絵本ナビスタイル トップ  >  絵本・本・よみきかせ   >   子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜   >   【絵本でわかる非認知能力②】「バムケロ」シリーズのバムをお手本に!子どもが伸びる親に必要なファシリテーター力
子どもの視点でストン!とわかる絵本 〜てらしま家の絵本棚から〜

【絵本でわかる非認知能力②】「バムケロ」シリーズのバムをお手本に!子どもが伸びる親に必要なファシリテーター力

絵本研究家のてらしまちはるさんは、子ども時代に自宅の「絵本棚」でたくさんの絵本に出会いました。その数、なんと400冊! 「子どもが絵本を読む目線は、大人の思い込みとはちょっと違う」そうですよ。

 

いま話題の、非認知能力。大切だけど、ちょっとわかりにくいこの力を、本連載では「絵本でわかる非認知能力」シリーズと題して、絵本をつかって読み解きます。非認知能力についての詳細は、シリーズ初回記事をご覧ください。

先日、たまたま「バムとケロ」シリーズを読みかえしていました。ご存知、あの大人気絵本シリーズです。わかっちゃいるけど、やっぱりあらためて、いい作品ですよね……!

ユーモラスで、あったかくて、みんなが自然体で。それに、細かいところまで遊び心にあふれていて。子どものツボをわかってるな〜という感じ。

そんな「バムとケロ」シリーズは、実は、非認知能力の視点からも大切なあることを示してくれているんですよ。

「ファシリテーターのような姿勢」が、不可欠

大切なあることとは「まわりの大人がファシリテーターのような姿勢を見せていること」です。ファシリテーターってなに? と思われた方も多いかもしれませんね。ファシリテーターというのは、ワークショップで用いられる言葉で、参加者に寄り添いながら場を円滑に回す役割の人をいいます。

いま、さまざまなワークショップが、さまざまな場所で開催されていますよね。子育て関連だと、親子の工作ワークショップとか、自然観察ワークショップなんかを思いつきます。私は絵本のワークショップを研究するなかで、1000件以上の実例を見てきましたが、絵本方面でもやっぱり、バラエティに富んだ取り組みが方々で展開されています。

ファシリテーターは、そんなワークショップという人の集まりのなかにいる人です。でも、ものを教える「先生」ではないし、かといって、教わる側の「生徒」でもありません。スタッフではあるんだけれど、参加者との距離はぐっと近く、つねにみんなを見守りながら、一緒に話したり、笑ったり、説明したり、フォローしたり、発見したり−−。その場で起こる色々を、参加する人たちと同じ目線でわかちあう役回りですね。似ている存在をしいて挙げるなら、学童保育の指導員さんが近い気がします。読者のなかには、過去に参加したワークショップを思い浮かべて「ああ、なにかと手伝ってくれたあの人のことね」とピンときた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

参加者に寄り添うファシリテーターのイメージ(真ん中の成人女性)。ひと口にファシリテーターといっても位置付けはワークショップによりさまざまで、上で書いた枠組みにぴったりあてはまらない役割も多くあります

「ファシリテーターのような姿勢」とは、そんな彼らがまわりの参加者に示す寄り添いの姿勢を、家庭で、大人が子どもに示すことを指しています。子どもの非認知能力を伸ばそうとするとき、まわりの大人のこの姿勢は、理想的です。なぜでしょうか? それはこの姿勢を見せることが、子どもたちが安全の保たれた環境のもとで、興味あることにチャレンジするための土壌になるからです。

もっと具体的にイメージするなら、家庭内で「子どもと大人が同じ方向を向いて、いま起こっていることに一喜一憂しながら、個としての相手も尊重している」状態が、自然と保たれていることだといえます。……説明がしゃちほこばっていて、わかりづらいかもしれませんね。そこで、「バムとケロ」シリーズです。実は、バムって、この理想をまるっと体現している存在なんですよ。

バムって、ファシリテーター姿勢のお手本だ

シリーズ1冊目の『バムとケロのにちようび』を見てみましょう。お話のなかでは、せっかくの日曜日なのに、雨です。外に出られないから、バムは家のなかで本を読むことにします。でもその前に、一緒に住むケロちゃんがよごした部屋を片付けて、片付けたと思ったらまたケロちゃんがよごすから、もう一度きれいにして、お風呂に入って−−。「本を読む」というイベントに、準備を整えて臨もうとするバムと、奔放なケロちゃんとの行動。両者が拮抗したり融合したりしながら、ストーリーは進みます。

バムとケロのにちようび

雨の日曜日。サッカーもすなあそびもできない。そんな日には,ちらかったへやをかたづけて,おかしを用意して,それから本を読もうと……。

ここでバムの動きを、非認知能力に必要な「ファシリテーターのような姿勢」の視点から、クローズアップしてみましょう。まず注目したいのは、部屋の片付けが終わりかけたところに、どろんこびちゃびちゃのケロちゃんが登場した場面です。バムはこのとき、びっくりしてケロちゃんの行動を収束させながらも、一緒にお風呂に入ることへと頭を切り替えて行動します。頭ごなしに叱るのではなく、別の提案によって回避し、流れを変えるのは、場慣れしたファシリテーターによく見られるやり方です。

おやつを作る場面では、ドーナツの型を抜きながら、かたわらのケロちゃんを見ています。この行動も、ファシリテーター的です。自分も遊びに関わりながら、相手の状況をいつもよく把握しているんですね。ケロちゃんになにか助けが必要になったら、いつでも手を差し伸べる用意があります。

屋根裏部屋の場面も、ファシリテーター的です。バムは屋根裏でやっかいごとに直面して、「きゃ〜っ!」といったんは逃げ帰りますが、そのあとケロちゃんとともに立ち向かっていきますね。バムが「怖い」という自分の気持ちの動きをよく感じ取りながら、自分以外とのやりとりをつづけているのが、いいファシリテーションだなと思います。ファシリテーターであることって、自分の感情にフタをすることじゃないんですね。自分の感情までうまく取り入れながら、相手や場にはたらきかけられることなんだと思います。

まだ読んでいない方にはネタバレになってしまいそうなので、次で最後にしておきましょう。バムに見られるファシリテーターの要素として、もう一つ、大事なポイントがあります。それは、どの行動も「ケロちゃんと一緒に日曜日を楽しむ」のを目指していることです。バムは、大きなこの視点をもっているから、「本を読む」というゴールが達成されるかどうかにかかわらず、ゆったりと自然に構えていられるのでしょうね。

でもバムって、親御さんの姿かもしれない

子どもの非認知能力を養うのに欠かせない、ファシリテーターのような姿勢。バムのあり方は、まさにそうだといえます。

だけどこれ、わざわざこうして言わなくたって、お子さんのいる方ならいつもやっていることだと思うんです。バムのあり方は、子どもをもつ今の大人たちの毎日に、かなり似ているんじゃないでしょうか。旧来的な子育て観、つまり「理由も聞かずに子どもを頭ごなしに叱る」とか「大人は子どもの上に立つ」のようなやり方から脱した、現代的な親たちのふるまいには、多分にファシリテーター的要素が含まれていると私は考えます。

親と子、という関係性では、もちろん四六時中こんなふうにいられるわけではないですが、この姿勢が子どもたちとの時間のなかでどのくらい持続しているか、そのバランスを意識してみることは、非認知能力というトピックにおいて有効でしょう。

失敗をくりかえして、目指している

本シリーズの初回で、「子どもの非認知能力を伸ばすには、没頭して遊ぶことがなにより大切」とお伝えしました。今回見てきた「ファシリテーターのような姿勢」は、子どもたちがわれを忘れて遊ぶのに欠かせない、パワフルな土台になります。また、非認知能力の重要トピックをこれからの続回でいくつも挙げていく予定ですが、それらを養うにも、やはりこの姿勢がネックになってきます。

私自身は、研究、実践、制作といった動きのなかで子どもに接してきましたが、さて、自分が文句なくファシリテーター的かと問われたら「いまだに修行中です」と答えるでしょう。15年以上もこんな環境にいますが、まだまだ、失敗を重ねながら日々改善しています。だからバムには、羨望のまなざしですね(笑)。

研究や実践のシーンでは、ワークショップを実際に開いて、私自身がファシリテーターをすることもよくあります。学び始めのころ、未熟な私はファシリテーター役として参加者に対しながら、どこかで相手に「こういう筋道をたどってほしい」と無意識の願望を抱いていたように思います。絵本をとりいれたワークショップをしていても、「誘導しまい」と頭ではわかっているのに、参加者への質問の言葉などにその気持ちがにじみ出ていたんでしょう。

そんなある日、担当教官にこう指摘されたのです。「ファシリテーターってどんな人だと考えてる? 参加者の視点とファシリテーターの視点って、まったく別なの?」。このひと言をきっかけに、ああ、ファシリテーターの視点ってきわめて参加者の近くにあるんだな、重なってる部分が大きいんだな、と徐々に気づいていきました。

非認知能力というトピックに身を置くとき、ファシリテーターのような大人たちの姿勢は、とても大切です。それはつまり、大人の視線が子どもの視線のきわめて近くにあることです。そして、大人と子どもが時々の体験や感性の重なりを感じて、一緒に面白がっていることでもあります。

そんな姿勢を、なるべく自然にとれていたらいいなと私は思います。そう、バムのように。「バムとケロ」シリーズを開くたびに、できているかな?と、ささやかなチェックをしています。

てらしま ちはる

絵本研究家/ワークショッププランナー/コラムニスト/講師。絵本編集者を経験したのち、東京学芸大学大学院で美術教育の観点から戦後日本絵本史、絵本ワークショップを研究。執筆のほかに、絵本を用いたワークショップや、保育現場での幼児の造形活動観察などを展開する。女子美術大学ほかでの指導も。公開された学術論文のうち、「日本における絵本関連ワークショップの先行研究調査」(アートミーツケア学会オンラインジャーナル11号)は、絵本関連ワークショップの先行研究調査をまとめた国内初の成果である。教育学修士、東京学芸大学個人研究員。note「アトリエ游|てらしまちはる」https://note.com/terashimachiharu

写真:©渡邊晃子

掲載されている情報は公開当時のものです。
絵本ナビ編集部
この記事の関連キーワード
人気連載
JavaScriptをOnにしてください