読むしか! イマドキ「シカ絵本」
絵本では、人間はもちろん、動かない物体から食べ物まで、様々なものが登場キャラクターになりますが、やはり主人公としては動物が多いような気がいたします。なかでも、ゾウ、ワニ、ヘビ、リス、タコ、クマ、オオカミ、身体的・性格的に特徴のあるものが多いような気がいたします。そして最近は、猫ブームを背景に、猫が主人公のものが特に多いようでございます。
そうしたなか、今回ご紹介しますのが、シカが主人公のいわゆる「シカ絵本」でございます。「シカの絵本ってあったっけ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、シカが主人公のロングセラー絵本って意外にないような気がいたします。というか、シカが主人公の絵本自体が、ほかの動物と比べて少ないのでございます。そんな希少なシカ絵本が近年、なぜか立て続けに出版されております。しかも、どれもナンセンスで人気の絵本作家さまの絵本となれば、ナンセンス絵本マニアのわたくしとしては紹介せずにはいられないのでございます。
読書の秋に。親子で読みたいナンセンス「シカ絵本」
まずは、今年8月に出版さればかりの絵本でございます。作者はキューライスさま。以前、この連載で「ママも夢中になっちゃう」と特集させてもらっております。ちなみに今、絵本雑誌「月刊MOE」の最新号(10月号)でも大特集されております、話題の人気作家さまでございます。
内容はタイトルそのままでございます。ダジャレでございます。シカしかいないシチュエーション(舞台)が続々登場いたします。正確にはシカ以外もこっそり登場しております。それを見つけるのも楽しいかと……。絵本の醍醐味でございます。
とにかく、たくさんのシカが登場しております。少なくとも100頭以上は登場しております。(キューライスさまもブログで「これまで出したすべての絵本の中で一番描くのがたいへんでした」と語っていらっしゃいます)。場面によってはロボットのシカやちょっと変わったシカも登場しております。
お子さまとページをめくりながら、「このシカ、◯◯じゃない」、「このページには何匹いるかな?」、「このシカ、かわいくない?」「このシカ、私、好き!」と楽しめる絵本でございます。「ウォーリーをさがせ!」的な楽しみ方のできる絵本でございます。ただし、作者はキューライスさまでございますから、ただの「探し絵本」ではございません。大人も「クスッ」とくるシュールな笑いもお楽しみいただけます。是非、ユニークで今風なキューライス版「探し絵本」、親子で楽しんでいただければと存じます。
出版社: 白泉社
こちらは去年10月、出版された『シカものがたり』(絵本館)でございます。なんと、詩吟風絵本でございます。落語絵本、歌舞伎絵本、俳句絵本はございましたが、“詩吟”の絵本は日本初ではないかと……。
詩吟とは、日本の伝統芸能のひとつで、その名の通り、詩を吟じる(詩を歌う)ことを言います。簡単に言うと詩に節をつけて歌うこと、今風に言えば“和風ラップ”でございます(個人的見解でございます)。
なぜ、そんな詩吟を絵本にしようと思ったのか……
出版社の絵本館のHPにその経緯が掲載されておりました。この絵本のテキストを担当されている絵本作家で、数々のダジャレ(ナンセンス)絵本を書かれている人気絵本作家のおおなり修司さまが、人気絵本作家の飯野和好さまが読み聞かせライブでカンカラ三線を弾きながら股旅姿で読み語る姿をみて、「浪曲風の他に何か考えられないかな?」「そうだ! 詩吟で行こう!」と思ったのがきっかけだそうです。そして、出版社の担当者と一緒に飯野さまのところに、依頼に伺ったところ、飯野さまが「もう、描くしか…」と、このコンビで詩吟絵本を作ることになったそうでございます。
もちろん、おおなりさまでございます。ただの詩吟ではございません。「それからシカ〜 もりのおくへおくへと ふとりゆく〜 シカはひとこと〜 さみしか〜」、「それからシカ〜 ・・・ おそろしか〜」、「いさましか~」、「いとおしか〜」、「うれしか〜」、…。「シカ」ダジャレ、連発でございます。声に出して&歌って楽しい絵本でございます。そして、そのユニークな詩吟に、飯野和好さまの絵がゴイスーにマッチしているのでございます。
ちなみに、このコンビの絵本は今回が初めてではございません。2019年4月に、ラップ絵本『DJ YOYO』(絵本館)を出されております。こちらも、「YOYO ! もうおきろYO!」「はやくおきないと、ちこくするYO!」「そうやって、いつもねすごすんだYO!」と、親子で歌って嬉しい、声に出して楽しめる絵本でございます。第二弾、『DJ YOYO アゲイン』(絵本館)も今年2月に出ております。是非、親子で歌って楽しんでいただければと存じます。
「DJ YOYO」
最後にご紹介するのがこちら、『しかしか』(小学館)でございます。こちらは「シカ歯科」、シカの歯医者さんが「やるしかない」、「しかたがない」、しかしか言いながら、動物たちの歯を治療する物語でございます。もちろん、タイトルだけでなく、お話の中にもダジャレが続々登場いたします。それもそのはず、テキストを担当されているのは、ほのぼのナンセンスで有名な人気絵本作家の山田マチさまでございます。
ところが、こちら!ただのナンセンス絵本ではございません。リスの歯は使わないとどんどん伸びていくことや、鳥に歯がないことなど、お話の中でいろいろな動物たちの歯トリビアが紹介されております。そう、科学絵本でもあるのでございます。ダジャレを楽しみながら、歯の勉強や協力することの大切さまで学べる絵本になっております。
もう、読む「しか」ございません。……おあとがよろしいようで…。
楽しいシカ絵本で読書の秋、絵本の秋を親子でお楽しみくださいませ。
N田N昌
絵本トレンドライター・放送作家・絵本専門士
絵本の最新情報を発信&大人絵本文化、絵本プレゼント文化の普及活動に日々努めております。
(画像は、イラストレーター・作家の網代幸介さんによる著者肖像画)
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