンビで
美しい絵本によみがえりました。

大きい1年生と小さな2年生

時代が変わっても変わらない普遍的な子どもたちの悩みや思いに触れる一冊。1、2年生に読んであげたい名作です。

大きい1年生と小さな2年生

お話に登場するのは、体は大きいけれど弱虫の1年生のまさやと、体は小さいけれどしっかり者でけんかも強い2年生のあきよです。読む子どもたちは、それぞれどちらに親近感を覚えるでしょうか?

まさやは1年生になったばかり。家から学校までの「がけのあいだのみち」がこわくて仕方がありません。狭くて暗いし、木はしげっているし、時々カラスも鳴いていてこわいのです。けれどもお母さんからひとりで学校へ行くのよ、と言われ困っていると、次の日、2年生の子どもたち四人が迎えにやってきて、まさやはあきよに手をつないでもらい、登校するようになります。まさやはあきよがいるだけで心強い気持ちになり、だんだんあきよの強さとしっかりとした様子に憧れるように‥‥‥。一方であきよもまた、まさやを見守ることによって、体は小さくても自分は大きいのだという自信が湧いてくるのでした。

そんなある日、事件が起こります。
あきよが好きな「ホタルブクロの花」を、「じんじゃの森」に探しに行くことになったあきよとまり子(あきよの友達)とまさや。傷を作りながらもあちこち探して、やっとの思いで二つだけ手にするのですが、帰り道に3年生の男の子たちとケンカになり、踏みつぶされてしまいます。その時、あきよが泣く姿を始めて目にしたまさやは、あきよのために「ホタルブクロの花」を取りに行こうと決意するのでした。そして1週間後の日曜日、「ホタルブクロの花」がたくさん咲いているという遠い場所にある「一本スギの森」に向かって歩き出します。ひとりで学校へも行けないまさやが大きな勇気を出して頑張る姿がみどころです。

こわいものがたくさんあるまさやも、体が小さいことに強いコンプレックスを持っているあきよも、それぞれの悩みは本人たちにとっては深刻なものでしょう。大人も読んでいるうちに自分が子どもの頃に感じていた悩みや感情を思い出し、子どもたちが目にしている毎日や世界がありありと感じられるような体験をするのではないでしょうか。中でも「しっかりする」というのは、いったいどういうことなのか? とまさやが考える場面では、小学生になったらしっかりしなさい、しっかりしなくちゃいけない、と言われるのは昔も今もずっと変わらないテーマなのだなあ、と思わせられました。

1970年の刊行以来、50年以上も読み継がれているこちらのお話は、『おしいれのぼうけん』『ロボット・カミイ』でおなじみの児童文学作家古田足日さんが残された名作です。小学1、2年生の子どもたちが抱える不安や悩みはどんなに時代が変わっても変わらない普遍的なものであること、しかし、きっかけさえあれば、短い間でぐんと成長するたくましさを秘めていること、まさやとあきよがお互いに関わりながら大きく成長していく様子に子どもは子ども同士の関わりの中で育つ、という真理を見たりなど、何度読んでも胸を打つものがたくさんあります。

子どもたちが1、2年生のうちにぜひ出会わせてあげたい作品です。
しかし長さは166ページとボリュームがありますので、1、2年生でひとりで読めるという子はなかなかいないでしょう。ハラハラする場面もたくさんありますので、大人がお話の案内人となって読んであげることをおすすめします。各章の表題も、「ぼく、おなか すいたあ」「子どもには、たいていのみちは、はじめてのみち」「しんせつなおじさんか? ゆうかいはんか?」など、とても魅力的。章ごとに毎日1章ずつ読んでいくというのもいいですね。子どもたちへの応援の気持ちをたくさん込めながら、ぜひご家庭や教室で、読んでみて下さいね。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

2024年7月8月児童書人気ランキング、第14位から20位はこちら

2024年の夏、 ベスト20以外で、夏の読書や読書感想文向けに人気のあった本はこちら。

2024年の課題図書ランキング【2024/6/7~8/31】

低学年の部より『ごめんね、でてこい』(総合ランキング第3位)

低学年の部より『さようなら プラスチック・ストロー』

さようなら プラスチック・ストロー

私たちが当たり前のように使っているストロー。冷たい飲み物を飲む時には欠かせない、とっても便利なものですよね。このストローが発明されたのは、約5千年以上も前のこと。古代シュメール人が大麦ビールを飲むのに葦を使ったというのがはじまりだそうです。

その後、世界のあちこちで、植物のくきが使われたり、先端にフィルターがついた銀か銅のチューブが使われたり。けれども植物でできていると、植物のカスが出たり、味が変わってしまうという問題があり、そこを解決するためにアメリカの発明家、マービン・ストーンが作ったのが紙のストローでした。しかしここでも、紙はぬれるともろいという問題が出てきて、それを解決するべく誕生したのが、プラスチックのストローだったのです。

ここまで読むと、なんてプラスチックのストローは優秀なのだろう。5千年もの長い歴史の中であらゆる工夫が凝らされてたどりついた、魔法の道具……というように感じてしまうのですが、本の中で「なにかの解決策が、あらたな問題の元になることもあるもので……。」と書かれている通り、今、海を汚す環境問題を引き起こしているのは、多くの方が知るところですよね。

この本は、タイトルと表紙から、環境問題をテーマにした作品だと多くの人がまず思うことでしょう。けれども読み始めると、プラスチックストローができるまでの大歴史物語になっていて、人間の歴史と文化と発明の変遷の面白さにとってもワクワクさせられます。
不便な点を改良して、より便利なものを生み出していく……。長く続く人間の営みと挑戦には感動すら覚えます。しかし便利であることのその先に起きていることが、現代の私たちに大きな問題として降りかかっています。それはきっとプラスチックの問題だけではないでしょう。

大きな歴史の流れの中で今私たちがどの段階にいるのかを意識するような一冊。私たちはこの先どんな一歩を次に繋げていくことができるのでしょうか。
第70回課題図書小学中学の部に選定されている本書ですが、子どもだけでなく大人も一緒に読んで考えたいことが詰まっています。

(秋山朋恵  絵本ナビ編集部)

中学年の部より『じゅげむの夏』(総合ランキング第5位)

第4位 『どうやってできるの? チョコレート』

低学年の部より『どうやってできるの? チョコレート』

どうやってできるの? チョコレート

私たちの身近なおやつ、みんな大好きチョコレート。普段何気なく口にしていますが、どんなふうに作られているかは、なかなか目にすることができません。こちらの絵本では、原料のカカオから板チョコレートができるまでが、美しい写真としかけ画面によって分かりやすく解説されています。その工程を順を追って見学していきましょう。

チョコレートは、南の暑い国で取れるカカオの実から作ります。ページいっぱいにカカオの実を実物大の写真が。中はどうなっているのでしょうか?しかけ部分をさらに開いてみると、カカオの実の中身が出現。中に種がいっぱい入っているのがわかります。

カリッとかわいたカカオ豆は、船に乗せられ、遠く日本まで運ばれてきました。いよいよ工場で、私たちが知っているチョコレートに変身します。すりつぶされ、滑らかになったチョコレートは、冷し固められて板チョコレートに。チョコレートになるまでに、カカオ豆が何度も何度も変身することがわかります。この絵本を読めば、きっと「チョコレートっておもしろい!」と感じるはずです。

ひさかたチャイルドの「しぜんにタッチ!」シリーズの1冊。身近な動・植物を美しい写真と分かりやすい文章で解説した人気シリーズです。ちょっと変わった切り口なのもいいですね。生き物や食べ物などジャンルは様々。いろんなテーマが楽しく学べるので、他の作品もぜひチェックしてくださいね。

(出合聡美  絵本ナビライター)

第5位 アザラシのアニュー

低学年の部より『アザラシのアニュー』

アザラシのアニュー

さむい冬のある日。地球の北のほうにある海の氷の上で、タテゴトアザラシのあかちゃんがうまれました。おかあさんはあかちゃんに、アニューとなまえをつけました。アニューは、おかあさんのおちちをのんですくすくそだちます。ある日、おかあさんがうみにでかけると……。

アラスカに滞在して制作をする絵本作家・あずみ虫が描く、野生動物たちの物語。小さな子どもから楽しめるストーリーで、動物への興味の入り口となる絵本です。アザラシのあかちゃんが一生懸命に成長する姿を、親しみやすいイラストで描きます。巻末には、アザラシの生態を解説するページも収録。

監修協力:村田浩一(よこはまズーラシア動物園園長)

https://www.ehonnavi.net/special.asp?n=5937 気になった作品があったら、まだ購入可能です!

いかがでしたか。

2023年のランキングとも比べてみると、ロングセラー作品でも大きく変動があったことが分かり、興味深いです。気になっていたのに読みそびれていた作品や、ランキングの中で新たに気になった作品があったら、ぜひ手にとってみてくださいね。

秋山朋恵(あきやま ともえ) 

絵本ナビ 副編集長・児童書主担当

書店の児童書仕入れ担当、小学校の図書室司書(8年)を経て、2013年より絵本情報サイト「絵本ナビ」に勤務。子どもたちが本に苦手意識を持たずに、本って楽しい!と感じられるように、子どもたち目線で本を選び、さまざまな切り口で紹介している。

編著書に「つぎ、なにをよむ?」シリーズ(全3冊)(偕成社)がある。

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
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