子どもと考えるSDGs|平和な世界のためにできること
世界では、これまで数え切れないほどの争いや暴力行為が起こりました。残念なことにそれは今でもなくなることはありません。
SDGs目標16【平和と公正をすべての人に】では、あらゆる争い事をなくし、その被害者となる人々を減らすことを課題としています。また、出生登録のされていない子どもたちの数も深刻化しており、そういった子どもたちの保護も課題に含まれています。
今回は、その中でも「平和な世の中のためにできること」について考えます。
【目標16.平和と公正をすべての人に】のターゲット
目標16では以下のようなターゲットが設定されています。
16.1 あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。
16.2 子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。
16.3 国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する。
16.4 2030 年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。
16.5 あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。16.6 あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。
16.7 あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。
16.8 グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。
16.9 2030 年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。
16.10 国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。
16.a 特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。
16.b 持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。
平和ってどんなこと?世界に目を向けて考えてみよう
古くは紀元前から、人々は争い続けています。私たちは歴史の授業で、あまりにも多くの戦争について学んできました。戦争により国が発展した部分もありますが、その裏では多くの命が失われ、たくさんの人が傷ついています。
日本では1945年8月15日に終戦を迎えてから、75年以上戦争は起きていません。第二次世界大戦での敗北を認め、無条件降伏をした翌年、日本国憲法において「戦争の放棄、戦力の不保持、国の交戦権の否認」が規定されたためです。
日本に住んでいると戦争やテロはどこか遠い存在のように思えるかもしれません。
しかし、世界では現在も内戦やテロ行為、クーデター、ヘイトクライム、ジェノサイド……。耳を塞ぎたくなるような残虐な行為が行われています。ニュースの中の出来事は実際に起こっていて、子どもから大人まで非常に苦しい環境に置かれているのです。
“戦争”の反対語は“平和”。SDGsで掲げているような「暴力がなく平和な世の中」が訪れるために、私たちはなにができるのでしょう。
戦争や暴力、テロが起きてしまう理由
領土拡大、資源の取り合い、強さを誇示するため、宗教論争、人種・民族差別、政治…など、さまざまな理由が複雑に絡み合い、争いが起こります。時には正義や大義のもと始まる争いもありますが、その先でどこかの誰かが傷ついている以上、決して正しい行いだとは言えないのではないでしょうか。
「なぜそんなひどいことが起こるの?」
争いや暴力行為の結果を見て、きっとほとんどの人がそう思ってきたことでしょう。これまで何度も辛い歴史を繰り返してきたのにも関わらず、争うことがなくならないのはなぜなのでしょうか。
人は争わないと生きていけないのか、そんな風に考えるのはあまりにも辛いですね。SDGsをきっかけに、一人一人が「平和とはなにか」「なぜ戦争が起きてきたのか」について、より一層考える必要がありそうです。
被害者となる子どもたち
セーブザチルドレンの発表によると、2020年には世界の子どもたちのうち約5分の1にあたる、4億1500万人が紛争地域に置かれているそうです。また、紛争による飢餓、医療サービスの欠如や生活基盤となるインフラの損壊により、毎年約10万人の乳児が犠牲となっています。
争いにより、子どもたちはさまざまな被害を受けます。
・負傷や死亡
・家族や住む場所を失い難民化
・人身売買を目的とした誘拐や性的被害
・兵士として徴用
・学びの場を奪われる
想像を絶するほどの悪夢の中に、4億人もの子どもたちがいることを考えると胸が痛んでしまいます。
このような子どもたちを一刻も早く、あらゆる暴力から守っていかなくてはいけません。
【参考】子どもに対する戦争を止める 2020:紛争下のジェンダーを考える|Save the Children
報告書『子どもに対する戦争を止める』を発表-紛争により毎年10万人の赤ちゃんが犠牲に|Save the Children
日本の悲しい歴史を忘れない
私たちが暮らす日本も、戦争の過去があります。東京大空襲や、広島・長崎への原子爆弾投下など、多くの一般市民が被害を受けました。毎年8月になると、追悼の意も込めてメディアでも戦争の話題があがりますが、年月が経つにつれフィクション化が進みかねません。
理由のひとつは戦時中に生きた人々の高齢化で、語り部が少なくなっているためです。ママやパパ世代では、学校の授業や修学旅行で、戦争経験者の話を聞いたことがある方もいるでしょう。
筆者も広島平和記念館で、語り部の話を伺いました。涙が止まらず何度も何度も考えさせられ、今も胸に深く刻まれています。実際に経験していなくても記憶を受け継いでゆくことの大切さを実感しました。
今を生きる子どもたちは、そういった生の声を聞く機会がほぼありません。しかし、忘れてはいけない過去を子どもたちに伝えていくことは、大人の使命とも言えるでしょう。
子どもたちがこれからも戦争とは無縁であるためにも、必要なことだと思います。
戦争と平和について考える絵本
「平和」や「戦争」をテーマにした絵本は国内・海外作品問わず、多く出版されています。その中から、“自分ごと”として考えるきっかけとなりそうな絵本をご紹介します。
私たちの生活にある身近な「平和」から考えよう
「平和」というのは日常の本当にさり気ない瞬間に存在しているのだと改めて思います。
おいしいごはんが食べられて、夜ぐっすり眠れる。
当たり前だと思っているのは幸せなことだけど、やっぱり本当は当たり前のことじゃない。
いやだという意見が言えたり、ごめんなさいとあやまること。
これだって小さな事に思えるかもしれないけど、実はこれができないと大変なことになる。
そして何より大切なのは・・・。
戦争の場面もいくつか登場します。でもこれは怖がらせるためではなく、こどもが自分達の意思で平和な世界というものをつくっていけるんだというメッセージも込められているようです。
作者は『あやちゃんのうまれたひ』や『ぼくのかわいくないいもうと』など、温かな目線で家族や子ども達を描き出している浜田桂子さん。
日本、中国、韓国三カ国の絵本作家とともに平和を訴える絵本シリーズの第一作として練られてきた作品ですが、読んでみればやっぱり子ども達への深い愛情を感じてしまいます。親子で読みながら、会話をしながら、平和について考えるきっかけになってくれればいいですよね。
「戦争はどうしたらなくなるのか」を考えさせられる一冊
「せかいじゅうの 人びとを しあわせにするため」に世界中を征服した、ある大きな国の大統領のおはなし。強者のゆがんだ論理を明るいユーモアで皮肉たっぷりに描いた寓話絵本。
どうして人間同士は争うの?
ちょうちょと ちょうちょは せんそうしない
きんぎょと きんぎょも せんそうしない
くじらと くじらは せんそうしない
すずめと かもめは せんそうしない
すみれと ひまわり せんそうしない
・・・
同じ種同士でも、たとえ種が違っても、にんげん以外の地球上の生きものはだれもせんそうしません。その中で、なぜにんげんだけが、にんげんの大人だけが、せんそうをやめられないのでしょうか。
日常の中で、子どもたちに戦争のこと、平和の大切さを伝えていくことはなかなか難しいことかもしれません。事情が複雑すぎていたり、身近に実際の体験者が少なくなっていたり、歴史上の出来事があまりにも残酷なために、どこから、どんなことばで伝えたら良いのか迷ってしまうことも多いのではないかと思います。
けれども本書を読むと、伝えるべきことは、ほんとうにシンプルなことなのだと気づかされます。最小限のことばで語られる詩人の谷川俊太郎さんのひとことひとことは、しっかりとした重さをもって読む人の心にゆっくりとしみこんできます。そのことばとともに、江頭路子さんが描く子どもたちののびやかで生き生きとした姿を見ていると、大人が絶対にまもっていかなければならないのは、ここに描かれているような子どもたちの何気ない日常と曇りのない笑顔なのだと強く感じるのです。
複雑で難しい言葉ばかりが行きかって混乱を呼んでいる今だからこそ、大切なことはシンプルなことだと忘れないためにしっかりと受け止めていきたい1冊です。
【目標16 平和と公正をすべての人に】親子でできること
目標16はとてもスケールの大きな課題なので、直接的に私たちができることは多くないでしょう。しかし、争いや暴力行為が起きている事実を知り、なぜ起きたのか、何ができるのかを考えることは「平和への第一歩」となるかもしれません。難しいテーマですが、親子で考えてみましょう。
子どもと「平和」について考える
2021年2月から軍事クーデターが始まり、悪化の一途を辿るミャンマー情勢。2ヶ月あまりで500人以上の市民が死亡し、その中には40人以上の小さな子どもたちも含まれます。
ニュースを見た筆者の小学一年生の息子は、非常に心を痛め考え込んでいました。耳を塞ぎたくなるような被害状況は、子どもにとってショックが大きいかもしれません。しかし、「なぜ?どうして?」という気持ちが芽生えていたので、争いや暴力行為について事例や原因などを話しながら、一緒に考えてみました。
息子と話していて、感じたことがあります。それは、戦争がなぜ起こるのか理解しづらいということです。子どもは日頃から「人を傷つけてはいけない」という教えられています。それなのに、なぜ大人同士が争うのか意味がわからないといった様子でした。
そこで、“自分ごと”として考えられるよう2冊の絵本の読み聞かせをしました。
『六にんの男たちーなぜ戦争をするのか?』『私のせいじゃない』を読んで
戦争をテーマにした絵本は数多く出版されていますが、史実ではない抽象的な内容の絵本で深掘りをしました。
平和を望みながらも、富をもとめて戦争への道を歩んでしまう人間の姿が、ユーモアとペーソスをこめて描かれています。大人も見て欲しい絵本。
『六にんの男たちーなぜ戦争をするのか?』はこんなお話。ある6人の男たちははじめ「暮らしを良くしたい」という向上心を持っていました。次第により多くのものを求め始め、最終的には戦争にまで発展してしまいます。
これを読むと、争いが起こる根本について考えさせられます。
「最初は良くなりたいと思っていただけなのに、どうしてこうなってしまったんだろう?」
「戦争にまで至ってしまった理由はなんだろう?」
そんな問いかけをしながら、「自分が良くなりたいからといって、人から奪ったり人を傷つけるのはいけないね」と話し合いました。
またちょっとした心配事や、ボタンの掛け違いが戦争の発端になることも描かれています。
一人の男の子が泣いている――始まりは知らない、みんながやったんだもの…言い訳が続く。責任について考えるスウェーデンの絵本。
『私のせいじゃない』では、子どもたちの世界にも潜む“暴力の種”について考えさせられます。
理由はわかりませんが教室でひとり泣いている子どもと、その周りを取り囲む子どもたち。なぜ泣いているのか、何があったのか問われ、皆それぞれ自分の主張を述べ、口を揃えて「わたしのせいじゃない」と言います。
「みんながやっていたから」
「私が始めたわけじゃないし」
「はじめから見ていないから知らない」
「あの子が普通と違うから悪い」
主張はさまざまですが、どれも誰かを傷つけていい理由にはなっていません。しかし、これって子どもの世界ではよく起こることですよね。
「だって、あの子もやっていたから、ぼくもやった。」
「わたしひとりだけ、違う!なんて言えない、怖いから。」
そんな言い訳を聞いたことがあるかもしれません。常に正しいことをするのは、とても難しいです。しかし、私のせいじゃなければ、何をしてもいいのでしょうか。
ほんの小さな“暴力の種”を咲かさないために
世界で起きている争いや暴力行為でも、「私のせいじゃない」と責任転嫁することも少なくありません。
社会問題となっているヘイトクライムも「黒人だから」という理由だけで、何の罪のない人達が暴行の的となりました。加害者はどこかで、「肌の色が違うのがいけない、自分のせいじゃない」と思っていたかもしれません。
「絵本に出てくる子ども達はどうしたらよかっただろう?」
そう息子に聞いてみると、「みんながそうしなくても、声をかけて助けてあげる。みんな違うのは当たり前だから」と答えました。
子どもだからこそまっすぐに、おかしいことを怒り、悲惨なことに泣き、当たり前のことに気づけるのでしょうか。大人たちの行動に恥ずかしい気持ちにもなります。
子どもたちが過ごす小さなコミュニティの中でも、「みんながやっていたから」そんな気持ちから“暴力の種”が咲いてしまうこともあります。
どんな時も自分を持ち、良いこと・悪いことの判別がつく強い心を育てていきたいと感じました。
ぜひ、“自分ごと”に置き換えられる絵本を使って、「平和への一歩」について考えてみてください。
もし私たちが戦場下に置かれることになったら?
遠い国で起きているように見える戦争。しかし、いつどんな形で私たちの身にふりかかるかはわかりません。
セーブザチルドレンでは、当たり前の平和な日常が一瞬にして戦場下の悪夢と変わる“もしも”の動画を公開しています。
ショッキングな映像ですが、“自分ごと”として考えるきっかけになります。
「争いのない世界」を目指して、ひとりひとりができること
今回は、SDGs目標16「平和と公正をすべてのひとに」の中から、“平和”にスポットをあてて考えました。
世界から争いがなくなるには、相当長い時間を要することでしょう。戦時下に苦しむ子どもたちが一人でも少なくなるように、解決策を考え続けなくてはなりません。
ミャンマーのクーデターをレポートする日本人が言っていた言葉があります。
「一人でも多くの人に事実を知ってもらい、関心を持ち続けて欲しい」
遠い国のことでも、自分には関係ないことでも、そこで起きている悲惨な出来事について知り、考えることが、今私たちにできることなんだと思います。
小さな頃から世界情勢に関心を持ち、親子で考え続け、小さなことでもできることをしたいですね。
秋音 ゆう
東京都在住。
3人の男の子(6歳と2歳と0歳)を育てるWEBライター。
「絵本」「幼児教育」「子どもの発達」「多様性」を得意とし、子育てメディアで執筆。
自身も絵本育児で育ち、母になってからは子どもたちと絵本のある時間を大切に過ごしている。
「生きる力の育み」をモットーに、国語講師の夫と幅広い視野で子育て・教育に奮闘中!
twitter:@akine_yuu6o6
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