読み比べたい! “木と少年”を描いた絵本 3選
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今回、“木と少年”の絵本について特集しようと思ったきっかけになったのが、2024年12月に出版された絵本『ともだちの木』(スイッチ・パブリッシング)でございます。
世界がたいせつにするべき物語
みなさま、覚えていらっしゃいますでしょうか。2023年、第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を役所広司さまが受賞された映画『PERFECT DAYS』。役所さまがトイレの清掃員、平山を演じた作品でございます。この『ともだちの木』は、この映画のモチーフにもなっている1本の木と少年の物語でございます。
映画『PERFECT DAYS』から生まれた 世界がたいせつにするべき物語
ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが贈る
映画『PERFECT DAYS』から生まれた
世界がたいせつにするべき物語
2023年12月に公開され世界的ヒットとなったドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースによる映画『PERFECT DAYS』。そのモチーフになった一本の木と少年の物語が、一冊の絵本に。
本作は気鋭のクリエイターたちが集結して制作。文は同映画でヴェンダースと共同脚本を手がけたクリエイティブ・ディレクターで小説家の高崎卓馬。絵はサントリー天然水のCMで注目されたカナダのアニメーター、ウェンディー・ティルビー & アマンダ・フォービスが手がけた。
木の言葉は翻訳も要らない
ただひたすら 耳をすませばいい
目を閉じれば 理解できる
——ヴィム・ヴェンダース
絵本の原案も、映画『PERFECT DAYS』の監督・脚本を担当したヴィム・ヴェンダース監督。テキストを担当しているのも、映画の共同脚本を担当した高崎卓馬さまでございます。ちなみに、映画の中にも「ともだちの木」が登場しております。主人公の平山が、姪のニコに木の写真を撮って見せるシーンで、ニコが「その木は、おじさんの友達?」と聞き、平山が「この木はともだちの木だ」と返事をおります。
「少年と木が友達」という設定は絵本としては珍しくはございません。ところが、こちらは実話なのでございます。共同脚本を担当していた高崎さまがベルリンにヴェンダース監督を訪ねた際、監督は一本の木を前に「これが僕のともだちの木」だと言って紹介してくれたのだそうです。監督にとって、「ともだちの木」は、人間の友達と同じレベルで実在する「友達」なのでございます。本当にともだちの木(木の友達)を持っているのでございます。

お話の内容は、男の子となんでも打ち明けることのできる木との物語でございます。「ともだちの木」を持つことで、ひとり思い悩むことが減ったり、優しい気持ちになれるのではないかと感じさせてくれる絵本でございます。自分の想いを素直に語れる相手がいることの大切さを改めて考えさせられるお話でございます。

絵本のなかでも「みんなにも ともだちの きが いたらいいのに」というセリフも出てまいりますが、今年の夏休みの宿題には、是非とも「自分のともだちの木を見つけましょう!」という課題を加えて頂けたらと存じます。
前述の『ともだちの木』を読んで「あれ?」と思った絵本があります。アプローチは全く違うのですが、ひょっとしてこの絵本も同じことを伝えたかったのかなと…。その本というのが、『きは なんにも いわないの』(復刊ドットコム)でございます。
時に厳しく、大きく包み込むような愛
絵本評論家、広松由希子氏推薦!Eテレ「てれび絵本」でも紹介された「父子名作絵本」が、ついに復刊!決してお母さんには出来ない、“お父さんならでは”の子どもとのふれあいが素敵。お父さん、ぜひお子様に読み聞かせしてあげてください!絵本作家として数々の名作を生み出している片山健。その美しく力強い絵は、子どもの心をつかんで離しません。そんな片山が、“父と子のふれあい”を描いたのが本作。時に厳しく、それでいて大きく包み込むような愛が感じられる作品です。絵本作家・評論家の広松由希子氏が「ぜひ復刊を!」と熱望した本作。Eテレ「てれび絵本」でも佐野史郎さんの朗読で紹介されました。お父さんとお子さんが、ぜひ一緒に読んでほしい1冊です。
人気絵本作家、片山健さまの名作でございます。こちらも、男の子が木に話しかける設定(物語)のお話でございます。ただ、こちらの木はまったく返事をしてくれません。
どんな内容かというと、主人公の男の子が「お父さんに、木になって」とお願いして、お父さんが木になるというストーリー。お願いされた後、お父さんは木の姿になっています。

男の子は木に登ったり、木に話しかけたりしますが、木は何も答えません。ページには(きは なんにもいわないの。)とテキストがあるだけで、話しかけても、木(父)は、返事をしません。
最後に、男の子が木から降りると木はお父さんの姿にもどります。そして、男の子がお父さんに「どうして ずうっと だまっていたの」と聞くと、「きは なんにもいわなの」と答えます。言葉は無くても気持ちは繋がっている、いつでも、ちゃんと聞いているよ、見ているよと……。

父と子のふれあいを描いた名作だと当時は理解しておりました。しかし、『ともだちの木』を読んだ後では、読んだ感想、受け止め方が変わったのでございます。たとえ、言葉にして答えてくれなくても、自分でそういう存在(木)を持つことが大切なのでは、そういう存在があると思えることが大切なのではないかと…。
小説、映画などに比べ、読者が想像する余白が多い、解釈の幅が広いのが絵本の面白いところ、醍醐味でもございます。今回のように読んだタイミングによっても、解釈が変わってまいります。
騙されたと思って、この2冊を読み比べて頂きたいのでございます。できれば、『きは なんにも いわないの』→『ともだちの木』の順で読んで頂けたら面白いかと…。
そして、もう一冊。こちらはご存じの方、多いかと存じます。村上春樹さまが翻訳をした絵本としても有名、ロングセラー絵本の『おおきな木』(あすなろ書房)でございます。
何度でも読み返したい、シルヴァスタインのロングセラー絵本
こちらも少年と木の物語でございます。こちらの少年は物語の中で成長し最後は老人にまでなりますが…。こちらの木は、『きは なんにも いわないの』の木とは対照的に、なんにでも答えてくれる、叶えてくれる「木」でございます。見返りを求めない無償の愛を描いたお話でございます。親の立場、子どもの立場、それぞれで違った見方、感じ方ができる絵本ではないかと。こちらも、読んだタイミング(年齢)によって感じ方が変わってくる絵本の代表格ではないかと存じます。

なにもしゃべらない木を題材に、それぞれ違った視点で描かれた絵本を3冊ご紹介させて頂きました。三者三様の絵本、是非、読み比べてみて頂けたらと存じます。

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