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絵本で伸ばそう!これからの子どもに求められる力

新入学・新学年! メンタル〈強〉に向かう心得絵本

絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!

この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。

メンタルが強いってどういうこと?

もうそろそろ、新入学・新学年の足音が聞こえてくる頃ですね。入園・入学を目前に控えたご家庭は、期待もさることながら、「新しい生活に慣れるだろうか?」「怖がらずにひとりで帰ってこれるかな?」などなど、親子で不安も大きいのではないでしょうか。

 

そんなとき、物おじせず新しいことにもぐいぐい行けるタイプの子を見ると、「いいな。メンタルが強い子だな」と思ったりしませんか?

我が家の子どもは怖がりで、新しいことには踏み出しにくいタイプ。慎重なのはいいのですが、いかんせん慣れるまでにすごく時間がかかるので、私は余計にそう思ってしまっていました。子育てをしていて痛感しますが、持って生まれた特質は根幹にあるもので、「三つ子の魂百まで」を実感しては「これからも節目節目で大変な思いをするのでは……」とため息が出ることも。

 

ですが最近、メンタルトレーニングをされている方に聞いたところ、「ぐいぐい行ける子」がいわゆる「メンタルが強い子」かというと、ちょっと違うらしいのです。「我が強いこと」と「メンタルの強さ」は別物で、「メンタルが強い」というのは生まれ持った才能ではなく、経験を積むことで後からぐんぐん伸びていくものなのだそう。

それを聞くと、少し励まされますよね(今はやっぱり心配もありますが)。

 

これからの時代をしなやかに生き抜くために育んでほしい「強いメンタル」。今回は、そんな「心のありかた」を親子で考えられる絵本をご紹介します。

自分の気持ちとむきあって

メンタルを強くといわれても、小さい頃は、まず自分がどんな気持ちか、どうしたいのかすらよくわかっていませんよね。で、とりあえず泣いてしまう、みたいなこともよくあります。

そんなよく泣いてしまう子が、本当はどうしたいのかに向き合って強くなっていくお話です。

「泣いちゃえ、泣いちゃえ」

なきむしおばけ

くんちゃんが、お兄ちゃんとおもちゃの取り合いをして泣きそうになっていると、どこからか「泣いちゃえ、泣いちゃえ」と声がしました。はたして声の主は誰なんでしょう。

お兄ちゃんのやっていることを、自分もやってみたくなる くんちゃん。おもちゃの取り合いになり、お兄ちゃんが怒ると目に涙があふれてきました。すると、どこからともなく「ないちゃえ ないちゃえ」という声が聞こえてきて、くんちゃんが泣くと、お兄ちゃんはおもちゃを置いていきました。すると「うまくいったな」なんて声が聞こえてきます。
今度は、お兄ちゃんが犬のごんたの散歩に行こうとして、くんちゃんも行きたくなりますが、お兄ちゃんは迷惑そう。また「ないちゃえ」という声が聞こえてきて「うわんうわん」泣くと、お兄ちゃんはあきらめて一緒に連れて行ってくれました。くんちゃんは、何かやりたいときはいつも「ないちゃえ」という声に従って、思いを押し通せるようになってしまうのです。

あるとき、そんな自分に半信半疑になって「なくもんか」と我慢してみると、ぽたんと落ちた鼻水がふくらみ、「なきむしにしてあげる」と話しかけてきたのです!

お兄ちゃんのやることをなんでもかんでもやりたがるのは弟あるあるですし、小さなうちは語彙が乏しいので、うまく説明できず泣いてしまうこともよくありますよね。ただ、くんちゃんはそれが成功体験となってしまい、自分のやりたいことを押し通すときに“泣く”ようになってしまいます。

この絵本は、なかなかすごいテーマを扱っているなと思いますが、こうした自分の中の「弱さ・ずるさ」といった部分に焦点を当てた絵本って珍しいのではないでしょうか?

もっと強く言ってしまうといわゆる「被害者ムーブ」を、くんちゃんは行っているんですよね。泣いて弱さをアピールし「だからぼくの言うことを聞いてよ」と我を通そうとしてしまっています。ただ、それを繰り返してメンタルの強い子になるかというと……、それはないですよね。

泣いている子に冷たくしろですとか、意見を聞くなということではないですが、こうした試行錯誤の経験を通じて「泣いていても意味ないな」と自分で気づくことが必要なんじゃないでしょうか? ということで、水戸黄門のような感じで「♪泣くのがいやなら さあ歩け~」とくんちゃんは成長していくのでした。

まずは、やってみよう

生きていると、億劫なこと・苦手なこと、いっぱい出てきますよね。辛いことを無理してやることはもちろんありませんが、苦手な食べ物と一緒で、一瞬でもチャレンジしてみたら、もしかしたら好きになる可能性もあるかもしれません。ダメならダメで一つの経験としてありです。

そんな、「ちょっとくらいならやってもいいかなー」と一歩踏み出すメンタルにつながる絵本がこちら。

子どもたちのスモールステップ

プールのひは、おなか いたいひ

水が苦手で泳げない女の子。水泳教室の初日、おなかが痛いと言って見学しました。翌週も尻込みしていると、先生が一緒に入ってくれると言って…。勇気をもって一歩を踏み出し、苦手を克服していく子どもの成長を描いた絵本。

土曜日はプールの日。朝、お腹が痛くなってしまったけれど、ママは、熱がないから水泳教室には行けるはずと言います。不承不承プールに連れていかれたけれど、お腹はずーっと痛いまま。メアリー先生は「無理してはいらなくていいよ」と言ってくれたので、ずっとプールサイドにいて、プールに入ったふりをしてシャワーで髪を濡らしました。次の土曜日もお腹が痛くなりました。メアリー先生は、ちょっとだけ水に入ってみない?」と、だっこしてプールに入れてくれました。すると、プールの水はあったかくてお腹の痛みもよくなった気がします。そして次の土曜日は最初からプールに入って、ひとりで水に浮くことができたのです!

お察しの通り、絵本の中の「私」はこの後一度もお腹が痛くなりませんし、積極的に練習をして水泳がどんどん上達していきます。
小さな目標や課題を一つずつ達成していく手法を「スモールステップ」と言いますが、苦手なことや未知のことを一気にこなすのは、大人でも気が進まないものですよね。教育の現場でも、ハードルをできるだけ低くして少しずつ乗り越え、気づけば「あれ、できてた!」と自信を育むこのメソッドがよく取り入れられています。
この絵本でも、メアリー先生と一歩ずつプールに慣れていくうちに、苦手だと思っていたものがいつの間にか「楽しい」に変わっていました。
気が進まなくても、ほんのちょっとでいいから「経験を積む」。そうすれば、また違った景色が見えてくるかもしれません。そうした経験を積み重ねた後は、何もしなかったときと比べて、きっと心も体もぐっと成長しているはずです。

成功してもしなくても

メンタルが強い人というのは、「物おじしない」「新しい環境にも飛び込める」、そんなイメージがありませんか? ですが、誰だって何も知らないことや場所に飛び込むのは勇気がいるもの。そんな自分を後押ししてくれるのは「今の自分から変わりたい!」という気持ちなのかもしれません。

そんな気持ちを描いた絵本を2作ご紹介します。

小さなねこの一念発起!

ばけねこになりたい

むかし、ちいさなねこがいた。ねずみにまでばかにされて、「くやしいなあ」と思っていたら、ばけねこの話をしって…。かわいいおばけの絵本。

むかしむかし、あるところに小さなねこがいました。小さいので大きい犬はバカにするしねずみまで馬鹿にしてくるしまつ。こわい“ばけねこ”の話を聞いて、「ばけねこになりたい!」と思ったねこは、なり方を調べ、おばけはみんな墓場にでるからばけねこの親分に会えるかも、と墓場に向かいました。すると墓場にはばけねこはおらず、ゆうれいが泣いているのに出会いました。ゆうれいは「足を無くしてしまったの」と言うので一緒に探してあげるのですが……。

小さなねこが、一念発起して行動を起こしていくお話です。

そしてもう1作は、新しい自分になってみたかったガマのお話。

「いつか、のぼっていける気がするんだ」

ガマ千びき イワナ千びき

滝を登ろうとしては、途中で落ちてしまうイワナ。ガマは「登れっこないよ」と呆れつつも、イワナのひたむきさに憧れもしていた。そして、ある大嵐の日、ついにイワナは、滝を登っていってしまう。残されたガマがとった行動は?

とある滝つぼで、ガマはイワナに出会いました。イワナは滝つぼの底から勢いをつけて滝をのぼろうとしますが、途中までのぼっては落ちていきます。何度も繰り返すイワナにガマは「どうしてのぼろうとするの」と声をかけました。すると、「あたらしい自分にであえる気がするんだよ」とイワナは言います。そうしてイワナは傷だらけになっても挑戦し続けました。そんなイワナを見てガマはあきれて怒りさえ覚えましたが、あきらめることのないイワナのことがうらやましくもあり、だんだん憧れに変わっていきました。そしてある日、滝つぼからイワナの姿が消えました。ガマはついにイワナが滝をのぼったと思いました。そして、ガマの心の中がポッと燃え立ち……。

この2作のお話の、ねことガマの挑戦が成功したかどうかは、ぜひ絵本を読んで確かめてほしいのですが、どちらも「変わりたい」という一念と、「新しい自分に会えるかも」という期待が、挑戦する不安や、環境を変える億劫さを振り切る力となりました。メンタルの強さは、そんな繰り返しが土台となっていくのではないでしょうか?

「期待」が強さに変わっていく

他者からの期待、親から子への期待、相手に期待することはプレッシャーになったり相手へのコントロールとなったり、現代はあまりいいことには捉えられていません。ですが、それは自分と相手の期待の方向性が異なるから問題なだけであって、期待や賞賛は、「そうありたい」と双方が一致すれば、前に進む原動力となるのではないでしょうか? 最後に、そんな名作をご紹介します。

教科書にも載る名作物語

きつねのおきゃくさま

おなかを空かせたきつねは、出会ったひよこを太らせてから食べようと考え、家に連れ帰ります。ところが、ひよこに「やさしいおにいちゃん」と慕われ……

むかしむかし、はらぺこきつねが歩いていると、やせたひよこがやってきました。太らせてから食べようと思い声をかけますが、ひよこに「きつねおにいちゃん」と呼ばれ、きつねは思わず心が震えます。そして家に連れ帰って食事をあげると「やさしい おにいちゃん」と言われ、ぼうっとなってしまうのです。

そのあと、丸まる育ったひよこは偶然出会ったあひるを「しんせつな おにいちゃん」のところへ連れていき、ひよことあひるは偶然出会ったうさぎを「かみさまみたいな おにいちゃん」のところへ連れていき、いつのまにかきつねは3匹を神様みたいに育てることに。そこに、丸まる太った3匹の匂いをかぎつけた、おおかみがやってきて……。

ひよこたちをだまして食べてしまおうと考えていたきつねが、「やさしいおにいちゃん」「しんせつなおにいちゃん」「かみさまみたいなおにいちゃん」と賞賛されたことにより、いつのまにか本当に「かみさまみたいな自分」となっていく、教科書にも載る、あまんきみこさんの不朽の名作です。

 

最近でもSNSで話題になるくらい有名な絵本ですが、名作なだけに様々な解釈ができると思うんです。例えば一般的には「卑劣なきつねが相手の信頼によって神様のように変わっていくお話」と思いますが、私はそもそも「やさしいおにいちゃん」とひよこに呼びかけられてぼうっとなったという描写で、「きつねは本当は“しんせつなきつね”でありたかったのでは?」と思いました。そうありたかった自分を素直に期待されて求められて、どんどん「そうある自分」がうれしくなっていったのだと思うのです。それが最後に強さとなって「ゆうかんな おにいちゃん」となっていったのだと。

あまんきみこさんは人間の本質を丁寧に紡ぎあげ、二俣英五郎さんはきつねの心の変化を静かに朴訥に描かれ、この絵本は読んだ人のすべてが自分の心の奥底と向き合わされる、心ゆさぶる一作です。

さいごに

「メンタルを強く」という風潮は、それこそバブルが崩壊して世情が不安定になった時代から、ずっと続いていますよね。ただ、何が本当の強さにつながるのかと言われると、なかなか難しいものです。私も手探り状態ではありますが、最終的には小さな「経験」を積み、ハードルを乗り越えるための「知識」を得て、自分への自信を鎧のように身につけていくしかないのかな、と感じています。ですから、人生経験の少ない子どもたちが少し弱々しく見えるのは、むしろ当たり前。そう自分にも言い聞かせる毎日です。

 

先日開催されたミラノ・コルティナオリンピックでも、アスリートの皆さんは「メンタルつよつよ」で大変勉強になります。なかでも、フィギュアスケート女子シングル金メダリスト、アリサ・リウ選手のコメントは圧巻でした。「ミスをしても、自分の物語や芸術が失われるわけではない。悪い物語もやはり物語であり、それは美しいもの」(要約)――。全世界の注目が集まるプレッシャーの中で、「ノーミスでなければ」と気負うのではなく、「それも含めて私の物語なのだ」と言い切れる強さ。その言葉の重みに、彼女が積み重ねてきた背景を感じずにはいられませんでした。

 

人生は玉石混交。親がどんなに気を配っていても、リレーの選手に選ばれなかったり、希望の楽器になれなかったりと、思い通りにいかないことは多々あります。ですが、子ども時代に紆余曲折を経験し、それを通じて自分や周囲を知り、「どんな自分になりたいか」を考えていく。その積み重ねこそが、本当のメンタルの強さなのではないでしょうか。

 

かくいう私も、日々「よわよわメンタル」をメンテナンスし、つなぎ合わせている真っ最中です。今回ご紹介した絵本を読みながら、きつねのおにいちゃんのように「ゆうきが りんりん」とする気持ちを親子で味わい、将来の自分に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

徳永真紀(とくながまき)


児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。

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絵本ナビ編集部
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