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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

絵本で育む「プレゼン力」?!

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

これからの時代の要、「プレゼン力」!

連載第8回のテーマは、「プレゼン力(表現力)」。

今の子どもたちが大きくなった頃には、今よりさらに住んでいるところも言語も年齢も、多様なことを越えて交流していく時代になるでしょう。仕事でも生活でも同じ課題を世界中で議論していく時代となったとき、さまざまなボーダーを乗り越えて自分の考えを相手に伝える“プレゼン力(表現力)”が必要になってきます。

プレゼン力とはシンプルに言えば、伝えたいことを相手にわかってもらう、ということ。そこに必要なやり取りを、絵本を読んで練習してみよう!というのが今回のテーマです。絵本は、文章は最小限で絵が物語ってくれるので、読み手によってさまざまな受け取り方ができます。ですので、親子や友だちで内容を語り合うのにうってつけなのです。

連載第1回の「話す力」では、まず語彙を多くしたり話すことに慣れるような絵本をご紹介しましたが、今回は一歩進んで、自分の考えを自分の言葉で表現して説明できる力が育めるような絵本をご紹介したいと思います。

場面を説明できるかな?

「どうして?」「だって…」を親子で読み合って話してみよう!

だって・・・

「どうしておふろがきらいなの?」「だって…」「どうしてテレビばっかりみるの?」「だって…」スパイスのきいた「どうして?」「だって…」のくり返しが楽しいおしゃれなことばあそび絵本。親子で、読み聞かせで読み合うのに最適。

絵本の中には「どうしておふろがきらいなの!」「どうしてテレビばっかりみるの!」などなど、子どもたちがよく叱られるいろいろなシチュエーションが出てきます。それに対して子どもが「だって……」と言い訳しようとするのですが、ページをめくってみると、たしかに「これではできないよね!」と笑って納得してしまう理由ばかり。

絵で状況は分かるものの、文章は「だって……」としか書いてありません。ですので、ゲラゲラ笑った後「なんでおふろに入れないのかねぇ?」などと質問してみてください。ふだん、自分から積極的にはお話をしない子でも、ありありと面白い理由が描かれた絵を目の前にしたら「だって、こんな〇〇がお風呂に入っていたら当たり前でしょ!」と生き生きとお話ししてくれるはず。そこからさらに、「えーっ! もしこんなお風呂に入ったらいったい何が起こると思う?」など、どんどん会話を広げてみてください。子どもたちは、いっしょうけんめい自分の言葉で説明してくれると思います。

子どもたちからたくさんの言葉を引き出してくれる楽しい絵本です。

質問に、自分の言葉で答えられるかな?

聞いたり、答えたりしてみよう。

しつもんブック100

かぞく、ゆうじん、はじめてあったひと、みんなにきいてみたい100のしつもん。おとなもこどももあそべる、コミュニケーションブック。

これは、絵本というよりもまさに“しつもん”ブック。最初に「使い方は自由」と書いてあり、100の様々な質問がのっています。「たんじょうびはいつ?」というごく普通の質問から「おもしろい おにぎりが はつばいされました。なにが はいっていると おもう?」という一風変わった質問まで、いろいろなタイプの面白い質問があります。まずは、子どものタイプや年齢で質問を選んでみてください。4歳より小さい年齢の子は、やはりちょっと抽象的な質問ですと「んー、わかんない」となってしまうかもしれません。「わかんない」という答えが続くよりは、「おかしで いちばん なにが すき?」というような、その子が興味を持っている質問から聞いていくのがよいかもしれません。

子どもと代わりばんこに質問をしてもよいし、子どもたちの一人読みでも楽しめます。私も一人でじっくりと読みましたが、大人にも「あ、自分はこんなことを考えていたんだ」と気づかせてくれる本です。

質問とは、「相手のことを知りたい」と思うことから発せられる言葉です。そして、答える方も「自分のことを、こう知ってもらいたい」と考えて答えます。そのやり取りの中から相手や自分への新しい発見や考えが出てきて、さらに深いコミュニケーションが生まれます。これからの時代、このコミュニケーションの基本となるやり取りが上手くできることは、非常に大事な力となるはずです。この本は、そうした意味でも「自分の考えを人に伝える」ことの大切さを教えてくれます。

この本は作者のtuperatuperaさん曰く「本というアナログなコミュニケーションツールを通じて、人と人とが繋がってほしいという想いから生まれた」そうです(あとがきより)。tuperatuperaさんは、そのほかにも『かおノート』(コクヨ)や『かぜビューン』(学研)など、読者が参加して楽しめる作品を多く作っています。我が家にある『キューブスゴロク』(コクヨ)も、すごろくの形自体を作れる画期的な内容の作品。みんなで自由に作ってコミュニケーションできる新時代のすごろくで、おすすめです。

「なぜそう思ったか」いえるかな?

どうして、りんごだと思う?

りんごです

幼児が、りんごのいろいろな状態を楽しく知ることができる絵本。姉妹書『いちごです』『バナナです』。

まるごとのりんご、ちょっとかじったりんご、りんごの種、さまざまなりんごの絵が出てきます。でも文章はすべて「りんごです」。ぜんぶちがう絵なのに、「りんごです」とつづく内容に、子どもたちが「またかー!」と大笑いし始めます。

シンプルですが考え始めると非常に奥深い絵本なんです。どの絵も「りんご」。でも、ぜんぶちがう姿です。ほんとうに全部同じく「りんご」って言っていいのかしら? 読めば読むほど哲学的な問いになってきます。そこに答えはありません。学校のテストや問題集にはきちんと「答え」があるものですが、実際の生活の中では答えのないことの方が多いです。答えのない世界で「なぜ、これが〇〇だといえるのか」、自分で理由を言えることはとても素晴らしい力です。

「これはなんでりんごって言えるのかしら?」親子でああでもないこうでもないと、やり取りを楽しんでみてください。読み聞かせている間に疑問のタネを落としてくれて、どんどん考えを伸ばしてくれる不思議で素敵な絵本です。

場所や状況、教えられるかな?

絵探ししながら、場所の説明をしてみよう

とこちゃんはどこ

赤いぼうしのとこちゃんは、とても元気な男の子。親が目を離すと、市場、動物園、海水浴場、お祭り、どこへいってもすぐいなくなってしまいます。子どもの大好きな絵さがしの絵本です。

さがし絵絵本のロングセラーです。元気すぎる男の子“とこちゃん”を探しながら子どもたちの説明力をたくさん引き出してくれます。日常の物語に沿ってちょこまかととこちゃんが動き回るので、パパママも子どもたちも、とこちゃんがどんな状況かわかりやすくイメージしながら探すことができます。

「さがす」ことに対して子どもたちがゲームや競争感覚で楽しんでくれることもポイントです。さがし絵は、大人よりも子どもたちが見つけるのが上手ですよね。あの「瞬時に見つける」能力はなにからくるのかしら?視力?と不思議に思いますが、子どもたちが先に見つけてしまえば、そこからはパパママもどんどん質問をするチャンスです。ちょっと演技力も要しますが、「まだ、見つけられないよー」「どのあたりにいるの?」「だれのとなり?」「なにしているようす?」などなど、たくさん質問して説明してもらいましょう。「相手にわかるよう説明する」ということも、プレゼンをしていくときにはとっても大事な要素の一つ。さがし絵絵本をいっしょにさがすことで、自然にそうしたやり取りの経験を培うことができますよ。

さがし絵絵本はたくさんの種類があるので、その子が興味を持っている世界のさがし絵絵本で一緒に遊んでみてください。

「比較」で説明力アップ!

自分が考えていることをプレゼンするためには、相手にわかりやすく説明する方法も学ばなくてはいけません。そんな時にとっても役立つのが、こんな図鑑です。

くらべて楽しむ図鑑

小学館の図鑑NEO+ぷらす くらべる図鑑

くらべて実感をプラス、考える力が育ちます。

くらべれば、ひと目でわかる!
くらべて初めて、違いがわかる!

いろいろなもののサイズ、能力、特徴をくらべる図鑑です。
数字だけではなく、大迫力のビジュアルでくらべる面白さ!
生き物、乗り物、世界と日本の違い……。
50を超える「くらべるテーマ」は、理科だけではなく、社会科にも及びます。

大きさの説明を例にしてみると、アリはとっても小さいですが、ノミはもっと小さくプランクトンはさらに小さいです。具体的に伝えるためには、「〇〇より大きく〇〇より小さい」ということを伝えなければいけません。

この『くらべる図鑑』では、人間を基本にいろいろなものをくらべたり視点を変えてくらべたりすることで、漠然と「クジラって大きいんだよなあ」と思っていたことが、何よりどのくらい大きいのか実感として伝えてくれます。わかりやすく説明するためには、「おおきいちいさい」「はやいおそい」など、相手を形容する言葉を使ってどう具体的に説明すればいいのか、この図鑑をいっしょに見ながら「この動物はどのくらい大きいのか」「この乗り物はどのくらい速いのか」、話し合ってみましょう。

また、「ながいみじかい」「かるいおもい」など、物事を形容する言葉のイメージがつかみづらい小さな子向けには、『かわる かわる おそとでかわる』(オームラトモコ・作 教育画劇)もおすすめです。「ひろいせまい」「あついつめたい」など、さまざまな形容する言葉がヴィジュアル化されています。まさに「言葉の意味が絵でわかる」絵本です。幼児教育の現場でも「非常にわかりやすく伝えられた」と評判となった絵本です。

さいごに

「プレゼン力」は、昨今いろいろなところで取り上げられていますよね。教育現場でも「自分の考えをまわりの人々に理解してもらう能力=表現力」が非常に重要視されています。

“プレゼン”というと、ちょっと難しく聞こえてしまいますが、「自分の気持ちや考えを相手に説明する」ことは、子どもにとっても大切なことですよね。お友だち同士でケンカが始まっても、泣いてばかり怒ってばかりでは解決しません。なんとか自分の気持ちを相手に伝えなければいけません。

我が家の次男、ただいま4歳の息子はおしゃべりがあまりうまくありません。「なにがほしい」「なにが食べたい」というようなことは普通に言えても、「今日なにがあって、それをどう思ったか?」というような「どう思う?どう感じる?」ということはなかなか言えず、「んー、わかんない」となってしまいます。上の子が非常によくしゃべる子なので、下の子の発言をうばうこともよくあります(二番目あるあるなようです)。やっぱりお話ししてもらう機会が多い方が良いかなと、最近は上記のような対話できる絵本でいろいろ話し合っています。『とこちゃんはどこ?』などの絵本を前にすると、「とこちゃんはここだよ!」など“伝えたい!”という気持ちが高まるようで、いっしょうけんめい説明しようとしてくれます。まだまだ小さなうちは、お友だち同士のやり取りでは感情のコントロールなども難しいですが、「伝えるって楽しい」と感じてくれるとうれしいなと思っています。

プレゼン力の土台は、「伝えることの喜び」だと思います。伝わることで人との繋がりが生まれる、それがさらにうれしい、そういう経験が多くできるよう、絵本を通じてその力をどんどん養っていってほしいと思います。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。6歳と3歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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