複雑な心理を読み解く。洞察力絵本
絵本には、子どもに働きかける様々な力が備わっています。絵本がきっかけで、新しいことにチャレンジする気持ちを持てたり、苦手なことに取り組もうと思えたりもします。子どもたちの世界を楽しく広げてくれる絵本は、子育て中のパパママにとっても、大きな味方になってくれること間違いなしです!
この連載では、とくに「これからの時代に必要とされる力」にフォーカスして、それぞれの力について「絵本でこんなふうにアプローチしてみては?」というご提案をしていきたいと思います。
心のモヤモヤと言葉にならない感情をひもとく
今年は秋雨が続いた後は早くもぐっと秋が深まってまいりました。そんな、ちょうどいい気温で家にいる機会も多いときには、ゆっくり腰を落ち着けて、複雑な心理や構造を読み解く「洞察力絵本」を読んでみてはいかがでしょうか?
気ぜわしいときや疲れているときは、あんまり複雑な人間模様や構成の絵本は手に取りづらいですが、おうちでゆっくり過ごせるときこそ、時間をかけてじっくり読み解くのによい機会です。
何より、同じ年くらいの子ども達が集団で生活していると、「なかよしだけれど負けたくない」「つい存在を追ってしまうけれど、友だちになりたいとはちょっと違う」なんていう単純に説明できない心理や関係がたくさん出てきます。そんな気持ちを言語化する手がかりとしても、洞察力絵本はおすすめです。
今回はそんな、じっくり読んで人間心理や世の中の構造を考えられる絵本をご紹介いたします。
なみだのその先は
なぜ涙は出るのでしょう? 悲しい気持ちにわざわざ反応したくはないし、涙なんてただの生理現象、何一ついいことはないのに……、そう思うことってありませんか? まずは、そんな「涙」について考える絵本を1冊。
主人公はねずみの女の子。授業で先生の言うことがわからなくて、涙がこぼれそうになります。一人になれる場所にいくと、涙がひとつぶ落ちました。お気に入りのハンカチは涙と鼻水でずっしり重たくなりました。そしてハンカチを天井の穴めがけて思いっきり投げました。隠しておいたパンのみみを泣きながら食べました。のどがつまってあまり食べられないので、パンのみみで涙をぬぐって、これも投げました。すると、パンのみみを鳥がキャッチして持って行ってしまいました。びっくりしてもう一回投げてみると、また鳥がキャッチしますが「しおけがたりない」と言われます。今度のパンのみみには涙の塩気がたりなかったようです。そこでもっともっと泣いてみて……。
苦しかったり悲しかったりするので涙は出ますが、それがなぜなのかうまく言語化できないときってありますよね。私はつい子どもに「泣いてばかりじゃわからないでしょーが」と言ってしまいがちなんですが、無理に言葉にしなくても「泣く」だけのことにフォーカスしてもよいのかもしれません。ねずみの子も自然に涙があふれ出ますが、泣いているうちにお腹の奥にあるかたまりのようなものが涙となって出ていきます。涙というものは医学的にもデトックス効果があるそうです。いつか泣き止んだとき、どんな気持ちになっているのでしょうか?
言葉にできない関係
人間関係って世の中で一番難しいもののひとつですよね。「友だち」という定義だけでも「趣味はあうけど、話していてもおもしろくはない」「自分はすごく好きだけど相手からは知り合いどまり」などなど、はばひろーいグラデーションの中に関係性があります。
そんな複雑な友だち関係を考えるきっかけとしての絵本をご紹介します。
こんな子、好き? 嫌い?
おさななじみの、みかりとしずくはいつも一緒。みかりはおしゃべりで、しずくはおっとり。みんなから親友と言われるけれど、みかりのおしゃべりでしずくも一緒に注意されるし、取っておいた好物は取られるし、他の子と遊ぼうとしていると割り込まれるし、しずくはだんだんもやもやしていきます。そんなことが続いて、ついにしずくは「みかりちゃんなんて、だいきらい」と言ってしまうのです。
大人は子どもたちに対して、クラスメイトだったり同級生だったりするだけで「お友だち」とざっくりくくってしまいますが、そこには序列を競い合ったり、グループから外れたいのに無理やり一緒にいたりと、“お友だち”関係というものは複雑です。しずくだって、いろいろあってみかりとの関係を切ろうとしますが、かといって彼女をつらい目にあわせたいわけでもない、なかなか複雑な心理を抱えています。
うちの子どもなどは「おれに友だちはいない。知り合いがいるだけ」などと言いますが、それを聞きながら「へーへーそうですか」と流しつつ、社会は複雑な関係性の集まりなわけで、いろいろ経験してがんばってねと思う日々です。
絶対的な価値観なんてない
「うそはだめ」、という価値観はもちろん大事ですが、かといって「本当のことばかりを言う」というのも正しいことなのでしょうか? 「私は本当のことを言っているだけよ」という人がいたとして、その人はけっこう人から嫌がられていたりもしませんか?
そんな「あたりまえ」と言われる価値観を「本当にそうですか?」と考えさせてくれる絵本がこちら。
相手の気持ちを思いやること
リピーはお母さんにうそをついて友だちと遊びに行こうとしました。はじめてお母さんについたうそ。おなかが苦しくて、涙があふれて……。その日から、リピーはほんとうのことだけを言おうと誓います。ところが、正直になろうとすればするほど、友だちを傷つけてしまうことになり、リピーは、混乱します。単なる正直ではなく、まず相手の気持ちを思いやること。大切なメッセージが伝わる一冊です。
リビーは、馬のオルボスの世話をしたか聞かれ「やったわ」とうそをついてしまいました。ママに「ほんとうのことをいってごらんなさい」と言われて苦しくなり、「かえってきたらすぐにやろうとおもってたの」と本当のことを言うと気持ちが楽になりました。そして、「これからは、ほんとうのことだけいおう」とリビーは誓います。
それからリビーは、ルーシー・メイのくつしたに穴があいていることをみんなの前で言ったり、先生にウィリーが宿題をやっていないことを伝えたり、デイジーがクリスマスの舞台でセリフを忘れて泣き出したことを言ったり、本当のことを言い続けました。すると、学校が終わるころにはだれもリビーと口をきいてくれなくなったのです。リビーはしょんぼりしてママに相談します。そして、だんだんと「ほんとうのことをいう」ってどういうことなのかに気付いていくのです。
「うそつきは泥棒の始まり」「正直は一生の宝」など、その価値観はその通りではありますが、人間社会は本当のことを言っていれば済むという単純なものではないですよね。「だって本当のことじゃない」と思っていても、伝え方や状況次第では相手を傷つけかねません。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも話題となったセリフ「わざと言っているのなら人が悪いし、わざとでないなら気遣いがなさすぎます」は、まさに!と思いますが、本当のことだとしても、それを伝えるときは状況を考えねばいけません。大人の社会でもそのあたりはなかなか難しいものですが、そんな「絶対これが正しいよ」という価値観も客観的に一度考えてみて、という深いテーマの絵本です。
物語の構造を楽しもう
ここで、人間心理や関係性への洞察ではなく、物語の構造を考えて楽しむ絵本を1冊。
“かくさん”は頭も体も目も鼻もすべて四角い“しかくいひと”で、“しかくいまち”に住んでいます。周囲もしかくいひとばかり。しかくいひとには元から口がありません。そして文字もありません。相手に何かを伝えるときには絵をかいて知らせます。さらに、悲しいとかうれしいという気持ちもほとんどありません。ですので、みんなとても穏やかで静かで平和な毎日を過ごしていました。
ある日かくさんは、自分とは見かけの違うものが川を流れてくるのを発見します。「その子」を川から引き上げましたが、かくさんよりも小さくて丸くてやわらかそうでした。それはいわゆる人間の子どもで、目を覚まして話し始めましたが、言葉を話す人間の子に、かくさんはびっくり。そして、その子はどこから来たのかもわからず自分の名前も思い出せず、その子を家に連れて帰りましたが、かくさんは文字も言葉もつかえないので意思が通じ合いません。二人は工夫して絵で伝えあい、お互いの気持ちが少しずつわかるようになっていきますが……。
この絵本の世界「しかくいまち」は設定からファンタジックですが非常に緻密に考えられていて、すべてが四角い中、口だけがないため言葉が話せず文字もなく、だからこそけんかもなく穏やかで、その反面愛し合ったり仲よくしたりもありません。そんな世界に見かけも行動もまったく違う人間の子がやってきて、かくさんは初めていろいろな気持ちを知っていきます。
二つの世界、まったく違う二人の人、それが共鳴しあうとどうなるか、やわらかなイラストとあいまって、するすると物語世界に引きこまれていきます。四角い世界とはなんなのか、その子はいったいどこからやってきたのか、二つの世界の対比と融合を楽しみつつ、かくさんとその子は短い邂逅で何を得たのか考えていくのもおもしろいですよ。
なんであの子が気になるの?
最後に、やっぱり一筋縄ではいかない人間心理を描いた絵本をご紹介します。
私のクラスには“しっこさん”というあだ名の子がいます。本当の名前は違うけれど、おしっこをもらしてばかりいるから。私も心の中で“しっこさん”と呼んでいます。しっこさんは時々私のじゃまをするから、そんなときはしっこさんへの悪口が体中で暴れまわってしまいます。でも、たまに感心することを言って一緒に笑いあえるときもあります。手紙をくれることもあります。そんなとき、私は学校で大失敗をしてしまい……。
おしっこをもらしてばかりで、少ししかしゃべらず怒ったみたいな顔をしている“しっこさん”。なかなか強烈なキャラクターですが、私とは似た者同士なのか小競り合いもよく起きます。ですので心の中で“しっこさん”と呼んで小バカにしていたり気に食わない感じだったりしているのに、ちょっとしたことで感心したり一緒にいて少し楽しくなったり、気持ちはめまぐるしく変わっていき、最後にはこっそり心の中で“しっこさん”と呼んでいたことを悔やむようにまでなります。
その時その時で、相手に対する印象も、自分の気持ちもどんどん変わっていくさまが描かれています。人の心の不思議さ・機微が見事にあらわされた、深く考えさせられる絵本です。
さいごに
園や小学校に入れば、もうそこは集団生活の真っただ中。なかよくなりたいけれどあっちからは避けられたり、一緒にいるけれど別に楽しい関係でもなかったり、単純に「友だち」とは言い切れないいろいろな関係が集団にはあります。小学生にもなると1軍・2軍といったスクールカーストの概念を持ち始めますし、LINEグループに入れた・入れないみたいなトラブルもだいぶ早くから起こります。
ただ、そうしたトラブルには古来から変わらない、人間に備わっている複雑な感情・心理が元にありますよね。ですので、時代はちがえど「その状況はお互いのこんな気持ちがあるからかな?」「このよくわからない気持ちは、どう言葉であらわせる?」など元々の人間心理を読み解いていくのも、もやもやを形にする一つの手かなと思います。
子どもの国語の授業では、「イライラした人」「恥ずかしがりな人」など性格を表す言葉が書かれたくじをそれぞれ引いて、引いた人はその性格を演じながら授業を受けるという試みがたまにあるそうです。自分とは違う人格を演じることで物語文の理解を進める目的があるそうなのですが、「自分」というものを一度手放して他者の目から他人の状況を見てみると、「あ、こういう感じ方もあるんだ」など、新たな発見もありますよね。今回ご紹介した中では、『ほんとうのことをいってもいいの?』は、大人の世界でもこうしたことって多いな、とめちゃくちゃうなずいた作品ですが、社会の中にいるということは、複雑な心理や状況をとらえて対応して生きていくということになります。
これらの絵本で疑似体験をしながら、注意深く生きるというよりも、いろいろな考え・シチュエーションを知ることで、人生をより深く楽しむ手がかりになったらいいなと思っています。
徳永真紀(とくながまき)
児童書専門出版社にて絵本、読み物、紙芝居などの編集を行う。現在はフリーランスの児童書編集者。児童書制作グループ「らいおん」の一員として“らいおんbooks”という絵本レーベルの活動も行っている。7歳と5歳の男児の母。
|
この記事が気に入ったらいいね!しよう ※最近の情報をお届けします |
絵本・本・よみきかせ 




ライフスタイル