赤ちゃん絵本のトレンドは研究室発の「エビデンス絵本」!?
子どもだけが読むなんてもったいない。大人も楽しい絵本の世界を、絵本トレンドライター・N田N昌さんが、独自の視点と「ゴイスー」な語り口でご紹介!
注目の新刊や作家さん、気になる絵本関連スポットなど、絵本のトレンド情報を大人に向けてお届けします。
赤ちゃんは何に喜ぶのか? 研究室から生まれた赤ちゃん絵本!
この時期、クリスマスプレゼントに絵本を買われる方、多いのではないでしょうか…。
絵本選びのなかでも、特に難しいのが「赤ちゃん」絵本。どんな絵本が喜んでもらえるのか見当もつかないという方、多いのではないでしょうか?
4、5歳だと当時の記憶も残っており、自分でもこんなことが楽しかったなぁとか想像できますが、赤ちゃん時代になると、……でございます。
以前、絵本の編集者の方とお話しした際も「赤ちゃん絵本ほど、難しいものはない」という話を聞いた覚えもございます。
たとえば、有名なロングセラー絵本『もこもこもこ』(文研出版)、どうして赤ちゃんが喜ぶのか、どこが面白いのか、理解できないという大人の方も多いのではないでしょうか……。
赤ちゃん絵本のロングセラー『もこ もこもこ』
そうしたなか、「赤ちゃんは何を喜ぶのか? 何に興味を持つのか?」という研究を重ね、それをもとに(エビデンスとして)、赤ちゃん絵本を出版するという動きが近年見られます。研究室発の“エビデンス絵本”と勝手に呼ばせていただいておりますが…。
そこで今回は、エビデンス絵本の火付け役となった大人気絵本から最新のエビデンス絵本まで、エビデンス絵本をご紹介させて頂ければと存じます。
エビデンス絵本の火付け役!
出版社と東京大学の研究室がタッグを組んだ「赤ちゃん学」絵本
私たちは、科学的な研究を通して赤ちゃんのための絵本を作る「あかちゃん学絵本プロジェクト」を立ち上げて進めてきました。
このプロジェクトのなかでいろいろな実験をしました。モイモイという言葉に対して、赤ちゃんがどんな形を思い描くのかを調べているときのことです。あるイラストが、あかちゃんの視線をくぎづけにして離しません。その注目度は、ほかの倍以上にもなります。
このイラストにはあかちゃんの視線を引きつける特別ななにかがあると考えた私たちは、ここから「もいもい」というキャラクターの絵本を作りました。この絵本をあかちゃんに見せるとビックリ! なんとそれは、泣く子も見つめる圧倒的な注目度のキャラクター絵本だったのです。
エビデンス絵本の火付け役となったのは、科学的な根拠や実験をベースに考えられた東京大学赤ちゃんラボ発(東京大学・開一夫研究室)の『もいもい』。現在、80万部突破の大人気シリーズでございます。
出版されたのは2017年7月。出版社と東京大学の研究室がタッグを組んでおよそ2年半、研究や実験を重ねて出来上がった絵本でございます。ちなみに表紙にも登場しているキャラクターは、何人かのイラストレーターさまのデザインを赤ちゃんに見せ、注視する時間を計測、そこで最もその時間が長かった市原淳さまのデザインが採用されたそうでございます。
ご存知の方、多いと思いますが、市原淳さまはイラストレーターでもあり、数々の人気絵本も手掛けていらっしゃいます。余談ですが、わたくしは市原さまの『とっています』(世界文化社)の大ファンでございます。エビデンス絵本ではございませんが、言葉の魅力を楽しめるナンセンス絵本でございます。
「あかちゃんが選んだあかちゃんのための絵本」シリーズ
赤ちゃんの大好きな「顔」を、赤ちゃんの見える絵、色で描いた絵本
そのヒットを受けて、エビデンスに基づいた赤ちゃん絵本が続々登場しております。
あかちゃんの発達順に構成された新感覚絵本
コントラストの強い白と黒の目、口の配置で、生まれてすぐからあかちゃんは顔を認識します。
あかちゃんの発達順に構成し、あかちゃんとお母さんの反応を実験して作られた、新感覚の絵本。
こちらは、あかちゃんとお母さんの反応を実験して作られた新感覚の絵本、その名も『あかちゃん研究からうまれた絵本 かお かお ばあ』でございます。テキストを担当された山口真美さまは、中央大学文学部心理学研究室教授で日本赤ちゃん学会事務局長。顔認知学と乳児発達心理学の専門家でございます。さらに、実験監修を担当された金沢創さまは日本女子大学人間社会学部心理学科教授でございます。
最新科学に基づいた発語をうながす赤ちゃん絵本
おしゃべりを促すしかけが満載
赤ちゃんのおしゃべりを楽しく促すためのしかけが満載の絵本。
はじめてのパパ・ママへの読み聞かせアドバイスも充実した1冊です。
こちらは、最新科学に基づいた発語をうながす赤ちゃん絵本『しかけでおしゃべり! あかちゃんことばえほん』でございます。
絵は市原淳さま。監修を担当されたのは、皆川泰代さま。慶應義塾大学文学部教授で慶應義塾大学赤ちゃんラボの主宰者でございます。
赤ちゃんが言いやすい「気持ちのオノマトペ」
そして、最後にご紹介するのが今年9月に出版、早くも重版になっておりますオノマトペが身につく参加型絵本『おかおをポン!』(NTT印刷)でございます。こちらの監修を担当しているのが、なんと!「NTTコミュニケーション科学基礎研究所」。「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤の構築に向けて、情報科学と人間科学の両面からこの問題に取り組んでいるNTTグループの研究所でございます。
子どもがどのような感情語(オノマトペ)をどのくらいの頻度で使っているのか、感情語をよく使う子は社会生活においてどのような行動をとるのかを調査。感情語をよく使う子どもほど、相手の気持ちを考えて行動ができることなどが判明。こうした研究をもとに、子どもが「感情語」に親しめる内容を構想したとのことでございます。
今回、エビデンス絵本をご紹介いたしました。内容を紹介するのが難しいカテゴリの絵本(ストーリーがございません)ですが、
ぜひ一度、ご自身で手に取ってご体感いただき、「最近、こんな赤ちゃん絵本も出ているんだね」と感じて頂ければ本望でございます。
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
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